ポッキーゲーム

 ふにっ

「……何?」


「ふふふっ、ぼーっとしすぎだよ、慶太! ねえねえ、ポッキー食べない? ボクと一緒にポッキー食べない?」

 昼休み、良哉が先生から呼び出しをくらったので、いつもの中庭でぽけーっとしていると、ほっぺをふにっとしてくる細い指。

 そして耳に残る高めの声とひらひらと目の前を通る黒くて細い物体。


「……急にどうしたの、彩葉、どんな心変わり? ポッキーは大好物でしょ、デザートでしょ? それ貰うなんて悪いよ、彩葉が食べなよ」

 振り返ると友達の福永彩葉ふくながあやはが少し長めの髪をふわっと揺らしながら、いたずらな笑顔とポッキーの箱を携えて立っていた。

 普段はお弁当終わりにペロッと食べるのに……どういう心変わり?


「まあ、大好物なんだけどさ。でもでも、たまには友達とシェアするのも悪くないって言うか? それに慶太フラれたみたいだし、慰めポッキーしてあげようかな、って思ってね! どう、ボクとポッキー?」

 赤い箱をペコっと顔の横において、首をコクンと傾げる。

 なんか彩葉がこんなこと言うのは珍しいし、ありがたく受け取ろうかな。


「最初から遠慮なんてしなくていいものを……という事で、慶太は僕と一緒にポッキータイムだね……んっ」

 ニシシと笑ってポッキーの透明な袋を破った彩葉は、そこから一本取り出して僕に渡してくれる……のではなく持ち手の部分を咥えると、目を瞑って、何かを期待するように僕の方に顔を向けてきた。


「……彩葉さん、何してらっしゃる?」


「ん? せっかくだからポッキーゲームしようと思ったんだよ、慰めポッキーゲーム! 大丈夫、ボクが持ち手側、慶太がチョコレートの方だから、ずっと美味しいままだよ! だから、大丈夫安心しなされ! だから、んっ! ほら、早くそっちかじって」

 自信満々にそう言ってポッキーと体を近づけてくる彩葉。

 少し赤く染まった白い肌が近づいてくる。


「……いやいや、そう言うわけじゃなくてさ。まずいでしょ、ポッキーゲームは」


「まずくないよ、美味しいよ? それに友達だから大丈夫でしょ? それとも、ボクとポッキーゲームするの嫌?」


「うん、嫌だ」


「なんで即答!? 良いじゃん良いじゃん、やろうよ、ポッキーゲーム! なんでなんでなんで、しようよ、慶太ポッキーゲーム!!!」


「嫌だって、なんか罰ゲーム感凄いし、嫌です」


「なんで、罰ゲームじゃないでしょ! ボクこんな可愛いのに罰ゲームなんて嘘だ! 罰ゲームじゃないもん、ご褒美だもん!!! しようよ、ポッキーゲーム!!!」


「いや、罰ゲームだって。だって彩葉、お前」


「だってボクがなんなのさ」

 ぷくっとほっぺを膨らませて僕の方を見つめる。

 この顔に騙されそうになるけど、でも⋯⋯


「……いや、彩葉男じゃん。正真正銘男じゃん」

 少しため息をつきながら、なんでなんでと駄々をこねる彩葉のの脚をぺちぺちと叩く。


 名前が彩葉で顔は可愛い女顔、髪はボブカットの低身長でハイトーンボイス、真っ白な肌……特徴だけ見れば確かに女の子っぽく見えるけど、正真正銘男だ、古事記にもそう書いてある。

 普通に健康診断も一緒に受けるし、完全に男だ、趣味も男っぽいし完全に男だ。


「確かにボクは男だけど! けどけど、ボク可愛いでしょ、男でも可愛いでしょ! だからいいじゃん、ポッキーゲームしようよ、慶太!」


「だから嫌だって。男とポッキーゲームなんて完全罰ゲームじゃん。だからヤダ、可愛くてもヤダ」


「でもでも! ボクは可愛いから実質女の……」


「あの、ちょっといい? あなた千尋さんの元カレと噂の高梨君?」

 出来ない理由を言ったのにまだぷーぷ―文句を言ってくる彩葉の言葉を遮って、聞こえてくるのは聞いたことのない声。


 声のした方に目をやると、知らない女の子二人が……誰、君たち?

「私たちの事はどうでもいい、あんたに質問があるの。あんた、千尋さんについて良くない噂とか流してるでしょ?」

 僕の質問に冷たい目線を返した二人は、これまた氷のような目つきで僕の方をぎろりと睨みながらそう聞いてくる。

 え、良くない噂? むしろ流さない様にしてるんだけど。


「嘘言わないで。千尋さんが浮気しただの、罵詈雑言をはいてあんたをフっただの、そう言った良くない噂が流れてるの、この学校で……あんた以外で誰がそう言った噂を流せるの? 教えて、高梨君?」


「え、それは……」

 噂じゃなくて事実だけど。

 でも、この話、梓以外には誰にも話してないし、梓は学校違うし。

 誰が流したんだろうね、本当に?


「……とぼけるつもり? 見苦しい、気持ち悪い、ダサい、早く認めた方が良いのに、自己保身に走って……マジでキモいよ、あんた。あんたが嫉妬とか、仕返しのためにそう言った嘘の噂流したの、私たち知ってるんだから」


「いや、だから……」

 話してないんだって。

 それに仕返しなんて考えてないよ、そんな誰も幸せにならないことなんて考えてませんよ、本当に。

 色々あったかもだけど、千尋には幸せになった欲しいからね、新しい彼氏と!


