昔の梓と海未と僕

「ダメ、お兄ちゃんダメ! ダメだよ、お兄ちゃん!!!」

 中学校の入学式終わり。

 席が前後で仲良くなった引っ越したばかりの梓を道案内しようとまずは家に戻ると、先に帰っていた妹の海未がぎゅー、っと俺の腕に抱き着きながらうーうー梓に文句を言う。


 もう、どうしたの海未?

 初対面の人にそんな顔しちゃダメ、そんな事言っちゃダメでしょ! ほら、ちゃんと仲良く挨拶しなさい!!!


「いや、でも、その……梓さん可愛いし、絶対良い人だし、お兄ちゃんが梓さんに……う~、ダメ! お兄ちゃんダメ、梓さんはダメ! 海未がダメって言ってる、ダメダメなの!!! お兄ちゃんは海未のなの、ダメダメなの!!!」

 そう言っても海未は腕に抱き着いたまま、頭をふりふり梓を威嚇して。

 むしろ俺に抱き着く力を強めながら梓の事を威嚇して。


「アハハ、嫌われちゃったかな……アハハ」

 そんな海未を見て、梓は申し訳なさそうに頬をポリポリと掻く。

 あ、気を遣わせてる、初対面の梓にこんな……もう!


「ごめんね、梓……海未!!! ダメでしょ、そんな態度取ったら! 仲良くしなさい、本当に! 普段はそんなに聞き分け悪くないでしょ、普段はもっと素直で可愛い俺の妹でしょ? いつもの可愛い海に戻ってよ、今日なんか変だよ、海未!!!」


「嫌いではないです、でも、だ、だってぇ……だってぇ、梓さん可愛いし、このままじゃ、お兄ちゃんが、海未のお兄ちゃんが……だ、だってぇ! だってなんだもん、ダメなんだもん!」


「だってじゃない、ダメでもない! 仲良くしなさい!」


「う~、お兄ちゃん……で、でもぉ」


「でも、もダメ。そんな可愛い顔してもダメ、仲良くしなさい海未! 僕の友達なんだから、梓にそんな態度取っちゃダメ!」


「う~、そうだけどぉ……でもでもぉ、梓さん可愛くて、お兄ちゃんが……お兄ちゃんが、お兄ちゃんが……!!!」

 しゅんと落ち込んだように、でも怒ったように顔を膨らませながら、海未は俺の事を見上げながらさらに抱き着く力を強める。

 も~、本当にどうしたの今日は! やっぱり変だって、いつもは初対面の人にも僕の友達にも礼儀正しいでしょ! 


「だって、だってぇ……お兄ちゃんは海未のお兄ちゃんだもん、海未のだもん! 海未のお兄ちゃんだもん!」


「そうだよ、お兄ちゃんだよ。僕は海未のお兄ちゃんだよ」


「えへへ、お兄ちゃんは海未の……だからだよ! 海未のお兄ちゃんだからダメなの、海未のだからダメなの! 海未のお兄ちゃんだから……お兄ちゃんは海未のお兄ちゃんなんだから!!!」


「だからそう言ってるじゃん、そうって」


「そうじゃなくて、その……う~! う~う~!」


「ふふふっ、そっかぁ。梓ちゃん、慶太の事……うふふふっ。ねえ、慶太。ちょっと私、海未ちゃんと二人で話していい? 私、ちょっと海未ちゃんと話したい事あるんだけど……海未ちゃんもいいよね?」

 そんな少し変な海未と僕との言い争いをニコニコ微笑ましそうに見ていた梓が、そう言って海未に話しかける。


「海未とお話? 良いよ、てかむしろしてください! 梓は僕の友達だし、妹の海未とも仲良くなってほしいからね! お願い、梓……海未もちゃんとお話しするんだぞ!」


「う~、お兄ちゃん……い、良いけど! わかった、海未のお兄ちゃんだもん、お兄ちゃんの頼みだもん! わかった、話してきてあげる! 梓さんと、海未も話したいし!!!」


「うん、えらいね、ありがと」


「えへへ、お兄ちゃん、にゃ~ん……こほん! それじゃあ梓さん、海未とお話ししましょう! 海未と大事なお話ししましょう! リビングで!」


「うふふふっ、良いよ。お話しよ、海未ちゃん。という事で慶太、家の中入って良いかな? リビングでお話、してもいい?」


「うん、もちろん!」

 ジリ、っと梓を睨む海未とそれをニコニコ笑顔で見つめる梓にそう頷いて、俺は自分の部屋に向かう。


 何で海未がこんなに不機嫌かはわかんないけど、仲良くなってほしいな、梓とは! 

 結構仲良くなれそうな女の子の友達だし、海未とも仲良く遊んで、それで……ふふふっ、3人で仲良しなら、それが一番だしね! うん、それが一番!!!


