甘える海未と梓との出会い
「やだやだやだ! お兄ちゃんと離れるのヤダ、お兄ちゃんが中学校行っちゃうのヤダ! 私と一緒が良い、海未と一緒じゃなきゃヤダ! お兄ちゃんと一緒に登校できないのヤダヤダ!」
「海未、そんな事言ってもしょうがないでしょ。それに来年からはまた同じ学校行けるんだし、家に帰ったらいつも一緒。だから我慢して、もう小6でしょ? お姉さんとしてみんなの見本にならなきゃいけない年齢でしょ?」
「そうだけど、そうだけどぉ……でもヤダ! お兄ちゃんと一緒の学校が良い!!! お兄ちゃんと学校で会えないのヤダヤダ!!! お兄ちゃんの制服姿はカッコいいけど、中学生になるのはヤダ!!!」
「全くもう……お母さん、何とかしてくれないかな海未の事?」
家の前で随分ちっちゃくなったランドセルを背負いながらわんわん泣くようにいやだいやだと喚く海未にぶかぶかの制服の僕は少し苦笑い。
今日は僕の中学校の入学式、昨日までの春休みの間はちょっとべったりなくらいで全然大丈夫だったし今日も平気……なーんて思ってたけど、行く寸前になってぐずりはじめちゃった。
いつまでも甘えん坊でわがままさんだな、海未は。もう小6なんだからちゃんとしてほしい……まあこういう所も妹としてすごく可愛いところではあるんだけど。
そんなぐずる海未の様子を見て、ニコニコ幸せそうに顔を緩めていたお母さんはポンポンとその背中を叩きながら、
「ほら海未、お兄ちゃんもこう言ってるでしょ? だから、しゃんとしなさい! 今日から小6、通学班のリーダーになるんでしょ? そんな風にめそめそしてたら下級生の子に笑われちゃうよ!」
「で、でもぉ……私お兄ちゃんと一緒に学校行きたいし、ずっと一緒に居たいし、違う学校になるの寂しいし……嫌だ、嫌だ!」
「もー、海未! 寂しいのはわかるけど、慶太はお兄ちゃんなんだからいつでも会えるでしょ! お家に帰ってからずっと一緒に居ればいいんだから、気持ち切り替えて学校行きなさい! 慶太と一緒に寝るのもお風呂も卒業できたんだし、これくらい平気でしょ、海未はみんなのお手本にならなきゃなんだから!」
「そうだぞ、海未! お父さんとしても海未にはちゃんと学校行ってほしいな、そうじゃないとお兄ちゃんも心配するぜ? 海未ならできる、海未は強い子なんだから!」
「うぅ、お父さんまで……わ、わかった。一人で学校行く、学校行ける。お兄ちゃんと一緒じゃないの寂しいけど一人で学校行くもん……でもその前に……ぎゅーっ」
お父さんとお母さんにそう言われて、まだうだうだしていた海未だけど覚悟を決めたようにうんと手を握りしめて。
でもまだちょっと未練が残っていたのか、キョロキョロ周りを見渡した後、少し恥ずかしそうに僕にギューッと抱き着いてきて……ふふっ、相変わらず甘えん坊だね海未は。
「べ、別にいいじゃん! 海未はお兄ちゃんの妹なんだから、これからい甘えても良いでしょ? 海未がお兄ちゃんに甘えるの、ダメな事じゃないでしょ?」
「んふふふっ、別にダメな事じゃないよ。ただちょっと面白くて、でも嬉しくて……相変わらず甘えたがりな可愛い妹の海未なのが嬉しくて」
「えへへ、私はいつまでもお兄ちゃんの前では甘えん坊です……だって海未はお兄ちゃんの妹なんだから。だからずーっとお兄ちゃんに甘えるよ……えへへ、大好きお兄ちゃん……大好き」
ふわふわと飛んでいきそうな熱気球みたいな身体を僕に引っ付けながら、甘い声でそう言う海未を僕もギューッと抱きしめた。
こんな事出来るのいつまでかな、海未がこんな事言ってくれるのいつまでかな……言わなくなるその日まで、僕は海未の事甘やかし続けよう。それがお兄ちゃんの仕事ですから!
