第38話 彩葉とデート 後編

「うーん、美味しい! やっぱりマクドはポテトにビックマックだね! このコンビを食べている時が一番生を実感するよ! 美味しい!」

 目の前で幸せそうな顔をした彩葉が美味しそうにビックマックを頬張る。

 生を実感するって、どこまで好きなんだよ。


「……ホント好きだよね、マック。将来でぶでぶになっても知らないよ」


「もー、なんでそんなこと言うの慶太! ボクはいつもキレイで可愛いからこれくらいではでぶでぶにならないよ!」

 ぷくーっとほっぺを膨らませてそう言った彩葉はそのままポテトを食べた指をぺろぺろと……おいおい、それは流石にはしたないぞ、家ならともかく。


「えー、でも美味しいじゃん、指についた塩! 慶太も好きでしょ?」


「……まあ否定はしないけど。確かに指塩はうまいけど」


「そうだよね! あ、慶太も僕の指塩舐める? すっごく美味しいよ!」


「いらんわ。こんなところでするかいな」


「むーん、慶太はつれないなぁ、ホント!」

 言葉ではそう言いながらもニコニコしながらぺろぺろパクパクマックをモグモグ……まあ、彩葉が楽しければそれでいいか。


「あ、そうだ慶太この後もしっかり買い物付き合ってもらうからね!」


「良いけどどこ行くの?」


「それは内緒、ついてからのお楽しみ!」



 ☆


「よーし到着! 今日はここでお買い物!」

 マックを出た後、ショッピングモールの中をゆっくり移動していると彩葉にとある場所に案内される。


「……ここ女性服の専門店ですよね?」

 デデーンと大げさに腕を広げて何かと思えば、そこはレディースブランドの可愛いお店で……いやいやいや僕たち男二人ですよ? 彩葉の女装用かもだけど、男二人ですよ?


「男二人だけど今のボクが男に見える?」


「いや、見えないけど。でも僕はどうすんのさ、普通にこの店来てもやることないしそもそも入ったら怪しまれるでしょ」

 そう言うと彩葉は呆れたように肩をすくめる……その動作かなりうざいな。


「ハァ、何言ってんのさ慶太は。慶太はボクのファッションチェックするって言う大事な役目があるじゃないか! ボクに似合う女装用の服を見繕う大事な役目が!」


「彩葉センスいいから自分で選びなよ。僕が選んだほうがダサくなっちゃうって、自分で選んだ服が一番可愛いよ」


「うわ、珍しく慶太が褒めてくれてる、すごく嬉しい! でもでも、それは女心全くわかってないよ!」


「お前男じゃん」


「男だけど! でも、今は女装してるんだよ! だからとりあえず慶太ついて来て、ボクの服買うから!」

 グイっと腕を握って強引に僕を引っ張る彩葉……だから力強いって、彩葉完全に男じゃん!


「うるさい! 取りあえず服選んでよ! ボクのやつね!」


「……ふぁーい」

 まあこうなってしまうと正直何言っても無駄みたいなところあるので、とりあえず彩葉に従ってお店の中に入ることにした。


 ☆


「ねえねえ慶太? どっちが似合ってる? どっちが似合ってる?」

 少し居心地の悪いお店の中で、両手に服を持った彩葉がニコニコしながら聞いてくる。


「う~ん、どっちも似合ってるかな?」


「うわー、凄い適当! もっとちゃんとした感想聞かせてよ! ほら、なんか右の方がボクの可愛さが引き立つとかさ! このパンツと合わせたり帽子と合わせたらもっと可愛いとかさ! そう言う事もっとあるでしょ、ねえ慶太!」


「そんな細かい指定できるか。それに僕は本当にどっちも似合ってると思ってるよ、彩葉素材がいいから割とどんな服も似合う。まあ色々残念なところもあるけど、正直顔は可愛いと思ってるし、行動も少しあれだけど無邪気で楽しいし、男じゃなかったら……って彩葉?」

 せっかくのいい機会なので彩葉に対する本音をつらつら語っていると、彩葉が身震い初めてゴソゴソ後ろに下がり始める。

 ん、どうかした?


