第41話 透ちゃんと涙とふにゃにゃ
「兄さん、それでは海未は少し用事がありますので。今日は土曜日ですが兄さんは一人でお留守番、お願いします」
少しオシャレした海未が、ショルダーバックをくるくるいじりながらそう言う。
彩葉と梓が仲良くなってから早一週間、僕たちはいつも通りの楽しい日常を過ごしていた。
学校では彩葉とか良哉とか川崎ちゃんとかと楽しく遊んで、学校が終わったら最近家にいることが多い梓と一緒に夜ご飯を食べたり、遊んだり。
これまでちょこちょこあった千尋の過激派側近からの嫌がらせ、って言うのもなくなって、友達とかが協力してくれるおかげで千尋との接触も避けられて。
だから僕は今はすごく平和に過ごしています……まあ、今なら千尋と会ってもどうにもならないとは思うけど。
しかし、今日の海未は何か凄くおしゃれだな……ふふっ。
「海未、なんだか今日は気合入ってるけど、誰かとデートでも行くの? もしかして彩葉とデートとか?」
「ち、違います! 私別に彩葉さんの事好きじゃないですし、彩葉さんとのデートなんかじゃありません!」
「たまに二人で出かけてたじゃん……本当に? この前彩葉と付き合ったら、みたいなこと言ってなかった?」
「あれはものの例えで……もう、いじわるする兄さんは嫌いです。ぷんぷんです」
そう言ってぷいっと拗ねたように顔を背ける。
あはは、ごめんごめん。でも僕は応援するよ、彩葉の事好きなんだったら。
「だから、それは……も、もう! 行ってきます、夜には帰ってきますから! 兄さんはお留守番するか、どこか遊びに行くか楽しく過ごしてください!」
「うん、わかってる。それじゃあ海未も楽しんでね。行ってらっしゃい、海未」
「はい、行ってきます」
そう言うとガチャっとドアを開けて海未の気配が部屋から消えていく。
ふふっ、海未も素直じゃないんだから……彩葉は海未の事どう思ってるのかな? 海未の事好きなんだったら色々考えて……って僕が何かすることでもないか、ここは若い二人に任せましょうや。
それより今日はどうしようかな?
一人で海未の帰りを待って、美味しい物作るのも良いけど、でも今日は涼しいけど天気のいいお出かけ日和だし……今日は僕もお出かけしようかな?
「あ、海未ちゃん! おーい、海未ちゃん!」
「大丈夫ですよ、気づいてますよ梓さん。そんな興奮しないでください」
「だ、だって今日レコーディングって聞いたもん! Vtuberで海未ちゃんと配信始めて2週間で歌を歌う、って聞いたんだもん! それは興奮するよ!」
「そうですか。でも今日歌う歌、梓さんのパートあんまりないですよ? 練習してきてくれましたよね?」
「そりゃばっちり! いっぱい練習してきたよ……やったぜ! せやなー! 溢れる感動で言葉も出んか~」
「はい、ばっちりですね、梓さん。ちなみに私もばっちりです……朝ごはんとチョコミント、昼ご飯のデザートも……」
☆
「やっぱり土曜日、人が多いなこの辺は」
太陽の光が優しく地面を照らす土曜日のお昼、僕は駅近くの人通りの多い道を歩いていた。
みんな楽しそうにどこに行こうか、何食べようかと楽しそうに話している……僕? 僕は特にあてもなくこの辺をふらふらしているだけだよ、そういう日もある。
そう言えば最近この辺に新しいプラネタリウムが出来たらしいからそこに行こうかな……いや、でもプラネタリウムに一人で行くってどうなんだろう、絶対カップルとかいっぱいいるよね。
そこに一人で行くのは何かやだな……
「……ん?」
そんな事を考えていると道のそばに設置されているベンチのそばで小さく丸くなってわんわん泣いている女の子がいることに気づいた。
周りからじろじろ見られているけど、それでも気にしないようにわんわん泣き続けて……多分この子が注目されている理由は泣いてるからだけじゃないな。
雪のように真っ白で透き通るようなキレイな髪に、服の隙間から覗くキレイな肌。
スタイルも良くて、顔を見るまでもなく可愛いとわかる少女……そして僕はこの女の子の事を多分知っている。
「……大丈夫? 透ちゃん、だよね? どうしたのこんなところで?」
「ふええ、誰ですか~……ぐしゅ、ぐしゅ……」
僕が声をかけると、その子はふわっと涙でふにゃふにゃになった顔をゆっくり上げる。真っ白でキレイな顔に大空のように青い目……うん、やっぱり透ちゃんだ。ていうかこんな子が何人もいても困る。
それよりなんでこんなところで鳴いてるんだい、透ちゃん?
