おまけ+鈴木千尋

「海未のおかげで色々ちゃんと整理できたよ。いつもありがとね、海未」

 肩の上でむにゃむにゃ寝言を言う海未の頭をゆっくりと撫でる。


「えへへ、兄さん、そんな……えへへ……」

 夢の中の海未が幸せそうに笑顔を浮かべる。



「……にへへ、兄さんもっと頭撫でてください。もっと海未の事撫でてください。それにそれに頭以外も色々ナデナデして、それにそれに……」

 幸せそうな笑みを浮かべた海未が、僕の肩に預けた頭をすりすり摺り寄せながら、甘えた声でそう呟く。


「……海未、ホントは起きてるでしょ?」


「ふぇ? オ、オキテナイデスヨー、ウミノハゼンブネゴトデスヨー」

 少し顔を逸らしながら焦ったような片言声でそう言う海未。

 ほら、やっぱり起きてるじゃん。


「お、起きてないです。海未は寝てます、眠り姫です、ぐーぐーですから……そ、そのえっと……ににに兄さんがちゅ、ちゅーしてくれたら起きるかもですけど。に、兄さんのちゅーでお姫様の海未は目覚めるかもですけど……んー」


「……お兄ちゃんからかうのはそこまで。いい加減寝たふりやめなさい」


「あうあ! ……な、何するんですか、兄さん」

 顔を赤く染めながら、目を瞑って僕の方に顔を寄せてきた海未のおでこを可哀そうだけどぺチンとデコピン。

 ちょっと痛いかもだけど、でもお兄ちゃんをからかった罰です、チューなんてしないよ兄妹だよ!


「むむむ、それはそうですけど……でも海未も疲れてるし、寂しかったんですから。だから今日も兄さんに甘えたくなったんです。後寝たふりじゃないです、ずっと寝てました、本当に」

 小さな悲鳴をあげておでこを抑えた海未が恨めしそうにほっぺを膨らませて、ちょっとすねたような声と目で僕を見る。


 寂しいのはそうかもだけど、でもチューはダメだよ、こんな年の兄妹でやることじゃないよ。あと、絶対寝たふりだったよね、海未は。


「違います、本当にあうあで起きたんです……それで確かにちゅーは調子乗っちゃいました。でも兄さんは何でもするって言いましたし、それに小さいころはしてくれましたし」


「小さい頃は小さい頃だよ、今はダメ、何でもしてもそれはダメ」


「それじゃあ他の事ならいいですか?」


「他の事って?」


「その、例えば……兄さんのお膝に、座るとか……」

 囁くような小さな声でそう呟く。

 膝の上か……若干怪しいけど、まあそれくらいならいいか。


「いいよ、海未。ほら、おいで」


「え、本当に良いんですか?」

 驚いたような声を出す海未……海未がしたいって言ったんでしょ?


「え、はい、そうですけど……そ、それじゃあ、し、失礼、しますね……ふわっ」

 オドオドと緊張した様に顔を赤く震えながら、おそるおそる慎重に僕の膝の上にちょこんと座る。

 少し洩れた黄色い吐息と同時に軽い重さが膝の上に伝わってくる。


「兄さんのお膝……ふわっ……に、兄さん重くないですか? 海未、重くないですか?」


「全然重くないよ、むしろ軽くて心配になるくらい」


「あ、それなら良かった、です……ぷしゅ」


「ふふっ、何それ……ふふふ、海未さん、お膝の感覚はいかがですか?」


「むみ、それはその……すごく気持ちいです、兄さんを近くに感じて……で、でもすごく恥ずかしい、です……ぷしゅ~」

 真っ赤になった顔に恥ずかしそうに手をやって、蚊の鳴くような声でそう言う海未。


 いっつも抱き着いたりするときは全然照れた感じないのに、なんだかちょっと面白いかも。

「だ、だって今日は兄さんから誘ってくれた感じで、だから、その、それにお膝の上って、なんだか……あ、も、もう大丈夫です。海未、もう満足しましたから、もう大丈夫ですから」


「ふふっ、もういいの? まだオプションとかあるけど」


「お、オプション? ななな、何ですかそれは?」


「例えば、いつも海未がやってるとは反対に背中側からぎゅー、とか……」


「え、後ろから……ダメです、ダメです、そんな事、海未が倒れちゃいます……だから、もう大丈夫です、海未は完全に満足しました。もう終わりです、終了です、ありがとうございました」

