第34話 姉妹ケンカ!?
「まさかの展開! ミナちゃん知らないって言ってたし……修羅場!?」「昨日お兄ちゃんがいなかった理由ってデートかよ!」「これ修羅場か? 修羅場来るか?」「これはミナちゃん黙ってないか!?」……etc
コメント欄のざわつきとともに、私の心も少しずつざわついてくる。
え、どうしよう、これどういう事? もしかして炎上? 炎上ってやつ?
確かめるように海未ちゃんの方を見るとあちゃー、っと焦ったようなでも少し嬉し楽しそうな顔をしながら舌なめずりをして……あれ、何? 何が始まるの!? 炎上してるわけではなさそうだけどでも怖いよ、なんか怖い!
「え、お姉ちゃんデートしてたって……嘘でしょ! ミナに内緒でそんな事……お姉ちゃんとお兄ちゃんずるい! 内緒でデートなんてずるい!!!」
少し警戒しながら画面を見ていると、海未ちゃんが怒ったような声でそう言う。
「え、あ、ごめん……わすれ……あれ?」
やばい、怒らしちゃった、でも海未ちゃんにはちゃんと……スマホ? スマホ見ろって?
海未ちゃんにそう指示されたのでスマホに目を落とす。
そこには海未ちゃんからの新規メッセージ、『リアルでないです、演技です! 今からミナレットとランプでケンカしましょう!』の文字……え、ケンカ? どういう事?
声に出しそうになったのを必死に我慢してう、ミナレットちゃんに私もLIMEを送る。
返ってきたのは『姉妹ケンカです! こう言うのすると伸びそうだし、絶対ウケますし! だからケンカしましょう、演技ですけど本気で来てください! リアルな方が絶対にウケるんで!』……な、なるほど! 確かにそう言うのってリアルにすればするほど伸びそうな感じする! 姉妹ケンカって需要ありそうだし!
「お姉ちゃん、聞いてるの! なんでお兄ちゃんとデート行ったこと隠してたの、なんでお兄ちゃんも言ってくれなかったの! なんでそんな内緒のデート行ってたの! 昨日はお仕事って言ってたじゃん!」
海未ちゃんがニヤニヤした顔で、でも声とテンションは怒ったミナレットちゃんの声でそう叫ぶ。
凄いな、プロだなこういう所。なんか経験の差を感じる……でも私にもできるはず! えっとあんまりケンカとかしたことないけど、でもこういうときは……!
「いいじゃん別にデートくらい行っても! 私だってけい……弟君の事大好きなんだからさ! それにいつもミナちゃんばっかり妹特権使って弟君といちゃいちゃしてるし! たまには復讐です、いつもミナちゃんばっかりいちゃいちゃしてる罰です!」
……こんな感じで良いかな?
結構気持ちのってたというか、少しだけ海未ちゃんに思っていたことというか。
だって毎日慶太と一緒にいるわけで、妹という立場だからずっと一緒にいれるわけでだからそれがちょっとずるいと思ったことは何度もあったし。
だからその……ちょっと本音も混ぜてみました!
「はぁ、何それ! いちゃいちゃしてるってそれはお兄ちゃんがミナの事好きだからでしょ! お兄ちゃんミナの事いつも好き! って言ってくれるし! ミナとお兄ちゃんはラブラブなの、ラブラブだから二人の仲を裂くような真似しないでよ!!!」
よくできました、とほめるような笑顔で私を見ながらそう言う海未ちゃん。
そして今度も声は完璧……私も続かないと!
