第42話 透ちゃんとプラネタリウム

「弟にフラれたんです……今日は弟の恭ちゃんとデートの予定だったのにフラれたんです、他の女の子と行くからって……ふええ、なんで……」

 入ったファミレスでカレー4杯ハンバーグ4個と驚異の食べっぷりを見せたオシャレ可愛い透ちゃんがもう一度泣きそうになって……ちょっとダメダメ透ちゃん! また注目集まっちゃうよ!


「と、透ちゃん落ち着いて! ほら、僕で良ければ話聞くからさ、何があったか詳しく教えてよ」


「ぐしゅ、ぐしゅ……お兄さんは優しいですね……ぐしゅ」


「あはは、それほどでも。それじゃあ教えてくれる?」


「はい……今日は恭ちゃんとデートする予定だったんです。あ、うちの弟恭ちゃんって言うんですけど、その可愛い弟デートする予定だったんです」

 涙を拭きながら、メロンソーダをチューチュー啜って透ちゃんが答える。

 なるほど、それで出かける予定だったけどキャンセルされたって事?


「はい、断られました……中3にもなってお姉ちゃんと出かけるの恥ずかしい、って、それなら友達と遊んだほうが楽しい! って仲のいい女の子と出かけてしまって……思春期なのはわかってましたけど、同級生の方が良いのもわかりますけど、でも悔しくて、悲しくて……」


「それは大変だったね」


「はい、大変でした……私あんなに可愛がってたのに、こんなに大好きなのにでも恭ちゃんはぜんぜん応えてくれなくて……この前私誕生日だったんですけど、その時もプレゼントどころかおめでとうも言ってくれなくて……ホントダメです、悲しいです、泣きそうです……ぐしゅ、ん!」


「おかわり? メロンソーダ?」


「はい、お願いします……ぐしゅ」

 またまたおかわりを要求されたのでそれにこたえてドリンクバーへ。

 しかし透ちゃんが弟君にそんな事……僕は海未と仲いいし、あんまりケンカとかしないし、海未がそんな冷たい思春期みたいなこともなかったけど、そう言うのがあると大変だよね本当に。


「お待たせ、どうぞ」


「ありがとうございます……美味しいです、たっぷりで美味しいです」

 ストローも使わずに氷をがぶがぶかぶりながらジュースを啜る。


 しばらくして落ち着いたのか、おずおずと僕に向かって口を開く。

「……お兄さんは海未ちゃんとケンカとかしないんですか?」


「ん、僕? 僕は海未とケンカはあんまりしないな」


「そうですよね、海未ちゃんとお兄さんは仲良しですもんね、大好きですもんね……羨ましいです、ホント。私と違って……ごくごく」


「あ、でもこの前ケンカしたよ。海未が楽しみにしてたプリン勝手に食べちゃってしばらく口きいてくれなかったな」

 全然知らずに普通に冷蔵庫にあったから食べちゃったら海未のプリンだって、拗ねてお詫びにお菓子作ったけど食べてくれなかったな、あの時は。


「お兄さんと海未ちゃんでもケンカするんですね……ちなみにどれくらいで仲直りしたんですか?」


「ん~、5時間くらい? お腹空いたからやっぱりお菓子食べる! って言って僕の作ったの食べてくれてそこでお互い仲直り、みたいな」


「……やっぱり羨ましいです。恭ちゃんと私はそんな簡単に出来ないです、多分」

 ぷすぷすとそう言いながらまたまたストローいじいじ。


「大丈夫だって、すぐにまた仲良くなれるよ……それに冷たいのは何か用意してるのかも! わざと冷たくしてるとかもあるかもだよ!」


「そんな事ないですよ、多分。恭ちゃんに限ってそんな事……ホントに最近全然ですもん、めっちゃ冷たいですもん……でも仲良くはしたいです。大好きな恭ちゃんと仲良くしたいですけど」


「ふふっ、そっか……こういう時は結構時間が解決してくれる、って言うのもあると思うよ」


「時間ですか?」


「うん、時間。多分弟君もべたべた仲が良いのがちょっと恥ずかいだけだと思うし、しばらく時間置いたらまた仲の良い関係に戻れるんじゃないかな? 適切な姉弟の距離感で、上手いことやればまた仲のいい兄弟に戻れると思うよ! あんまり仲良くしすぎるのも逆に関係がうまく行かないかもだからね!」


「お兄さんに言われても説得力ないですよ、それ……でもありがとうございます、おかわり、いいですか?」

 そう言ってまたまたコップとお皿を突き出してくる……まだ食べるの?


「はい、しゃべってたらお腹空いちゃったので!」

 嬉しそうな声で満面の笑みを浮かべる……可愛いなぁ、しょうがないな!



 ☆


「がつがつ……そうだ! お兄さん、今日私に付き合ってくれませんか?」

 大盛のカレーをがつがつ食べていた透ちゃんが思いついたようにパンとお皿をスプーンでたたいてビシッと僕の方を指してくる。


「透ちゃん、カレー飛んじゃう。それより、付き合うって何に?」


「あ、すみません、ついつい……付き合うって言うのはプラネタリウム、一緒に来て欲しいんです! 今日せっかく予約取ってたのに行かないのはもったいないですから! それに私一人では悔しいですし、お兄さんには恭ちゃんの代わりをしてもらいたいな、って! はぐはぐ……ん!」

 ニコニコ笑いながらそう言って、僕の方に空になったコップを渡してくる。


「そろそろ自分で入れてよ、別にいいけど。プラネタリウムは一度僕も行きたいとは思ってたけど、相手僕でいいの? 一緒に行く人僕でいいの、他に友達とか大丈夫?」


「お兄さんが入れてくるのが美味しいのでお兄さん頼みます! あと私は男の子の友達いないですし、ここはお兄さんに頼みたいです! どうせ今日限りの男女ペアチケットなので! という事で良いですか、お兄さん?」

 ゴソゴソと鞄を漁って、取り出すは二枚のチケット、確かに今日限りのペアチケット。まあ、僕も行きたかったし、透ちゃんがそう言うならいいか。


「わかった、一緒に行こうか」


「はい、お願いします! でも今は私のメロンソーダ、取ってきてください!」

 カレーをモグモグしながら、茶色くなった唇を大きく開いてにへへと笑顔。

 こんな顔されて取りに行かない人はいないので、ちゃんと取りに行ってあげますよ!


