鈴木千尋
―私は生まれた時から完璧だった。
どこからの隔世遺伝かは知らないけど、小さな時からキレイな金髪、それに顔も誰よりも美しかった。
幼稚園の時も小学校に入っても私はいつでも大人気、お父さんもお母さんも先生も近所の人も、同級生も……誰もがみんな、私の言う事を聞いてくれてまさに私はお姫さま。誰も私に逆らう事なんて出来ないんだから。
私以外の人間はみんな私に従ってればいいの。
☆
「……またこいつかよ」
同級生に呼ばれて行った河原で、私は舌打ちをした。
最近の私たちのマイブームは動物を調教すること。
その辺の野良犬とか野良猫とか……そう言う動物を見つけてボコボコに調教してあげることが私たちのマイブーム。
小学生だって、ストレスが溜まるし、それにこういう感じの野良で生きてる動物って人に迷惑しかかけないと思うし……だから私たちが人に迷惑かけない様に調教してあげるの。
人に嚙みついたり、何か事件を起こしたりしたら殺処分になっちゃうから。
だから私たちが殺処分される前にこうやって……フフッ、優しいな、やっぱり私は。
この年で社会貢献なんて本当に私は人間が出来ている。
という事で今日も良い感じの獲物が見つかったという事で呼ばれた河原に来たんだけど……またいつかの男が私たちの邪魔をしていた。
この前もうさぎ見つけて楽しく遊んでたのに、私がトイレ行っておやつ買ってる間にこいつが出てきて、私たちの遊……社会貢献を邪魔して。
ホント、こういう人間はカッコ悪くて惨めで社会の底辺で気持ち悪くて……ああ、もう鳥肌が立ってくる、こういうやつ見ると!
私たちの邪魔して自分の事しようとするやつを見ると本当に腹が立つ。
そんなことが許されていいわけがないのに、こっちがすることが正しいことなのに、自分の立場もわきまえないで……ああ、ムカつくムカつく!
……でも人間を調教するのはちょっと面倒なのよね。
たまに親とか呼ばれて怒られるし……本当に理不尽。
私が怒られていいわけないのに、私たちの邪魔をするあっちが悪いのに。
でも、めんどくさいから……別の獲物探した方が早いのよね、こう言うのは。それに、バカでキモイ奴と関わったらこっちまでそうなっちゃうし。
「ちょっとあんた達、やめなよ」
そう言いながら、蹴ったり殴ったりしている同級生をかき分け、その男の方に近づく。
同級生からは「邪魔してきたので代わりに!」というはつらつとした声……正解だけど、人間を調教するのはめんどくさいことになるからダメだよ。
人間は話せるからダメ、せめて別の動物にしなさい。
……そして改めてみると本当に気持ち悪いわね、この男。
いっつもいっつも私たちの邪魔して……何が楽しいのかしら、そんなことして。
取りあえず、ムカつくから一発……いや前の恨み込めて数回蹴っておこうかな!
「……うっ、あうっ……」
顔とかお腹とか、適当に数回蹴ってみると、その男は情けない悲鳴をあげて胸元のっ子猫をギュッと抱きしめる。
この期に及んで、この害獣を守ろうとは……ホント、情けない奴だなこいつは。
自分のやってることが間違ってる、ってどうして気づかないかね。
この前もそうだったけど……こんな奴にはなりたくねえな、マジで。
「ねえ、みんな! こんな惨めでキモい奴虐めても時間の無駄だよ! こんな気持ち悪い奴と一緒にいたら千尋達も汚れちゃうよ! さっさと帰ってもっと楽しいことしようよ、こんな奴虐めるより楽しいこと!!! 他の獲物見つけてさぁ!」
やっぱり人間を調教するのは面白くないや!
今まで遊んできた中で一番反応が悪い、死にかけの子犬ですらもうちょっといい反応した。
こんな奴虐めても面白くないし、サッサと別の獲物見つけて遊んだほうが楽しいよ、絶対!
「……あ、ありがと……ございm……」
そう思って同級生を引き連れて帰ろうとした時、男の方から蚊の鳴くような小さな声が聞こえてきた。
……こいつ、ありがとう、って言った?
何言ってんだこいつ、お前が言うのはゴメンナサイだろ?
私たちの邪魔してごめんなさい、動物なんて守ってごめんなさい……そうじゃないのかよ、最後までムカつくな!
己惚れてんのか、こいつは……ホント自分の立場が分からないやつは大嫌い。
「あんたさ、そんなことしてカッコいいと思ってんの? 動物守ってる自分がカッコいいと思ってんの? そう言うのキモいから! そう言う考え方マジでキモい……ねえ、あんた、もっとカッコよくなりなよ! 全然カッコよくないよ、そんなの!」
そう言っても、男は何も反応せずに、ハアハアと息を切らすだけで……何だこいつマジでキモい! キモイキモイキモイキモイ!!!