「僕だよ、海未の兄の慶太。こんなところでどうしたの、大丈夫、透ちゃん?」
「ぐしゅぐしゅ……ホントだ、よく見たらお兄さんだ、海未ちゃんの大好きなお兄さんだ、海未ちゃんに優しい……うわーーん、なんでデート行ってくれなかったの! なんで私との約束裏切って他の子のところ……なんで、なんでなのお兄さん!」
再び目に涙を浮かべて、僕にもたれかかって周りに響くような声でそう叫んで……ちょちょちょ透ちゃん?
「な、何の事? どういう事透ちゃん!?」
「なんで、なんで行ってくれなかったの……もう、なんでぇ……」
「え、本当に何……はっ!?」
泣き止まずにさらにぐしゅぐしゅワカンナイことを言う透ちゃんに困惑していると、周りからの視線がものすごいことに気が付いた。
……そりゃそうだよね、透ちゃんめっちゃ可愛いし、今もおしゃれしてて可愛さMAXだし。
そんな子が「裏切って~」とか「他の子と~」とか言ってたらそりゃ注目浴びるよね、そして僕の評価は最低男!
「なんで、なんで……なんでなの恭ちゃん……」
「と、とりあえず場所変えよ! そこで話は色々聞くからさ! だからちょっとここはダメ、他の場所で話聞くよ、透ちゃん!」
「ふえっ、お、お兄さん……?」
ずっと泣きじゃくっている透ちゃんの腕を取って人の目から逃れるために移動する。
何だかよくわかんないけど、とりあえず透ちゃんが落ち込んでるのはわかるから……こういう時は美味しいものだ、お金ないからファミレスだけど!
☆
「……がつがつがつがつ……」
「……よく食べるね、透ちゃん」
入ったファミレスで3個目のハンバーグをおかずにおかわり無料のカレー(3杯目)を食べる透ちゃんに思わず苦笑い。
梓に負けず劣らずこの子もよく食べるなぁ……その真っ白なオシャレな服が汚れないか僕はすごく心配です。あと僕の財布も心配。
「がつがつがつがつ……ん! んんっ!」
「どうしたの? ジュース飲みたいの? さっきと同じメロンソーダでいい?」
「ん! んんっ!!!」
ほっぺをご飯でいっぱいにして、無言で僕の方にコップを突き出してくる透ちゃんからグラスを受け取り、ドリンクバーへ向かう。僕もなんか飲もう。
「はい、取ってきたよ」
「ん! んんんっ! んん!!!」
首を激しく縦に振って、お礼をしてくれる透ちゃん……透ちゃん、こんな子だったんだ。もっとクールで静かな感じかと思ってたけどなんか面白い子だな。
「ん~、ん!」
「あはは、ゆっくり食べなよ透ちゃん。落ち着いたら色々話してくれたらいいからさ」
「んん! んんん!!!」
しばらくがつがつとご飯を食べ続ける透ちゃんを僕は見守り続けた。
この子は本当にキレイだから何しても絵になるな、可愛い。
「ふ~、食べました……ありがとうございます、お兄さん。おかげで元気出ました」
もう一個ハンバーグを食べてカレーをおかわりした透ちゃんが膨れたお腹をさすり長ら可愛い笑顔でそう言う。
笑顔が戻ってよかった……それなら理由聞こうかな?
「ふふっ、元気になったみたいで良かった。で、なんであんなところで泣いてたの?」
「それは、その……弟にフラれたからです」
「……え?」
「弟にフラれたんです……今日は弟の恭ちゃんとデートの予定だったのにフラれたんです、他の女の子と行くからって……ふええ、なんで……」
ストローをいじいじしながら透ちゃんは泣きそうな声でそう言って……ダメダメ、泣かないで透ちゃん!!!
★★★
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