「え、何か慶太が素直だ、ボクの事可愛いとか言ってる……怖い、こんな慶太怖い! 慶太はそんなこと言わない、ボクの慶太返せ!」


「何だそりゃ……そんなこと言うなら僕はもう帰るぞ」


「嫌だ、それはヤダ! でもでもそう言う事言うのは禁止、なんかいつもの慶太じゃないみたいだし!」

 少し赤くなった顔でそう言って、ぷいっと新しい服を物色し始める。

 いつものやり返しのつもりもあったんだけど……彩葉は案外カウンターに弱いのかもしれない。


「……ていうか彩葉試着はしないの?」


「うん、しない。だってボク可愛いとは言え男だし、それが女の人の服着ちゃって万が一バレたら営業妨害になるかもだし。そう言うのはやっちゃダメかな、って」


「……何その妙な倫理観。どうせ似合うんだから着ればいいのに。絶対可愛くなると思うけど?」


「むむむむ……きょ、今日の慶太なんかヤダ! なんかヤダ、なんか変だよ! もうそんなに褒めないで、は、恥ずかしいよ……ぴゅぴゅ」

 相変わらず恥ずかしそうにぷいっと顔を逸らす彩葉……なんだこれ、いつもと違って面白いぞ! 真正面から褒められるのには弱いんだな、彩葉は!



「う~ん、彩葉その服も似合ってる! 絶対可愛いよ、ねえ店員さん!」


「は~い、お客様よく似合ってるますよ! さらにさらにお客様にはこちらのトップスとパンツも……あらぁもう当てただけで分かります、良く似合ってます! 彼氏さんもそう思いますよね?」


「彼氏じゃないですけど、良く似合ってると思います! よ、彩葉可愛い日本一!」


「よ、彩葉ちゃん日本一! 本当によく似合ってらっしゃいます、ものすごく可愛いですよ、彩葉ちゃん! 試着なさいませんか、本当に試着なさいませんか?」


「し、試着は良いです……な、何で慶太今日そんな感じなの、それに店員さんまで巻き込んで……うええ、嬉しいけどなんか怖いよ、なにこれ……」

 クルクル目でぐるぐるとその場で立ち尽くす彩葉を、僕は店員さんと一緒にからかい続けた。

 日ごろの仕返しだ、くらえくらえ!!!



 ☆


「いやー、買ったね、彩葉! いろんな服買って……全部似合ってて可愛かったよ、彩葉ちゃん!」


「もうやめて慶太……からかうのはおよしください、彩葉溶けちゃいます……」

 買い物を終えて隣に座る彩葉をからかうと、帰ってきたのは理想通りの良い反応。

 ふふっ、今日の彩葉やっぱり面白いや。


「もう慶太……あ、そうだボクトイレ行ってくるからちょっと荷物見ててね」


「トイレってどっち?」


「え、そ、それは……おしっこだけど、慶太そう言うのにも興味あるの……いや、ボクは否定しないけど、でもその、えっと……」

 もじもじとまた顔を赤くしながらそう言って小刻みに震える彩葉……ああ、違う違うそうじゃないそうじゃない。


「ああ、違う違う違う、誤解されそうなこと言わないで。男子トイレか女子トイレ、どっち行くのかな、って。その格好だし、男子トイレはあれでしょ」


「あ、そう言う事ね。それは……多目的トイレ、使うよ」


「あれはもっと大変な人向けでしょ」


「多目的だからいいの! だから慶太ちょっと荷物見ててね!」

 そう僕に手を振ってトイレとは逆方向にギクシャク歩き出す彩葉……おいおい。


「彩葉、トイレ逆」


「あ、ごめんありがと!」

 大丈夫かいな、ホント。

 まあでも何とかなるか……帰ってくるまで僕は休憩。



「あれ、慶太じゃん。どうしたの、こんなとこで?」

 ベンチでのんびりしていると聞きなれた声が耳に入る。

 振り返ってみると薄いパーカー私服姿梓の姿が……あれ、なんでいるの?


「なんで、って普通にお買い物来てたんだけど来ちゃダメ。あ、その袋、おしゃれなレディースのお店じゃん。なになに、今日は海未ちゃんとデートの日?」


「いや、これはその……」

 友達と来てる、って言おうと思ったけどなんか色々誤解されそうで口を噤む。

 なんかちょっと……怖い気がする。


「ん、どうしたの? 海未ちゃんじゃないの……もしかして千尋ちゃん? またパシリにされてる? それはダメだよ、慶太!」


「いや、違う違う、千尋ではない。その、一緒に来てるのは、その……」


「おーい、慶太お待たせ! よし、次のお店……あれ?」

 色々考えて頭を回していると、ものすごいタイミングの悪さで、彩葉がトイレから帰ってくる。


 そして梓と初めての邂逅、お互いバチバチに目を合わせて。

『ねえ、慶太。誰この女の子?』

 そうして二人同時にそう言って僕の方を真っ黒な目で見つめる……なんか怖いし、めんどくさいことになりそう!!!



 ★★★

 感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る