第6話 僕の夜は遅いし、妹の朝は早い

 プルプルプルプル


「頭なでなでしてください」と甘えていた海未が「満足しました⋯⋯おやすみなさい、兄さん」と言って僕の部屋を去って数十分。


 明日は海未より早起きして色々する必要があるから今日は早めに寝よう! なんて思っていると、スマホが着信音を奏でだす。


「もしもし?」


「はーい、もっしー! こちら梓だよ、慶太時間大丈夫?」


「全然大丈夫だけど……声量が大丈夫じゃないかも」


「にへへ、ごめんごめん! 以後気をつけまーす!」


「本当に気をつけてる、それ?」

 そう相変わらずの大きな声で言った梓に僕は電話越しで見えないけど苦笑いを浮かべた。

 梓は電話の時はいつもこうだ、昔から変わんない。


「ふふっ、気をつけてるよ、気をつけてるよ! ところでところで慶太さんや。明後日の予定は覚えてらっしゃいますか? 何をするか覚えていますか?」

 電話の向こうから笑い声とともに、明日の予定を聞く梓の声が聞こえてくる。

 海未も言ってたけど、僕そんなに忘れっぽくないよ、大丈夫ですよ。


「覚えてるよ、10時半に駅前集合でしょ? それで動物園とか色々お出かけする、これが土曜日の予定。大丈夫だよ、そんなに記憶力悪くありませんから」


「お、覚えてたね、OKだね! 心配してたけど、慶太が覚えててくれて安心だ! それじゃあ土曜日はビシッと決めて駅前10時半ね! 明日も連絡すると思うけど、よろしく頼むよ、絶対来てよね!」


「ふふっ、OK! それじゃあ、梓また明日ね。おやすみ」


「うん、おやす……じゃなくてじゃなくて! ちょっと待ってよ、慶太、そんなあっさり電話切るかね! もうちょっとお話ししようよ、久しぶりの電話じゃん! 中学校卒業してからしてなかったでしょ、夜の電話!」

 電話を切ろうとした僕を引き留めるように梓の少しむくれた声が聞こえる。

 明日は朝早くなりそうだからそろそろ寝ようかと思ったんだけど……


「むー、それ言われちゃうと引き留めづらいけど……でもでも! もうちょっとくらいお話ししようよ、業務連絡だけじゃつまんないじゃん! という事で少しだけ私の世間話付き合ってもらうからね! よろしく頼むよ! 拒否権は君になし!」


「……もう、わかった。ちょっとだけだよ。そうだな……11時半くらいまでなら大丈夫かな?」


「もうちょっと欲しいけど……でもしょうがない! それじゃあマシンガンで話すよ、ちゃんと私について来てね、慶太! それじゃあ行くよー!」

 その言葉とともに、本当のマシンガンのごとく色々な話を繰り出してくる梓。


 昔のパジャマと同じなら、今頃パーカーの紐クルクルしながら話してるんだろうな、ってわかるくらいのマシンガン。

 ホント、こういう所も中学校の時から全然変わってないな、梓は。


「それでね、うちのお父さんが慶太を……ってちゃんと聞いてる? 私のマシンガンにちゃんとついてこれてる?」


「ついていけてるよ。どれだけ梓の話聞かされたと思ってるの?」


「ふふっ、それもそうだね。それじゃあ、さらにギア上げるよ~!!!」

 梓の話すスピードはさらに速くなって。

 電話越しに聞こえる梓の楽しそうに話す声は全然途切れる気配はなくて。

 僕も久しぶりに聞く電話越しの梓の声が懐かしくなって、なんだか聞き入ってしまって。


 結局予定の11時半なんてすっかり超えて、12時を回っても電話の声はやまなかった。



 ☆


 バクシンバクシンバクシーン! バクシンバクシンバクシーン! バクシンバクシンバクシンシーン!

「……うるさい、起きます、起きますから……止まれ、止まってください!」

 朝からうるさく鳴り響く目覚まし時計をカチンと止めて、ゆっくりと体を起こす。


 昨日は早く寝ようと思ってたけど、結局12時回っちゃったし、起きる時間も……お、すごいぞ、今日の僕! ちゃんと目覚まし第一弾の6時に目が覚めてる!


 確か海未はいつも6時15分に起きる、って言ってるし、これは僕の方が起きるの早いでしょ、多分!

 今日くらいは僕にいろいろやらせてください……15分で何か変わるか、って言われたらよくわかんないけど、何かしらは出来るでしょう!


 そんな事を考えながら、ルンルンと弾むステップで階段を駆け下りる。

 鼻歌響くリビングの方からは、いつもの目の覚める美味しいみそ汁の香りが漂ってきていて……ってあれぇ?


「おはようございます、兄さん。今日は早起きですね……でも、海未の方がもっと早起きです」

 キッチンを覗くと、いつも通り可愛いウサギのエプロンを着けた海未がそう勝ち誇ったような笑みを浮かべて待っていた。


「……何時に起きたの、海未? いつもはまだ寝てる時間だよね?」


「いつもは寝てますけど、今日は兄さんが少し張り切っていましたので。いつもより1時間早く起きて準備させていただきました。お弁当もほとんど、完成しています。もちろん、朝ごはんも、後はご飯が炊ければ完成です、いつでも食べられます」

 クルクルと味噌汁をかき混ぜながら、淡々としたリズムで、でもどこか嬉しそうに。


 1時間早くって……そんな簡単に出来ることでもないだろうに。

 寝不足とか大丈夫かな?

 疲れてるともいってたし……大丈夫かな、海未の体調。


「心配ありがとうございます、兄さん。でも大丈夫です、昨日は兄さんのおかげでリラックス出来たのでゆっくりしっかりくっきり眠ることが出来ましたので。それに兄さんに朝ごはんとかお弁当を作るのは私の趣味みたいなものです、好きでやってるんです。なので海未は元気です、早起きなんて関係ありません……見てください、私の手のひらを。元気に血潮が流れています、海未はものすごく元気です」


 少し早口で、元気をアピールするようにそう言いながら、僕に向かって手のひらを見せてくる。

 真っ白な手のひらにキレイに血管が流れているのが見えるけど、多分普段通りの海未の手。普段知らないけど。


「わかりましたか、兄さん? 取りあえず、海未は元気なのです、兄さんのおかげでもあるのです……しかし、一つだけ問題があります。早起きをしたことである問題が起こってしまいました」


「まあ、海未が元気ならいいんだけど。でも早起きの問題? 早起きは三文の徳、なんてことわざもあるし、早起きするのは良いことだよ! 散歩とか、ジョギングとか朝にすると涼しくて気持ちいいし、朝活楽しいよ! したことはあまり無いけど!」

 まあ夜に散歩するのもいいんだけど。

 でも朝には朝にしか味わえない楽しさってのもある気がする。


「……それもそうですね、兄さんと一緒にいれる時間も増えますし。という事でやっぱり大丈夫です、問題は海未の中で解決しました、ナッシングになりました……ところで兄さん、今から時間は大丈夫ですか?」

 うんうんと頷いてた海未が、僕の方をまっすぐ見てコテンと首を傾げる。

 今日は早起きしたし、時間はいつもより長く使えるよ!


「ふふっ、そうですよね、兄さんが言ったことですもんね……という事で兄さん、今から少し朝活しましょう。海未と一緒にお散歩、行きませんか?」

 首を傾げたままの海が、そう言ってニコッと笑った。



 ★★★

 めっちゃ長くなったので半分に切りました。

 続きは明日の朝か昼頃に投稿できればいいな、と思っています。


 ☆やブックマークや感想などいただけると嬉しいです!!!



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