43話 川崎ちゃんは忙しい

「ちょ、高梨ごめん! 悪いんやけど、智樹と祐樹のお迎えに行ってくれん? 私今からちょっと用事あっていけんから高梨にお願いしたいんだけど!」


「別にいいけど僕どこの保育園か知らないよ?」

 放課後、図書委員をサボった罰としてしばらく図書室の掃除を義務付けられている彩葉とデートに行こうとする良哉カップルを見送って自分も帰ろうかな、なんて考えていると川崎ちゃんに声をかけられる。


 川崎ちゃんの弟二人、小学生だと思ってたけど実は保育園児だったんだよね、あの後も何度かあってるけどたまに園服だし。

「あ、それはLIMEで地図送る! ごめんね、高梨! あの二人高梨にはすごくなついとるから素直に帰ってくれると思うし、ちょっと頼んだ! あと私の用事が終わるまで二人の面倒も見て欲しい、急用出来たから!」


「うん、良いよ良いよ。僕も別に用事なかったし……それじゃあ地図だけお願いね。あ、保育園にはなんていって入ったらいい?」


「あー、川崎の代理です、智樹と祐樹迎えに来ました! って言ってくれればいいよ、多分わかってくれるはず! それじゃあ合鍵渡しとくからしばらくお願いします! 夜ご飯は用意するからちょい待っといて!」

 そう言ってごそごそと鞄をあさって金色に光るカギを手渡してくれる。


「OK,それじゃあ行ってらっしゃい! 智樹と祐樹は僕に任せといて!」


「うん、ありがと! あ、お腹空いた、って言いだしたらいつものとこ……戸棚の上にお菓子入ってるから! それ食べさせといて、後ゲームのさせ過ぎにも注意して!」


「わかってる、わかってる」


「それじゃあ本当に頼んだで、高梨! それじゃあ行ってくる!」

 そう言ってたったと走り出す川崎ちゃんに手を振る。

 川崎ちゃんは家の事いっぱいで大変だな……それじゃあたまにはお手伝いしますか、まずはあの二人のお迎えだ!




「……あの二人ってさ……」


「いやいや、川崎ちゃんとけー君に限って……」



 ☆


「えっと……どなたですか? ずいぶんとお若い、というか高校生?」


「あ、すみません、川崎の代理の高梨慶太です。智樹君と祐樹君迎えに来ました」


「川崎ちゃんの? でも川崎ちゃんは……失礼ですが、あなた……」


「おー、慶太じゃん! どうしたんだ、こんなところ来て!」


「あ、慶太お兄ちゃん、久しぶり? なんで?」

 川崎ちゃんから送られてきた地図に従って保育園に向かって、困惑されながら保育士の方に話をつけようとしているとテトテトとブロックを持った智樹と、その服を掴んでよちよちと歩く祐樹がやってくる。


「おー、3日ぶりかな、二人とも! 今日はお姉ちゃんが用事あるらしいから僕が迎えに来たよ。帰るよ、智樹に祐樹!」


「お、そうなのか! じゃあ今日は慶太に色々遊んでもらうぞ、仮面ライダーごっこだ……でも今はもうちょっと遊びたい!」


「え、今日は慶太お兄ちゃんいるんだ……今日も敵役お願いです、慶太お兄ちゃん」

 僕の言葉に二人ともパッと顔を輝かせて、楽しそうにそう言う。

 前公園であった時とか家に行ったときも同じ遊びしたけど、子供って飽きないからすごいよね。


「わかったよ、遊んであげる……でも二人とももうちょっと遊びたいんだったら遊んでおいで。僕は適当に時間潰しとくから、終わったら呼んでね」


「うん、わかった! でも今日は慶太とも遊びたいから早めに切り上げる! 行くぞ、祐樹、速攻で終わらすぞ!」


「うん、智樹お兄ちゃん……それじゃあ慶太お兄ちゃんちょっと待っててね」

 そう言って二人とも他の友達が待つ保育園の広間の方へ戻っていく。

 それじゃあ僕はこの頭の上に?マークをたくさんのせた保育士さんへの説明タイムにしましょうかね。


「ごめんなさい、何の説明もなしに。そりゃ知らない人が代理、とか言ったら怖いですよね」


「い、いえ、そのすみません、こちらこそ……えっと、高梨君は川崎ちゃんの幼馴染か何かなの? でもそれならもっと……」

 申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた先生は、でもその後も頭に?マークを浮かべながら関係を聞いてきて……まあわかんないよね、確かに。