 早口でそう言って、僕の膝からスッと立ち上がると、そのまま隣にすぐジャンプ。

 さっきまでとは少し違う、ちょっとだけ開いた距離。


 照れてるのか、赤くなった顔にぴたっと手をやっていて……ふふっ、なんだか珍しいな、こんな海未の姿。

「海未、もうちょっとこっち来なよ。もうちょっと寄ってよ」


「ぷへ? な、何でさっきからそんな積極的なんですか、兄さん?」


「ふふっ、いつものやり返し。たまには僕の方からも……ね?」


「な、何ですか、それはもう、ずるいです……ずるいですよ、兄さん……さっきから兄さん、ずっこいです、なんだか」

 そう口では言いながらも、ずいずいとソファをスライドして、いつも通りの距離まで近づいてくる。


「ほら、まだ映画続きだよ。ちゃんと最後まで見よ」


「は、はい……はい、兄さん、最後まで一緒に見ましょう」

 少し緊張したような海未の声と同時に、テレビの中では主人公が復活の春を迎えて。



「えへへ、やっぱり兄さんと映画見るの楽しいです、嬉しいです……それに海未はやっぱり、兄さんの隣が好きです。海未の隣にずっといてくださいね、兄さん」

 ラストのゴールシーンの直前に、海未が僕の方を見て、にへへと幸せそうに笑う。


「ふふっ、いつまで隣にいれるかわかんないけど……でもできるだけ、海未の隣にいるよ。海未が寂しくならないようにね」


「えへへ、約束ですよ、兄さん……約束げんまんです」

 僕の言葉に、海未はもう一度幸せそうに笑った。



 ☆


《ここから千尋視点》


「え、千尋ちゃんだっけ? ほ、本当に僕みたいなおじさんが相手でいいの?」


「はい、千尋、おじさんみたいなダンディな人大好きだから! だから~、全然いいですよ~!」


「え、本当? それなら良かった……そ、そのもう一個確認したいんだけど、千尋ちゃん本当に二十歳なんだよね? その、全然見えないんだけど……大丈夫なんだよね?」


「はい、しっかり20歳ですよ~! 身分証は忘れましたけど、でもでも千尋はちゃんと20歳ですよ! このロリボディに可愛いお顔で、大学でも人気なんですよ~!」


「そ、そうだよね、大丈夫なんだよね! そ、それじゃあ千尋ちゃん、まずは一緒にシャワー浴びよっか。そしてその後は……ね?」


「はい、優しくしてくださいね、おじさん」

 誘惑するような目線を送ると、興奮した様に鼻の下を伸ばす男……ああ、気持ち悪い、気持ち悪い。

 本当はこんな男大嫌いなんだけど……でも金ねえし、それにあの男あそこだけは大きそうだし。

 少しだけ我慢してその後は……ね?




「ちょっと、千尋ちゃん、話が違うじゃん? は、二十歳って言ったよね、それに僕みたいな人好きだって……?」

 私との行為の後、ちょろっと本当の事を言ってやるとさっきまで余裕そうに気持ち悪い笑みを浮かべていた男の顔が一気に青くなる……気持ち悪いけど、でもこういう顔はすっごく良いな、良い顔してる! 気持ち悪いけど!

 それに、あんたみたいな気持ち悪い男好きになるわけないじゃん、私みたいな完璧美少女が! 


「そんなこと言ってませんけど、耳腐ってるんですか、腐ってるんでしょうね、中学生に手を出すようなクズだし! あんた、SEXの腕も全然だし、何も気持ちよくなかったし……あーあ、こんなおっさんに時間使って損した! あんたのSEX、本当に最悪だったし! ねえ、おっさん、50万頂戴? 私の時間使ったし、それに期待外れだったから50万頂戴?」


「え、ごごご50万!? そ、そんな大金……」


「ちっ、気持ち悪いんだよおっさん、そんな情けない声出して、そんな気持ち悪い顔して! 男ならもっとしっかりしろよ、私の事イラつかせんじゃねえよ、言うとおりにしろよ!!! 不快なんだよ、おっさん!!!」


「あうっ!?」

 絶望した様に気持ち悪く深いに顔を歪めるおっさんの腹を蹴ると、豚のような悲鳴をあげてベッドにうずくまる。

 アハハ、気持ち悪い、気持ち悪い……でもやっぱり、人が絶望とか痛みで打ちひしがれる姿ってのは、何というか……最高だな、やっぱり!

 気持ち悪いけど、この瞬間が最高だ、やっぱり人も動物も痛みを感じた時とか、絶望した時に一番いい顔をする!


「ねえ、おっさん。私は優しいから50万で済ましてあげるって言ってるんだよ? おっさんさ、中学生と関係持ったなんて社会に知られたらどうなるかなぁ? 中学生を気持ち悪く求めてたなんて知られたら、おっさん、どうなっちゃうかなぁ?」

 お腹を抑えて気持ち悪く唸るおっさんの鼻面に、さっき撮った写真を掲げる。

 私の上で気持ち悪く鼻の穴を大きくして興奮しているおっさんの姿……この写真、警察とか会社とかに見せたらおっさんどうなっちゃうかなぁ?