なんで何の反応もしないんだよ、私たちが見えてないのか?
こんなことしてごめんなさい、って第一声に謝るだろ、普通……ダメだ、こいつは異常者だ、この世界にはいてはいけない人間だ、こんな奴とは絶対に関わっちゃダメだ!
「ほら、あんた達別のところ行こ! あいつは多分異常者だ、絶対にやばい奴だ、将来人とか殺すやつ! あんな奴と関わってたら本当に私たちが汚れちゃう! だから早く別のところ行こ!」
ずんずんと同級生の背中を押してその場から移動する。
なんであんな人間がこの世に存在してるんだろうか……ああ、この世って不完全。
私みたいな完璧な人間だけいればこの世界はもっとうまく回るのに……ああ、なんであんな奴も同じ人間なんだろう?
別の動物だったら調教して正しい道に進ませてあげられるのに……ああ、ダメダメ、あんな気持ち悪い奴の事考えてたらこっちまであんなのになっちゃう!
こういう時は、さっさと別の獲物捕まえて遊ぶに限る!
「ほら、お前ら、私についてこい! 早く行くぞ!」
という事で、私は同級生を引き連れて新たな獲物を探すことにした。
「……ハァハァ……」
「にゃー」
「……なに……ありがと、でも……お礼はあの人に……また、助けて……しかもカッコいいって……なんかちょっとだけ、自信でた……良い人だ、ヒーローだ……2回も助けて……ハァハァ……」
「にゃー」
「ごめんね……いますぐお家……でも僕弱いか、ら。ちょっと……待っててね。僕もあの人みたいに……強く……ならなきゃ……」
「にゃー!」
「ごめんね、ごめん……あの人みたいに……強かったら、君のこと……ごめん、ほんとにごめん……」
「にゃー! にゃー!」
「……」
☆
「ただいま~、海未。今日は猫ちゃん拾ってきたよ~」
「……お兄ちゃん! なんでこんな遅く……ってなんでそんな傷だらけなの!? この前もだけど……何があったのお兄ちゃん!」
少し目の周りを赤くした海未がちょっと怒ったようにそう聞いてくる。
何があった、か……またあのヒーローさんに助けられたけど、でもこれは内緒にした方が良いよね。
「アハハ、また階段で転んじゃってさ。もう、ホントドジだよね、僕」
「……そんなわけないじゃん! 階段で転んだだけでそんな怪我しないもん! 本当は何があったの、お兄ちゃん!」
「本当に階段から落ちただけだって……それより、この猫ちゃん、河原で拾ったんだけど、怪我してるから手当しないと! 海未、救急セット持ってきて!」
「それよりお兄ちゃんの傷だよ! 顔真っ赤赤だよ、青くもなってるよ、腫れてるし、血も出てるし! お兄ちゃんの方が重症だよ!」
「僕は良いの。そんなことで死なないし、自分のドジだし! だから猫ちゃんの方を優先して! 僕は自分で手当ても出来るし!」
猫ちゃんも虐められて怪我してるから。
僕は怪我の治りとかも早いし、どうせ何とかなるし。
「……本当に自分で手当てしてよ! 適当にしたら海未怒るからね!」
「わかってる分かってる。だから救急セット持ってきてよ、海未」
「……本当に分かってるのお兄ちゃん。お兄ちゃんがいなかったら、海未は、海未は……!」
「わかってるって、本当に」
少し泣きそうな目になっている海未の頭を撫でる。
こんなに人の心配出来るなんて、海未は本当に優しいな。
でもその優しさを向けるべきは僕じゃなくて、今は猫ちゃんの方だよ。
「……それじゃあ、救急箱取ってくるから、お兄ちゃんも絶対にちゃんと治療してよね! 絶対だよ!」
そう言って階段を駆け上がる海未を見ながら、ソファに座る。
……そう言えば、あのヒーローさん、名前なんて言ったっけ?
確か、えっと……なんか千尋、って言ってた気がる。
ふふっ、千尋ちゃんか。
金髪で顔も可愛かったし、それでこんなに強くて……本当に完璧な人だな。
完璧で何をするにも凄い人で全部全部キレイな人なんだろうな。
もしもう一回千尋ちゃんに会えたら……お礼に色々、してあげたいな。
僕の出来ることなら、あの人が望むこと全部……ふふっ、やってあげられたらいいな。
……でもそれまでに僕はもっと強くならないと。
あの人に見合うくらいに強くて優しい人にならないと。
「……お兄ちゃん嘘ついてる、絶対。海未が個人的に調べる、絶対に何かある。お兄ちゃん騙されやすいし思い込みが激しいし、一度思い込むと突っ走って人の話聞かなくなるし……だから海未がちゃんとしないと。海未がお兄ちゃんの事……!」
★★★
明日から通常営業。
この辺のパートは消えるかも。
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