「引き裂いてないもん! それに本当にミナちゃんの事が好きだったら私とデートなんてしないんじゃない? 弟君も私の事好きなんだよ、デートしてくれるってことは! それに昨日の弟君、私と一緒にいてすごく楽しそうだったよ~! 腕組んだら照れてたし、それに『またお姉ちゃんとデートしたい!』って言ってくれたし、他にも他にも……ああ、これ以上はいけません! 言えないけどすっごく楽しかったんだ、弟君とのデート!」
「い、言えないって……どんな過激なデートしたのお姉ちゃんは! そんな過激なデート、ミナは認めません、絶対にダメです! そ、それにミナとお兄ちゃんはもっといちゃいちゃしてるから! 抱き合ってギュッと一緒に寝たり、お膝の上で映画見たり、頭なでなでしてもらったりしてるもん! だからミナの方が凄いもん、お兄ちゃんはミナの方が好きなんだもん!!!」
「でもミナちゃんと弟君は家の中だよね? 私はお外で色々な人に見られながらそう言う事してるし! 弟君も拒否するようなところ見せないし、私の方が弟君に愛されてると思うな!」
「ぐぎぎぎぎ……で、でもミナの方が……!」
バーチャルな世界では唯一の男兄弟を巡った姉妹ケンカしながら。
リアルでは海未ちゃんとVサインを出し合いながら楽しい、でもどこか本音の透けた少しだけ怖く感じるような会話を続けて。
「お兄ちゃんは私が……!」
「けい、弟君は私の事が……!」
コメントの流れるスピードはさらに加速し、視聴者も1000、2000、3000、5000とドンドンと天井知らずに加速していって。
「ミナが!」
「ランプが!」
ものすごい盛況の中、私たちの姉妹ケンカは続いていった。
☆
「だからその時……おっとっと、もうお兄ちゃんが帰ってくる時間だ! もうちょっと色々言いたいことはあるけど、それは配信外で!」
かなりの時間配信を続けた後、ポンと手を打って、LIMEの画面を見せてくる海未ちゃん。
そこには「焼き芋屋さんいたけど食べる~?」という慶太からのメッセージが……食べます食べます大好きです!
「あ、ホントだ……取りあえず今日はここまでってことにするの、ミナちゃん?」
「そうだね……ごめんね、穴党のみんな、今日は姉妹ケンカに付き合わせちゃって」
そううミナレットちゃんが言うとコメント欄は「楽しかったからいいよ!」「また見たい!」「お互いの愛が見れていい配信だった!」などなど好意的な意見がかなり流れてきて……良かった、大成功みたい!
「アハハ、みんな優しい人でよかったね、お姉ちゃん……けどミナはちょっと怒ってるからね」
「ふふっ、そうかそうか……でも次の配信までには仲直りだよ!」
「そうだね……でも配信終わっても少しだけケンカは続くよ! でも取りあえずいったん……」
『今日も見てくれてありがとう! また次の配信で会おうね、穴党のみんな!』
二人で声を合わせてそう言って、配信を閉じる。
暗くなった画面に自分の顔が映る……うわあ、すごい汗かいてる。結構緊張してたんだな、私。
「やりましたね、梓さん! 大成功ですよ、完璧でしたよ、ケンカの演技!」
ハイテンションでそう言ってくれるのは海未ちゃん。
キラキラした目で成功を喜んでいて……海未ちゃんの演技もすごかったよ!
「えへへ、ありがとうございます……ところで梓さん、どこまで演技でしたか? ケンカはともかくあの兄さんが好きっての、どこまで演技なんですか?」
「いや、それは……海未ちゃんだってどうなのさ! 慶太の事あんなに好きなの?」
「はい、好きですよ。兄さんの事大好きですから、海未は……梓さんは?」
堂々とした表情でそう言って。
……そんなこと言うなら私だって!
「私も慶太の事大好き! 慶太の事大好きだもん、演技じゃないもん本気だもん!」
「ふふっ、良く言えましたですよ、梓さん。これで海未と梓さんはバーチャルでも
「……そうだね、ライバルだね!」
差し出された手を取って宣戦布告のように大きく言う。
ライバルだよ、たとえ慶太の最愛の妹の海未ちゃんが相手でも一歩も引く気はないよ、絶対に負けないよ!
「その意気です、かかってこいです、お相手よろしくお願いしますです! でも今日のところは……」
『神回、でしたね」だったね!」
空中に伸ばした手がすごい勢いで触れ、キレイないい音が鳴る。
私のVtuberのデビュー回、良い感じで始められて良かった!!!
☆
「梓さんはつい本名を言いそうになってましたからそこを……」
「おーい、二人とも! 焼き芋かったけどたべるー?」
しばらく海未ちゃんと反省会をしていると階下から慶太の声が聞こえる。
もちろん食べるよ、ちょっと疲れちゃったし焼き芋大好きだし!
「……梓さん、さっきもティラミスたくさん食べてましたよね? そんなんで兄さんのお料理食べられますか?」
「大丈夫、大丈夫! 甘い物は別腹だし、それに慶太もいっぱい食べる君が好き! って言ってくれたから!」
「……じゃあ海未も食べます! いっぱい食べて兄さんに好かれます!」
「ふふっ、素直が一番だよ、海未ちゃん! それじゃあ、下降りよっか」
少しほっぺを膨らませる海未ちゃんと一緒に、慶太の待つ下に降りる。
「あ、ようやく降りてきた。2階で何やってたの?」
『ヒミツ!!!』
そう声をそろえて、ニッコリ笑顔で慶太に言った。
★★★
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