「……ねえお父さん。あの二人ちょっと仲良すぎやしませんか?」
「まあこんなもんでしょ。昔から仲いいし」
「……お母さんはちょっと心配です」
☆
さて、忘れていたけど今日は中学校の入学式、楽しい楽しい入学式。
小学校からせり上がりで来る友達もたくさんいるけど、でも隣の学校とかからくる新しい子もいるし、新しい友達ができるか結構楽しみ!
という事で教室前、僕の1年生を過ごす教室前。
あらかじめ何人かは同じクラスって言うのはわかってるけど、その他は未知の世界、知らない名前が並ぶ名簿。
こんなの引っ越してきた時以来の感覚だな、ちょっと緊張する……でも、ワクワクもする! 新しい友達作るため、元気よくはきはき行くぞ!
「あ、君私の後ろの後ろの人? これからよろしくね!」
そんな事を考えながら書いてあった自分の席に座ると、前に座っていた女の子がくるっと僕の方を向いてにこやかな笑顔を向けてくれる。
「うん、そうみたい! 僕は高梨慶太だよ、よろしく! えっと、君の名前は……あ、あれ?」
少し嬉しい気分になりながら、その子の椅子の背中についてるネームを見ると「東海林梓」の文字……あ、あれ? なんでとうかいばやしが高梨より前に居るんだ? 先生間違ってない、この名簿?
「ん? どうかした?」
「いや、君の名前とうかいばやしさんだよね? なんでたかなしの僕より前に居るんだろう、って……?」
「ん? とうかい……アハハ、そう言う事ね! アハハ、おっかしい、アハハ!」
?マークの付いた顔でそう聞かれたので、疑問に思っていたことを言うと、帰ってきたのはすごく楽しそうな大きな高笑い。
え、何々? なんでそんなに笑ってるの?
「アハハ、ごめんごめん! その……とうかいばやしなんて呼ばれたの初めてだからさ! 私の名前はしょうじ、
「え、それでしょうじ……とうかいばやしじゃんどう読んでも! それ以外に読めないでしょ、それ!」
「なんでそうなるの、これは東海林でしょ……ふふふっ、君面白いね、私と友達になってくれる?」
「お、凄い唐突だね……まあいいけど。よし、友達になろう! 僕の事は慶太でいいよ!」
なんかすごい唐突に全部の話ぶった切った感じしたけど。
でも嬉しいな、中学入って初めての友達だ! しかも女の子! 嬉しい!
「なんかすごい嬉しそうだね、私も嬉しいけど……ふふっ、よろしく慶太! 私の事も梓でいいからね! 梓って呼んで……あ、さっそくだけど慶太、この後暇? 入学式の後さ、空いてたりしない?」
「え、家族とご飯食べに行くか行かないかだけど……何かあるの?」
「ううん、ちょっとね。私ね、このあたりに中学入学を期に引っ越してきたからさ、全然場所とか立地とかわからないんだ……だから案内、して欲しいなって思って! こっち引っ越してきて、中学入って初めて出来た友達の慶太に色々案内してほしいと思ったんだけど……どう? してくれない、案内? また明日でもいいけど!」
くいっと顔を傾けながら、お願いスマイルでそう言う梓。
ん~、そんな顔されたら断れないな、断る道理も別にないな!
「いいよ、案内なら。それなら今日しよ、車の方が回りやすいし! お母さんに頼んでみるね、道案内!」
「おー、やりー慶太! それならよろしくね、今日も、もちろんこれからも……ずっとずっとよろしくね、慶太!」
「うん、よろしく! よろしくね梓!」
ニコニコと笑いながら僕に拳を突き出してくる中学校で初めてできた友達に、僕も同じように拳を突き出してその先にこつんとぶつける。
ふふっ、初日から友達出来たし……なんかわかんないけど学校生活すごく楽しくなりそう!!!
~~~
「あ、お兄ちゃんおかえ……え、誰その女の子? お兄ちゃん誰、その子?」
「うん、ただいま海未。この子は友達の梓。梓、こっちは妹の海未」
「あ、妹さん……こんにちは、海未ちゃん! 私慶太の友達の梓って言います!」
「あ、梓さん……すごく可愛い……よ、よろしくです……んっ!!!」
「……? どうしたの海未?」
「うー! うー! お兄ちゃん、ダメ! ダメダメ!!!」
「……何が?」
★★★
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