第14話 復讐するの?

「……と言うようなことがあってね。よくよく考えてみると、あの時僕の事蹴ったのは千尋だったのかな、って。他のやつだと思ってたけど、多分千尋だな、って……まあ、そう言うわけです、良哉さん」

 残ったパフェをパクパクと食べながら、思い出した記憶の断片をぽつりぽつりと良哉に伝える。


「……と言うわけでじゃないんだけど。怖いんですけど、なんでそれで勘違いしてたの? 恐怖感じるんだけど。やばくねぇすか、それ?」

 ミックスジュースを啜りながら、少し震える声で呟くのは目の前の良哉。

 いや、さっきヒント言ってくれたじゃん、そっちから。


「ほら、さっき良哉言ってたでしょ? ピンチの時ほど人は記憶を美化したがる、って……だからさ、それじゃないかな? ピンチのタイミングで千尋が良い感じにあらわれて、良い感じにピンチが去ったからさ。だから美化して捉えていたのかと」


「にしても限度あると思うけどなぁ……殴るける、暴言……過ぎたことだからちょっと正確な話はあれだけど、ちょっと俺には慶太の認識、よくわかんないや」

 まあ、納得できない良哉の気持ちもわかるけど。


 あの時、千尋たちが去ってから少しの間気絶してたし、その時に記憶がふわふわして、そのまま定着して……って事なんだと思う。


 だってそう思わないと色々わかんないところあるし……うん、多分そう言う事なんだと思う。


 ……それにこんなぐるぐるしてこんがらがって美化された記憶が、こんな一瞬でちゃんと思い出せた理由ってのもよくわかってないんだけど……そこはまあ、浮気されて気持ちが離れちゃったとかなのかな? そう言う事にしよう。


「……難しいな、人間の構造って。まあ、一旦この話は置いておこう、過ぎたことじゃ……それで、思い出して色々わかったなら慶太はこれからどうするの?」


「……これからどうする、ってどういう事?」

 少し頭を抱えながらの良哉がてちてち机を叩きながら聞いてくる……どうするって何のことですか?


「いや、あの女のことだよ。復讐するのか? 慶太がしたいって言うなら、協力するけど」


「ふ、復讐? なんで?」


「だって、昔ボコボコにされたんだろ? それで一応付き合ってた時にもひどい目に合わされて、金づるにされてぼろくそに言われて……だから仕返しというか復讐的な事、考えてるのかなぁ、って」

 あっけらかんと当たり前のようにそう言う良哉に少し身構えてしまう。

 復讐なんてそんな事……


「しないよ、復讐なんて。そんなことしません」


「でもさ、俺から見ても慶太結構酷い目にあってるぜ? 金づるにされてボコボコに言われて……それでさ、相手は当たり前のように別の男作って、普通に生活して、逆に慶太の方が悪者みたいになってて。そう言うのさ、納得いかなくないか? ほとんどあっちが悪いのに、慶太だけがダメージ受けるのってそんなのなくないか?」


「……まあ、確かに納得できないことではあるけど。でも、僕だって千尋の事好きだと思ってて、恋は盲目お花畑だったわけだし、こっちにも責任あるし。金づるにされてたけど、でもその時は千尋の事好きでやってたわけだからさ、別にいいかな、って。復讐なんてするだけ無駄だよ、やった人全員が結局不幸になるもん」

 今さらお金返せって言う方がダサいし、ダメだし。

 当時の事は当時の事、べたぼれしててちゃんと千尋の本性とか見れてなかった僕が悪いわけだし、あれだよ、授業料ってやつです。


 浮気も……もともと僕の事好きじゃなくて彼氏と思ってないんだったらまあ、うん。浮気とも言わないんじゃないかな、それなら。わかんないけど、多分言わないんじゃないかな、そう思うことにします。