「ふふふっ、本当に仲良くなってほしいな、海未と梓には……こんな風に思うの、久しぶりだな。あれかな、あのヒーローさん―千尋ちゃんの時以来かな? 俺の憧れで、今でも大好きなヒーロー・千尋ちゃんの時以来かな?」

 まあ、千尋ちゃんを家に呼んだことは無いし、話したこともないんだけど……そう言えば、海未はあの時も僕と千尋ちゃんが仲良くなるの嫌がってたな。


 何でだろう、なんで海未はそう言う……まぁいいや。

 とにかく、海未と梓には仲良くなってほしいな!!!


 ~~~


「ふふっ、海未ちゃんは慶太と仲良しさんなんだね。お兄ちゃんと、仲良しさんなんだね」


「う~、美人さん、泥棒……え? お兄ちゃんと海未、仲良し……えへへ、そうなんですよ、わかってますね梓さん! 海未お兄ちゃんと仲良しです、もはやらぶらぶまであります! 海未とお兄ちゃんは、すっごく仲いいんです、海未のお兄ちゃんだから!!! お兄ちゃんは海未の何ですから!」


「うふふっ、そっかそっか。それは良いことだね、海未ちゃん……それでね、海未ちゃん。心配しないでも、私は海未ちゃんと慶太の仲を引き裂こうなんて思ってないよ。むしろ海未ちゃんとも仲良くなりたい、って思ってる!」


「毎日一緒に寝てますし、それにそれに……ふぇ? う、海未とですか? その、梓さんは、その……お兄ちゃんが好きなんじゃなくて、海未と仲良くなりたいんですか? 海未と仲良しさんになりたいんですか?」


「うん、そうだよ。まだ会ったばかりで好きとか何もわかんないし、それにこんな仲良し見せられたらこっちまで嬉しくなってくるし。だから海未ちゃんとも仲良くなりたいと思ってね」


「えへへ、そうですか……それなら、海未も大歓迎なのです。梓さん美人さんで、すっごく良い人そうで……えへへ、海未も梓さんと友達になりたいです。お兄ちゃんを好きなら嫌ですが、お友達は嬉しいです。よろしくお願いします、梓さん」


「うん、よろしく。これからも仲よくしようね、海未ちゃん」


「はい!」



 ~~~


「お兄ちゃん、降りてきて!」


「慶太、降りてきていいよ!」

 しばらく部屋の中で色々考えながらマンガを読んでいると、僕の事を呼ぶそんな声が聞こえる。


「は~い、わかったよ……ってあれ? いつの間にか二人仲良くなってる?」

 少し心配しながら階段を降りると、梓と海未の二人は仲良くキッチンに立って料理をしていて。

 美味しそうな匂いを漂わせながら、二人とも笑顔で仲良くクッキング……あ、あれぇ? 何があったの、二人とも?


「えへへ、海未は梓さんとお友達になったから……えへへ、今はお昼ご飯作ってるよ! 梓さんと二人でお昼ご飯作ってる、お兄ちゃんのために……ね、梓さん? お兄ちゃんの分作るのは海未だけど、一緒にお昼ご飯作ってますよね?」


「うん、そうだね海未ちゃん。仲良しのお友達になったよ、私たち。だから心配無用って事だよ、慶太」

 仲良く笑顔を浮かべて、楽しそうな声でそう言う二人。

 その声は本当に仲良しさんで、楽しそうに聞こえて……ふふふっ、二人が仲良しになってくれて僕も嬉しい! これからも仲良しでいてね、二人とも!




「……あれ、案内は!? 町の案内は!?」


「あ、忘れてた……また明日でいい? 明日、海未ちゃんと3人で案内してくれない?」


「はい、もちろんです! 私とお兄ちゃんの3人で、梓さんの事案内して見せます! お任せください、梓さん!」



 ☆


 そんなこんなで、最初は仲の悪かった(海未が一方的に警戒していた?)二人だったけど、すぐに打ち解けて仲良くなって。


 歳は一歳違うけど、僕が居なくても一緒に遊ぶような関係になって、それは海未が中学に入学してからは加速した。

「今日は梓さんと一緒にお出かけします。兄さんはお留守番、お願いしますね」


「OK、わかったよ……ところで海未、お兄ちゃんって呼んでくれないの?」


「そ、それはその……中学生なんでダメです! ダメなんです、兄さん!」

 ……まぁ、ちょっと海未が成長して思春期を迎えて僕との距離が出来てしまったのは寂しかったけど。

 昔みたいに甘えてくれなくなったし、お兄ちゃんとも呼んでくれなくなって、それに梓と二人で……色々寂しい要素もあったけど、でも二人が仲良くしてくれて僕も嬉しかった。


「慶太、今日もあそこ行こ! また一緒に遊ぼ!」


「慶太、ちょっと抜け出さない? 二人で抜け出して、その……一緒に色々、話さない? 私、その……慶太と色々話したいし!!!」

 もちろん、僕と梓は引き続き仲が良かったし。


 毎日のごとく一緒に話して、遊んで、修学旅行も二人で……中学通して、一番仲良くて、一番一緒に居た友達は絶対に梓だった。

 もし僕に千尋って大好きなヒーローが居なければ付き合ってたんじゃないかな―そう思うくらい仲良しの時間を過ごしていた……高校受験が本格化するまでは。



 ~~~


「で、梓さん。修学旅行で兄さんに告白出来たんですか? 告白するって意気込んでましたけど、出来たんですか?」


「……無理でしたぁ! 応援してくれたのにごめん、海未ちゃん……でもできなかったよぉ! 私、慶太に告白できなかったよぉ!」


「も~、しっかりしてくださいよ梓さん! 兄さんに大好き、伝えてください、兄さんの彼女さんになってください!」


「う~、そうだけどぉ……でも、恥ずかしくてぇ……う~、どうしよう、海未ちゃん?」


「……頑張ってください、梓さん。海未は応援してるです、梓さんと兄さん応援してるです……ちょっと海未的には悔しいですけど。海未も兄さんの事大好きですから、梓さんにとられるのは嫌ですけど……でもいいです。梓さんなら兄さんの恋人になってもいい―海未はそう思ってるんですから」


「ありがと、海未ちゃん……私頑張る! 頑張って慶太に告白する!」


「はい、頑張ってください……でも、兄さんは海未の兄さんですからね。そこ、忘れちゃダメですよ!」


「わかってるって、海未ちゃん!」



 ★★★

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