「クラスメイトです。同じクラスの同級生で、それで色々あって智樹たちとも仲良くなって。それで今日川崎ちゃんに急用が出来たから、ってお迎えを頼まれたんです。あと、帰った後の面倒もですけど」


「へ、へー、そうなんだ……という事はもしかして川崎ちゃんの彼氏だったりするの? 川崎ちゃんと付き合ってたりするのかな、高梨君は? だって面倒ってことは合鍵とかもらってるわけだろうし、それに弟と仲良くなるなんて……そう言う事なのかな?」


「あはは、よく言われますけど、付き合ってはないです、ただの友達です。家族ぐるみ……って感じではないですけど、僕も両親がアミーゴしていないのでそのあたりの苦労は何となしで分かるので。それでお手伝いさせてもらってるだけです」


「あ、そうなんだ……」

 少し残念そうにそう呟く先生。

 まあ川崎ちゃんもその気がないと思うし、それに僕も全然そんな気ないし。

 だからいい感じに出来てる……そう言えば最近川崎ちゃんは海未とも仲良くなったらしいし、またみんなでBBQとかでもしたいな、なんて。


「おーい、慶太帰ろう! お家帰ろう!」

 そんな事を考えていると、広間の方からダッシュで二人が帰ってくる。


「よし、帰るか……それじゃあ、先生これで僕は失礼します。ほら、二人とも先生に元気に挨拶して!」


『先生、さよーなら!』


「はい、さようなら智樹君に祐樹君……高梨君もまた来てくれていいよ」


「ありがとうございます……それじゃあ帰るぞ、危険なことに会わないように僕としかっかり手を繋ごうね!」


『うん、わかってるよ慶太!』お兄ちゃん」

 両手に二人の手を握りながら、僕は川崎ちゃんの家に向かって歩き出す。

 川崎ちゃんの家はここから徒歩で10分くらい、ちょっと遠いけど頑張りましょー!



「お、慶太トンボがいる! 捕まえてきていいか!」


「だーめ、川崎ちゃん虫嫌いなんだから。お姉ちゃんに怒られても知らないよ」


「えー……それじゃあ公園で遊ぶのは!? なあ祐樹、遊びたいよな!?」


「え、僕は別に……ど、どっちでも」


「それもダメ、川崎ちゃんに早く家に帰るよう言われてるから。カギも預かってるし、早く帰るよ!」


『はーい』

 ……しかし、子供の面倒見るのって大変だな。

 川崎ちゃんもだけど母さんとかの苦労もよくわかるわ。




「……ねえねえ、さっきの智樹君迎えに来た男の子! あれって川崎ちゃんの彼氏君なの? とうとうあの子にも春が来たの!?」


「ううん、違うみたい。クラスメイトだって」


「えー、そうなんだ! ずっと頑張ってる川崎ちゃんがついに報われたと思ったのに~!」


「……まあ、家にも出入りしてるみたいだし実質……なんじゃない、的な」


「おー、ビューティフォーな関係!」



 ☆


「慶太、早く遊ぼ、早く遊ぼ!」


「ちょっと待って、まだカギも空けてないでしょ……良し、あった。ほらほら、はしゃぐんじゃない、もうちょっとで開けるから家の外ではしゃぐなよ」

 川崎ちゃんの家の前、ワキワキと楽しそうにはしゃぐ二人にそう言いながら鍵穴をぐるりと回す。


「……あれ? 閉まってる……って事は最初から空いてた?」

 不用心だな、なんて思いながらもう一度カギを回して、扉を開ける。


「あ、ごめんごめん、姉ちゃんカギあけっぱ……って誰?」

 扉を開けるとそこには僕と同じくらいの年齢の男の子が少し驚いた顔で立っていて……え、誰だっけ、この子?


「ん、お帰り姉ちゃんに智……って誰だあんた!? 姉ちゃんの彼氏か!?」

 僕の頭にも?マークが浮かぶ中、のっそりと部屋の奥からもう一人手前の男の子と同じ顔の男の子が現れて……え? え?



 ★★★

 あと2話で最終章に入ります、今はサブイベント消化中。

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