「……なにそれ、きっっしょ!!! まだ言い訳してるし……ホント、キモいよ、君。フラれるのも納得だわ、こんな男。ウミガメの方がもっと頭がいい、聞き分けもいい……あんたが犯人だって証拠見つかってるんだから、早く「ちょっと待って、なんでそんなに慶太の事悪く言うの! 慶太困ってるでしょ、後慶太はキモくないから! 慶太は全然キモくないから!」

 色々ごちゃごちゃ言いながら僕を追い詰める二人の手をバシッと彩葉が弾く。


「……何、あんた。この男庇うの? 自己保身で嘘ついて気持ち悪い男だよ、そいつ? それに庇ったら……どうなるかな?」


「だから慶太は気持ち悪くないって! それに慶太は嘘つかないよ、そこはボクが証明する! あとね、慶太はそんな人を乏しめることもしないよ、たまにボクに酷いこと言うくらいで! たまにボクには辛辣だけど、そんな事絶対にしないもん! だから帰れ、これ以上慶太の事色々悪く言うなら帰れ!!! 帰れ帰れ帰れ!!!」


「……ハァ? 何あんた? 私たちに逆らうつもりなの? 言っとくけどね、私たちこの学校では結構権力あんのよ? それに逆らうなら……」

 僕の事を必死にかばってくれる彩葉に対して、下賤な笑みを浮かべてそう言う二人。

 あ、それ一番言っちゃいけないやつなのに。


「それならボクのおじいちゃんは学校の理事長だけど? 僕に逆らったらもっとやばいと思うけど……どうする?」

 首につけたペンダントの中から家族写真を取り出して、ビシッと顔を決める彩葉。

 彩葉のおじいちゃんは謎に露出の多い理事長、お父さんは校長先生。公立高校なのに何故かいる理事長。

 家はでかいし、めっちゃキレイ。


「……今日のところは退散するけど! 覚えときなさいよ、あんた達! ……あいつが浮気してんじゃ、いや、でも制服男……」

 理事長の写真にビビったのか何かをブツブツ言いながらそくさくとさっていく二人。

 これ言った方が良いのかな、真実……いや、でも千尋がいろいろされるのは嫌だし、千尋にはちゃんと幸せでいてほしいし……難しいな、本当に。


 ☆


「あーん、慶太怖かった! すっごいあの二人怖かった! 慰めて、ボクの事えらいえらいって慰めて! 怖いのに頑張ってえらい! って褒めたたえて!」

 二人が完全に見えなくなった後、さっきまでの威勢の良さはどこへやら、ふるふるとぶりっこのように体を振りながら彩葉が僕の方を潤んだ上目遣いで見上げてきた。


 もう、素直にありがとうって言おうとしたのに、これじゃあ……いや、でもありがとうだ、それ以外に言う言葉なんてないよ、絶対。


「ありがと、彩葉。僕のために色々言ってくれて、僕を助けてくれて……ホントにありがとう。良かったよ、彩葉がいてくれて。頑張ってくれてありがと、本当にすごいよ、えらいよ彩葉は! 本当にありがとうございました! 頑張ってえらい、えらいぞえらいぞ彩葉!」


「ふふ~ん! ふふふ~ん、当然のことをしたまでだよ、友達が困っているなら助けないと、でしょ? でもでも、ボクは慶太のために頑張ったんだから……もっと褒めてくれてもいいんだぞ! 何かお礼してくれてもいいんだぞ!」

 ふんすふんすと鼻息を荒くしてチラチラと僕の方を見ながらテンション高くそう言う彩葉……やっぱりどっか海未に似てるんだよな、彩葉。だから男友達がほとんどいない海未とも仲いいんだろうけど。


「本当にありがとうね、彩葉。そうだね、お礼に……」


「待って、お礼はボクに決めさせて! ボクが慶太を助けたんだからボクにお礼を決めさせてよ、ボクが決めるよ!」

 言葉を手のひらで遮って、そう言った彩葉が取り出したのはいつもの赤い箱。


「という事で、お礼はボクとポッキーゲームだよ、慶太! 僕とアツアツポッキーゲームするんだよ、今すぐ! ……んっ、んっ、んんん!」

 さっきと同じように持ち手の方を咥えて目を瞑りながら、んっんっとさっきより強く僕の方に顔を押し付けてくる。


 ……ホントに彩葉は肌キレイだし、まつ毛長いし顔整ってるし、すごいな、マジで。

 でも、彩葉は男だし、それに……


「……彩葉、それ以外で。ポッキーゲーム以外でお願いしたいかな?」


「なんで! なんでしてくれないの、慶太のケチ! はぐはぐ……ってポッキーも食べちゃったじゃん、どうしてくれるのケチ慶太!」

 そう言って怒ったように、でも楽しそうに嬉しそうに僕に向かってチョコレートのついた舌をペロッと出す彩葉に僕も「ごめんよ」と笑みを浮かべた。




「……それなら、買い物付き合ってもらうよ。ボクの買い物、付き合ってもらうよ」


「いいよ、それくらい……何買うの?」


「……ボクと慶太の二人で買い物に行くんだ……言わせないでよ、恥ずかしいから」

 そう言ってさっきと同じような笑顔で、同じように舌をペロッと出した。



 ★★★

 おまけ(?)みたいな話です。

 僕が男の娘好きだから出したいな、って思ったので急遽書いた話です。


 感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!

 ☆が欲しいです!


 今日多分もう1話短いのがあがります。

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