 そもそも僕は千尋にべたぼれの金づるだったわけだし、しょうがないよ。


 それに、僕が告発したことで理由で千尋が虐められたり、今の彼氏と別れたりしたらそっちの方が嫌だし、もっとめんどくさいことになる気がするし。

 復讐なんて考えて誰かが不幸になるならそれはやっちゃダメだと思う。


「……確かにお前の方が悪いところもあると思うけどさ。でもさ、今のままだと慶太だけが不幸になってるというか。復讐は確かにみんな不幸になるかもしれないけど、でも慶太だけが不幸になる必要はないんじゃないか? 巻き込め、って言うのは慶太的にあれなのかもしれないけど、でも、その……」

 もごもごと苦しそうに、口を動かす良哉。

 色々考えてくれてるんだな、ありがと……でも大丈夫だよ。


「大丈夫、ありがとう、良哉。復讐なんてする意味ないんだよ、不幸な人が増えるだけ……幸せな人を不幸にするのはたとえ相手がだれであれ嫌だからさ。それに、僕は別に今自分が不幸だと思ってないよ」


「……でも、慶太お金貢がされて、暴言吐かれて、色々裏切られてたし」


「まあ、そこだけ見ればね。でも、僕は不幸じゃないよ。だってさ、良哉も彩葉も海未も川崎ちゃんも、他の友達も……みんな僕の事心配してくれたり、励ましてくれたり、なんかあった時には僕の事守ってくれて……今だって良哉のおかげで色々思い出せたし。だから僕は全然不幸じゃないよ。むしろこんないい友達に囲まれて、みんなに色々してもらえて幸せ者だよ、僕は。ありがとう、良哉」

 もし、海未も梓も良哉も彩葉も……頼れる友達とか家族とかが誰もいなかったら僕はもっと落ち込んでたというか、完全に意気消沈して学校でも色々されてた思うし。


 だから、みんながいてくれて僕はものすごく助かって嬉しくて、全然不幸とか感じる時間もないくらいに。

 だから今は全員幸せな状態、今の状態がベストなんだよ、多分。

 復讐なんて考えるだけ無駄、そんなことしても意味ありません。


「なんかそんないい方されると照れるというか、その……ああ、もうこっちこそです、いつもありがとう! それはそうとして……本当に慶太はそれでいいのか? その、ちょっとくらい……」


「ふふっ、こっちこそありがと。良いんだよ、何もしないで……それに、今はもうあんまり千尋とは関わりたくないし。だから復讐なんて馬鹿なことは考えません!」


「……本人が良いって言ってるならもういいか……よし、それじゃあ、この後どうする? 直でラーメン屋? それとも腹ごなししてからラーメン食う?」

 まだ少し不満気だけど、納得したようにニヤリと笑った良哉が僕に向かってそう聞いてくる。


 うん、そうだね、今日は……

「久しぶりに良哉とボーリングしたい気分だな! 最近行ってないけど、まだまだ良哉に負ける気はしないよ、今日も勝つよ!」


「言っても俺たちの対戦成績互角だけどな! それじゃあ、この後はボーリングにすっか! 負けた方が勝った方に奢りな!」


「えー、今日は僕の慰め会じゃないの? 良哉がおごってくれるんじゃないの?」


「もう気にしてないんだろ? だったら正々堂々、ボーリング対決で勝負つけましょうや! こっちの方が俺たちらしいし!」

 そう言っていたずらにペロッと舌を出す。

 満面の笑みで僕の方を見ながら。


「OK,わかった! じゃあラーメンかけて、勝負だな!」

 だから、僕も同じように笑みを返した。




 ☆


「そうだ、慶太に一個謝ることがあった。さっきカフェで慶太に催眠術かけた。彩葉に教えてもらったやつだから半信半疑だけど、ちょっとかけてみた」


「……それ今言う? 何かあったか振り返ったせいでスペア逃したんだけど」

 てかなんだよ、催眠術って。

 僕そんなのかかった覚えないんだけど。


「スペア取れないのは慶太の実力。多分かかってたよ、なんか挙動おかしかったし、急に倒れこんでたし……だから、ごめんなさい。それは謝っときます」


「う、うん……ちょっと分かんないけど、これからは気をつけてね」


「うん、絶対にかけない。それに彩葉にも催眠術は失敗したって言っとくわ。嫌だろ、彩葉に催眠かけられて色々されるの」


「……それはお願いします」


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