第37話 彩葉とデート 前編
「という事で海未、今日は彩葉とお出かけだから。ちょっと一人でお留守番頼むよ」
土曜日、彩葉とのお出かけの日。
お昼前に駅前集合という事で、もうそろそろ家を出る時間。
「ふぁい、海未は一人で待っています……ふわぁぁぁ」
僕の言葉に眠たげな海未が大きなあくびを一つ。
昨日は友達と遅くまで遊んでたし、その後も僕と映画見て結局寝るのが遅くなって……なんだか海未が寝ぼけてるの珍しいな。
「ふぁぁ、ごめんなさい、兄さん。朝ごはんも用意できませんでしたし、それに他に色々も……」
「良いよ、良いよ。いつもは海未に色々してもらってるんだし、今日くらいはしっかり休んでて。それに僕もたぶん夜まで帰らないから今からもう1回寝てても大丈夫だよ」
「そ、そんなことはしませんよ、海未は偉い子ですから……ふわぁぁぁぁ」
そう口では言ってるものの、海未から洩れるのはとんでもなく大きいあくび。
ふふっ、いつも澄ました小さなお口が台無しだよ。だから今日はゆっくり休んでなさい。
「……ごめんなさい、兄さん。何もできなくて……彩葉さんとお出かけですよね? 海未はせめて兄さんに楽しんでください、というしかないです」
「大丈夫だよ、いつも色々ありがとうって言ってるでしょ? だから今日は大丈夫、楽しんできます……そうだ、夕方くらいに彩葉が家来るかもだけど、その時までには起きといてね、彩葉も海未に会いたいだろうし」
「その時間までには流石に起きてますよ。わかりました、それでは楽しんできてください、行ってらっしゃいです兄さん……ふわぁ」
そうあくびをして、パジャマをズルズル引きずりながら寝室の方に戻っていく……今日くらいはゆっくりお休みだよ、海未。
良い夢見れたらいいね……そして兄は少し遊びに行ってきます!
☆
彩葉に指定された待ち合わせ場所、ピッタリの時間。
キョロキョロと周りを見渡してみるけれど彩葉の姿はどこにもなくて……あれ、あいつどこ行った? 気まぐれな奴だけど、遅刻するような人じゃないけど、彩葉は……
「おーい、慶太! こっちこっち! ここだよ、ボクはここだよ! もう何してるの、慶太ボクの方からいくからね!」
そんなこんなでキョロキョロ周りを見渡していると、人混みの中からいつもより少し高い、猫なで声の彩葉の声が聞こえる。
その声の方を見ると、白いフリフリしたワンピースを着て、髪をばっちりセットした彩葉がとことこと走ってきて……え?
「……なんで女装してんだ、彩葉?」
いや、似合ってるけどさ。
どっからどう見ても女の子にしか見えないし、周りもチラチラ見てたけどさ。
でもお前男じゃん、ゴリゴリの男じゃん。
「なんでって、酷いじゃんか慶太! 今日はデートだよ、だから可愛い服着てきただけのに……酷いよ慶太、素直に褒めればいいのに!」
「いや、でもさ、彩葉お前おと……」
「それに、遅刻するなんて厳禁だよ、ボクを待たせるなんてダメだよ慶太! いろんな人に声かけられて怖かったんだから! ボクは慶太を待ってたのに!」
「いや、だから……」
「だからじゃない! だからじゃないでしょ、慶太!」
ぷくーっとほっぺを膨らませながら、僕の前に立ってビシッと指を指してくる。
その声とともにざわつく周りにひそひそ聞こえる俺への陰口……ああ、これはアレですね、彩葉が女の子にしか見えないから皆さん勘違いされてるのですね。
僕の事を可愛い女の子をまたした挙句その子に対して色々酷いこと言う奴と勘違いされてそれでそんなことを……うーん、否定したいけど否定できない、彩葉のビジュアルが強すぎる! もう、しょうがないな、今回だけだぞ。
「わかったよ、今回はそう言う設定という事で。それで今日はどこ行くの?」
「設定じゃない、ありのままだから! それで今日行くところくらい……慶太もわかってるでしょ?」
そう言って少し恥ずかしそうにわざとらしい上目遣いをして。
なるほど、今日もアレですか。
「もう、ホント彩葉もアレ好きだよね。僕と出かけるとずっとじゃん、そんなにすきなの?」
「だ、だって好きなんだもん……好きだから我慢できないだもん」
「まあ、そっか。アレは僕も好きだし、良いよ付き合いますよ」
「うん、最初からそうしてもらうつもりだし! という事で慶太、今すぐレッツゴーだよ!」
ニッコリと笑いながらそう言った彩葉はその勢いのまま僕の腕を取って歩き出す。
「ちょっと、彩葉! 腕組むなよ、歩きにくい!」
「良いじゃん、別に。今日はデートだし、違和感ないでしょ?」
「そうかもだけど、お前はお……」
「はい、ストップ! 今日はその話なし、ボクに付き合ってもらうからね!」
シーっと唇に手をやって言った彩葉に反論できず、そもそも周りの目線がいたかったり色々あったので僕は少しため息をついて彩葉の言うとおりに従うことにした。
☆
着いたのはいつものデパート。