 ……透ちゃんは男の友達いないのは何となくわかる気がするな。

 結構フレンドリーだけど、でもすごくキレイで可愛いから。緊張しちゃって男の子の方が話せないんだろうな。


 ☆


「よし、腹ごしらえも済みましたしレッツプラネタリウムです!」


「もうついてるけどね」


「はい、そう言う雰囲気壊す言葉はダメですよ、お兄さん!」

 そう言ってぷく―とほっぺを膨らませる。


 あの後、透ちゃんが食べた〆て5200円のお食事代を結構遠慮されたけど払って、新しくできたプラネタリウムへ。

 妹の友達にお金ださせるのは悪いし、それにチケットも貰うしね、ここはお金出させてもらいますよ。


「それじゃあ、入りましょう、もう少しで始まるそうなので! 行きますよ、お兄さん!」


「はーい、ありがとね、透ちゃん!」


「それはこっちのセリフなのです! それでは受付してきますので少し待って……いや、やっぱり一緒に来てください、二人で受付しないとダメみたいです! 早く来てください、お兄さん!」

 ドタバタしながら僕をひょいひょいと手招きで呼びよせる。


 その行動から僕と透ちゃんにはかなりの痛い視線が飛んできていて……あはは、会った時もだけどこんなに視線浴びるの初めてでなんか新鮮。そしてちょっとヤダな。

「もう早く来てくださいよ……ってどうしました?」


「いや、ちょっと視線がね。あんまり注目されることがなくて少し変な気分になっちゃってね」


「……これくらい普通ですよ、慣れないとダメですよお兄さん!」


「……透ちゃんは凄いや。取りあえず早く受け付け済ませよ」


「そうですよ、もう時間ないです!」

 ぷくぷくほっぺを膨らませた透ちゃんと一緒にカウンターで受け付け。

 透ちゃんは視線とか浴びる側の人間だからそう言うの得意なんだろうな……ちょっとだけ弟君がなんで一緒に居たくないかわかった気がする。



 ☆


 プラネタリウム、暗い世界。

 天球に星がないとかなり暗くて……始まる前からこんなに暗くする必要はないと思うんですけど。


「お兄さんは星とか好きですか? 私はプラネタリウムは初めてですけど夜とかにジュースとかアイスとか食べながら見る星は結構好きです!」

 でろーんとすでに椅子に寝転がった透ちゃんがぺちぺち僕の椅子を叩きながらそう言ってくる。


「食べることばっかだね、透ちゃん。僕も結構好きだよ、たまに海未と一緒に見ることあるし」


「別にそこまで食いしん坊じゃないですよ、私は! そして羨ましいですねぇ、また海未ちゃんとですか!」


「カレーとハンバーグをいっぱい食べてた人が何を言う。それに羨ましいんだったらまた家来ていいよ、海未と一緒に見たらいいよ」


「そこじゃないです、羨ましいとこずれてますよお兄さん……ってもうそろそろ始まるみたいですね、シーですよお兄さん! うるさくしちゃダメですよ!」


「それはこっちのセリフだよ、透ちゃん。でもシーだね、シー」

 より一層暗くなった施設の中でかろうじて見える距離で指に手をやってシーと薄く息を吐く。そっちの方が喋ったたけど、集中したいから僕もシー、します!


 真っ暗になった中からふわっと天球に星が浮かぶ。

 今の時期の秋の星空を表していて最近見た世界がちらほら見えて、そこに女の人の解説も交じってわかりやすく星が解説される。

 神話の解説から発見から……ふふっ、やっぱり面白いな、こういう世界は。


「……んっ」


「……!?」

 しばらくプラネタリウムの世界に没頭していると、突然手に温かい感触。

 見てみると透ちゃんが僕の手をギュッと握っていて……!?


「と、透ちゃん、どうしたの急に?」


「……私、恭ちゃんとこういうことしたかったんです。小さい頃こうやって手を繋ぎながらよく星見てて、それで昔思い出して仲良くしたくて……だから手を繋ぎました」

 コソコソと周りに迷惑かからないような囁く声でそう言う。

 その目は、声はどこか寂しそうで悲しそうで、でもなんだか嬉しそうで。


「……僕弟君じゃないよ」


「いいんです、今日はお兄さんが恭ちゃんの代わりなんですから……だからしばらくこのままで見ましょう、慶太さん」

 そう言ってもう一度ギュッと僕の手を握ってきて。


「……しょうがないなぁ」

 だから僕もその手を握り返して一緒に仮初の星空を見ることにした。



「……お兄さんは海未ちゃんとこんな風にすることありますか? 海未ちゃんと手を繋いだり、こうやって遊んだりしますか?」


「たまにね。たまにはそう言う事もするよ」


「……やっぱり羨ましいです。それに上映中はシーですよ、お兄さん」


「……透ちゃんから話しかけてきたんだよ?」




 ★★★

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