晩御飯と海未と夜

「慶太、ここの海鮮丼美味しいね! いくらプチプチだし、サーモントロトロしてて最高だし! めっちゃ美味しいね、慶太!」

 大きな丼からご飯を掬って、幸せそうな顔で梓が海鮮丼を頬張る。


 夜ご飯どこにしようかな! と結局2個目のメロンパンを頬張った梓と話し合った結果、吸い込まれるように入った海鮮系の安いお店。

 値段は安いけれど、しっかりボリュームもあって、それにネタの質も良くて……最高だな、このお店! 僕はイカが美味しくて濃厚で好き!


「そうでしょ、そうでしょ、美味しいでしょ! 私も初めて来たお店だったけど、予想以上だった! 本当にご飯を食べる手が止まらないよ、パクパクですわー!」

 そう言ってパクパクと本当に美味しそうに海鮮丼を食べ続ける。

 ちなみに梓が頼んだのは大盛……あの細くて小さな体にどうしてあんな量のご飯が入るのか僕にはよくわからない。本当にどうなってんだ?


「ん~、美味しいねぇ……ってあれ? 慶太どうしたの、手が止まってるよ? 食べないんだったら私が食べてあげよっか?」


「いや、大丈夫だよ。梓はやっぱりよく食べるなって思って。今も僕の海鮮丼食べようかな、って言ってたし……その細い身体のどこに入ってるのかな、って」


「ああ、そう言う事ね! 気になる? 私のこのスタイルの良さの秘密気になる?」


「うん、気になる。どうしてそんなにいい感じで保ってられるの?」


「お、なんか正直……でも教えてあげない! これは乙女の大事な秘密ってやつですから!」

 そうイタズラに言って口元に小さく×を作って……えー、教えてよ何か特別な事とかしてないの?


「ふふ~ん、どうでしょうか! 私は別にそんなことは……ふふっ。ほら、慶太早く食べよ、あんまり長居しても迷惑になるし!」


「えー、自分から言っておいて! 教えてよ、梓!」


「だーめーでーす! 教えてあげないよ、じゃん! ……ん~、やっぱり美味しい! マグロも赤身がほどけててるてる!」

 イタズラに笑いながら、またまた海鮮丼を食べて幸せそうにほっぺを押さえて……まあ、いいや。梓も幸せそうだし、僕も海鮮丼の続き食べよ……うん、やっぱり美味しい!



 ☆


「じゃあね、慶太、またいつか! すぐに会う気もするけどまたいつかだね!」

 夜ご飯を食べてちょっとふらふらお店を冷やかしていると夜もいい感じに更けてきて。

 結構いい時間になったので梓をお家まで送って、そのまままたねとご挨拶。


「うん、またね! 家に遊びに来ても良いんだよ!」


「うん、絶対行く! その時は慶太ご飯作っておいてよね! 後スイーツも慶太の手作りの食べたい!」


「ふふっ、その辺は考えとくね! それじゃあ夜も遅いし本当にまたね!」


「うん、また!」

 そう言ってパタンと家の扉を開けて中に入っていく。

 その背中を見送って、僕もお家に帰ることにした……もう海未は帰っているかな? 良い時間だしそろそろ帰っててもおかしくないけど。



「……カギかかってる。まだ帰ってないんだ」

 カギがかかった扉に暗い家。

 時計を見ると9時半をとっくに回っていて……珍しいな、海未がこんな時間まで遊んでるなんて。


 いつもだったらどれだけ遅くても9時には絶対に家にいて、二人で金曜ロードショーを見よう! って流れになるんだけど……なんだか心配だな、こんな時間まで。

 何事も無かったらいいんだけど。


 そんな事を考えながら、テレビをつけて洗い物とかをしながら待っていたけど海未はなかなか帰ってこなくて。いつもなら爆速で帰ってくるはずのLIMEにも今日は木毒がつかず、僕が送ったメッセージだけが寂しく漂っていて。


「ホントどうしたんだろう、大丈夫かな。海未が何か事件に、やっぱり警察……ん? 車?」

 いよいよ11時も軽く回って心配になってきたころ、家の外から激しめの車の排気音が聞こえてきた。

 音のする方を見ると明るいヘッドライトとそこでペコペコする海未の姿が……無事なのは良かったけど、な、何やったの海未!?


「に、兄さん遅くなってすみません……ただいまです」

 おそるおそるといった感じで部屋に入ってきた海未が入るなりにさっきみたいにぺこぺこと頭を下げる。

 帰ってきてくれて嬉しいけど、今まで何やってたのさ、連絡もなしに!


「あ、それはその……すみません。スマホの充電がきれてまして」

 そう言って見せてくれるのはブラックアウトしたスマホの画面……連絡できなかったのは分かったけど、今まで本当に何してたの?


「……友達の家、行ってました。透ちゃんの家で遊んでたんです、今の今まで。それで親御さんに送ってもらって。ご飯はファミレスで食べたんですけど、そこから盛り上がっちゃって、そのまま家で遊んで……ごめんなさい、本当に」


「怒ってないよ、心配してただけ。そっか、心配してたけどそれなら良かった……楽しかった?」


「はい、すごく楽しかったです。あと兄さんが心配してくれてたのも嬉しかったです……えへへ」

 そう言って嬉しそうに微笑む。

 友達と遊んで楽しかったなら良かった……あと心配は絶対するでしょ、可愛い妹が行方不明かも、ってときなんだから!


「そうかもですけど、嬉しいです。兄さんが海未の事、そんなに気にかけてくれて……ねえ、兄さん」

 そう言って熱っぽく僕の体に頭をぴとっと当ててくる。


「どうしたの、海未?」


「この後一緒に映画見ませんか? 今日のロードショー、とってありますから一緒に見ましょう。恒例行事ですから一緒に見ましょう」


「良いけど、もう結構時間だよ? 海未寝ちゃわない?」


「大丈夫です……海未はもう大人ですから。そんなことで寝たりはしません」

 そう言って強気な瞳で微笑む。

 まあ海未がそう言うなら、僕の用事は明日のお昼からだし、付き合ってあげますか!


「はい、お願いします……友達と遊ぶ時間もですけどやっぱり海未は兄さんと過ごす時間が一番ですから」


「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃん……それじゃあ、色々準備しておくから先にお風呂入っておいで」


「はい、ありがとうございます……えへへ、兄さんと見る映画、何回目でも嬉しいです。一緒に楽しみましょうね」

 そうニコッと笑う海未に僕も笑いかける。

 僕も海未と映画見るの結構好きだよ。



「……兄さん、兄さん……ふわぁぁぁ……」


「大丈夫、海未? 眠くない?」


「大丈夫です、兄さんと見てるんですから我慢します……ふわぁぁ」

 映画の最中何度も海未はあくびしてたけど何とか耐えて、そのままベッドでちゃんと寝て。


 でもよっぽど疲れてたのか次の日はいつもはかなり早起きなのに10時を過ぎても起きてこなかった。


 ★★★

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