「うわああ、やっぱりすごい! この曲線美、かくかく感、それにパーツ一つ一つがしっかりとしていて、細かいところまで……やっぱりすごいよ、デキが違いすぎる!」
2階のとある店の前で彩葉が黄色い声を上げる。
「ちょいちょい彩葉さん、声大きすぎ。みんなから見られてますよ、声抑えてください」
「そんなこと言ってもすごいんだもん……それに慶太も張り付いてるじゃん、慶太も興奮してるじゃん!」
「まあね……ていうかこれに興奮しない男はいないでしょ! こんなカッコいいロボットのフィギアに!」
「それな!」
僕の声に興奮した彩葉が蕩けた笑顔で親指を突き出してくる。
僕と彩葉が訪れたのはロボットフィギアの専門店みたいな所。
正確にはもっと色々売ってるけど、やっぱりフィギアの出来が凄いみたいな、そんな店。
彩葉と買い物に行くといつもここに連れてこられて興奮した彩葉を見ることになる……まあ僕自身も楽しいからいいんだけどね。
「う~ん、本当にカッコいいよね、これ……ねえねえ、慶太! 慶太はどれがいい? どれが一番カッコいいと思う?」
「ちょっと落ち着け、彩葉……そうだね、僕はこの右端の奴かな?」
「わかる!!! すっごいわかる! それカッコいいよね、それでいてちょっとエロティックで素晴らしいよね! わかる、すごいわかる!」
「だから落ち着けって……マジで注目の的だぞ、今」
興奮した声でガラスケースにへばりついて、そう言ってくる彩葉にはやっぱり視線がすごく集まっていて。
その視線の種類も変な人を見る感じのだけでなくて、可愛い女の子が同じ趣味だ声掛けよ、みたいなやばい類の視線も多くて……まあ今の格好だとしょうがないけど。
「アハハ、これくらいの視線は慣れてるよ。それにこの店一人で来るといつもナンパとか声かけされるし」
「……それは彩葉が女装してるからでは?」
「ううん、してなくてもされる。男っぽい格好してても普通にナンパしてきたり、鼻息荒く来られたりするよ」
「マジか、彩葉すげえな」
確かに顔は可愛いけど。
そこまで色々されているとは……彩葉凄いな、ちょっとびっくりした。
「うん、そうなんだ。だから慶太がついて来てくれてよかった。慶太がいると、ボクをナンパしようとしてくる人なんていないからさ」
「ははっ、僕は弾除けってわけか。まあ僕でよければいつでも頼ってくれたらいいけど」
「うん、たよ……はっ!? まさか慶太、それってプロポーズ? 『危ないから俺のそばにずっといろよ!』って事!?」
「そんなこと一言も言ってない。ただ遊びに行くなら誘っていいよ、ってことだよ」
そのセリフ、なんか同じような事この前山田さんに言われたからちょっと生々しく聞こえちゃって普通に嫌なんだけど。
そんなこと言うのは海未と将来の彼女だけでいい。
「えー、つれないなぁ、慶太は! ボクこんなに可愛いんだからちょっとくらい動揺してくれてもいいのに!」
「つれてたまるか、それに俺と彩葉の付き合いだぜ? いまさらそんなこと言われても何も思いません」
「むー、そうかもだけど……まあいいや! 取りあえずお買い物だ、慶太が言ってた右端のやつはもちろん買うとして、それ以外にもこれとこれを……すみませーん、店員さん!」
少しむくれた表情を見せた彩葉だけど、すぐにいつもの元気な表情に戻って、商品を物色、3、4品に目星をつけて店員さんを呼ぶ……金持ちだな、ホント。
こういうところ見ると彩葉の家と僕家では大分経済力に差があるのを実感する。
「……ん? どうしたの慶太、そんな複雑そうな顔して?」
「いや、何でもないよ。ちょっとね」
「う~ん? ……あ、もしかして慶太も欲しかった? 買ってあげようか? いつもお世話になってるし、慶太の好感度も欲しいし、愛情友情伝えて慶太をほわほわさせたいし!」
「いいよ、そんなの。それにそう言う打算は絶対に言わない方が良いぞ、貰う気あってもなくなっちゃう」
「それはそうだけど、ボクは嘘つけないし!」
ペロッと舌を出しながらいたずらにそう笑って。
その顔はちょっと可愛くて、彩葉が相手とは言え、少し照れてしまった。
「ん、慶太? 慶太どうしたの、こっち向きなよ!」
「うるさい……ほら、店員さん来たよ、欲しいの言わないと!」
「むー……すみません、これとこれとこれとこれください!」
……本当に全部買うのかよ!
「……でなんで僕が荷物持ち?」
「そりゃそうでしょ。慶太はボクに荷物持たせる気? デートはまだまだ続くのにボクに荷物持たせる気?」
「……わかったよ、持ってやるよ、周りの視線が痛いし。それで次はどこ行くの?」
「う~ん、色々あるけど、次はご飯食べよ! マクド行くよ、マクド!」
「……彩葉はホント、マックも好きだよな」
「うん、大好き!!!」
★★★
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