「あ、いや、それは……」


「どうなるか聞いてんだよ、おっさん!!! 早く言えよ、私はうだうだしてる奴が嫌いなんだよ、イラつかせんじゃねえよ! ほら、50万出すか、社会的に死ぬか……どっちがいいんですか、おっさん!」


「……5,50万出します。だから蹴らないで、写真も流出させないでください」

 脅し文句と一緒に顔面を数回蹴ってやると、顔を腫らしながらおっさんが情けない声とともにそう答える。

 アハハ、最初っからそう答えておけばいいものを……しかし、もうちょっと張り合いがあっても良かったかも?


 私の有利は決まってるんだし、もうちょっと蹴ったりして痛めつけたり、値段釣り上げたりできたかも……まあいいか、50万も大金だし。

 これでしばらく遊ぶ金には困らないかも。


「ねえ、おっさん。50万、早く卸してきて」


「は、はい……」


「早くしろよ、おっさん!!!」


「プベッ!?」

 もう一回顔面を蹴ってやると、聞いたことのないような気色の悪い声を出してもう一度ベッドに倒れこむ。

 アハハ、やっぱり最高だ、人を調教するのは!

 動物なんかより、よっぽど楽しいや、お金も貰えるし最高!


 それにおっさんも、私のような完璧美少女と色々出来て楽しいだろうし……アハハ、最高のwinwinだ!!! 

 だからおっさん、文句言わずに早く金持って来いよ、50万!!!


「ぷげっ!?」

 相変わらず気色の悪い声を出してうずくまる……アハハ、やっぱり気持ち悪いなおっさん!

 お前みたいな下民の豚は、私みたいな完璧美少女に逆らうのは許されないのに!



 ☆


「……あんた、わかってるの! あんたのせいで、お父さんは仕事を……私たちも引っ越しを!」


「はいはい、わかってますよ~。たく、なんであんなことが問題なるかねぇ?」


「あんなことって……あんたバカじゃないの!? 許されないことよ、あんた中学生よ!」

 つんざくようなババアの声。


 ったく、ちょっとパパ活で金巻き上げて、同級生の彼氏何人か寝取ったくらいでみんな大騒ぎしやがって……完璧美少女の私が正しいのに、まじで合点行かねぇ。


 それにあいつらも楽しんでたし……私の悪いところなんてなくねぇか?

 あいつらは私とデキて嬉しい、私はお金貰えて調教も出来てハッピー。

 最高のwinnwinなのに……どうして問題なるかねぇ?


「それじゃあ千尋は反省します、反省します~! 部屋こもるから来ないでよ、絶対」


「あ、あんたねぇ……ど、どうしてこんな子に!」

 ババアの怒り狂ったような声が聞こえるが無視して階段を登る。

 そんなに顔赤くしたら血圧あがってしわも増えるよ……最初から醜い顔がもっと醜くなっちゃうよ、ババアさん!


「あ、あのお、お姉ちゃん! 私はお姉ちゃんの味方だよ! 千歳は、お姉ちゃんに何があってもお姉ちゃんの味方だよ!」

 自分の部屋に入ろうとすると後ろからなよなよした声が聞こえる。

 ああ、妹か。こいつ、まだいたんだこの家に。


「へー、あんたは私の味方なんだ」


「う、うん。私、ずっとお姉ちゃんのこと憧れてて、大好きだから……」


「そっか、私はあんたの事嫌い」


「え?」

 妹からの声……ああ、ウザイウザイ、ムカつく!


「私は昔からあんたのこと大嫌い。ずっとなよなよ気持ち悪いし、自分の意見ハッキリ言わないし。それに何その顔、その髪……あんた本当に私の妹なわけ? めっちゃブサイクだし、髪も黒いクルクルで……本当に醜い、血がつながってるなんて考えたくない」


「え、え?」


「そう言うとこが嫌い、マジで嫌い、ムカつくムカつく! なんでこんなのが妹……ああ、生まれてくる家間違えたな、くそが! おい、あんた。私の妹って事、誰にも言うんじゃねえぞ? 私がバカにされちまう、こんなブスと姉妹なんて!」


「……え、あ、はい……わかったよ、お姉ちゃん」


「くっそ……マジでムカつく、キモイんだよ、マジで! 話しかけてくんなよ、これからも!」

 ドンと、思いっきり部屋の扉を閉める。

 あーあ、なんで私の家にはあんなのしかいないのかなぁ!?

 完全に家ガチャ失敗だわ、私はこんなに完璧なのに!!!



 ★★★

 明日からは梓とデート編。

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