第26話 海と梓といちゃいちゃと
『……』
キスの話から私と海未ちゃんの間で流れる少し気まずい沈黙の時間。
足の間に海未ちゃんがいるのに、ちょっと遠くに感じる気まずい時間。
私が悪いんだけど、でもえっと……
「あ、梓さん。その……後ろからギュッとしてもらっていいですか? 海未の後ろからギュッとしてもらっていいですか?」
「……え?」
色々話すことを考えていると、これまた気まずそうな声で海未ちゃんがそう呟く。
「ど、どう言う事?」
「いいから、ギュッとしてください……ギュッとお願いします。そうしないと兄さんに内緒でちゅーした罪で梓さんの事嫌いなっちゃいますよ」
「え、それは困るなぁ……う、うん。わかんないけど、わかった……ぎゅー」
言われたとおりに海未ちゃんを背中からギュッとする。
少し骨っぽいけど、やっぱり女の子らしく柔らかくて湯たんぽみたいにぽかぽかで……ふふっ、中学の時から変わってないな、海未ちゃんは。
「んふっ……んふふっ」
腕の中の海未ちゃんがすりすりと猫なで声を出す。
くりくりと楽しそうに頭を左右に揺らして……やっぱり可愛いなぁ、もう! ずっとずっと可愛いなぁ、慶太の妹だからってのもあるけど、やっぱりそれ抜きでも妹に欲しくなっちゃう!
「んん~、ふふふっ、ねへへ……あ、梓さんやめてください、お腹こしょこしょしないでください。くすぐったいですし、あばら骨がふにょふにょします。気持ちいいですけど、気持ち悪いです」
「ふふっ、海未ちゃんすべすべだよ~、そしてあばらがふにょふにょってどういうこと? 私にはちょっと意味が分からないなぁ? こしょこしょこしょこしょ」
「あはっ、ふふっ、んんっ……も、もう、梓さん! やめてください、悪ふざけしないでください。怒りますよ、海未が全力で兄さんの事含めて梓さんを怒っちゃいますよ! 海未が怒っちゃいますよ!」
「でも海未ちゃん怒ってもそんなに怖くないからな~」
「んんんっ! 梓さん!」
おどけた声ですべすべお腹をこそばしていた私に向かって、ずんずんと怒りの頭突きが飛んでくる。
全然痛くないし、マッサージ程度だけど海未ちゃんには嫌われたくないからここでストップ。でも聞きたいことはあるある。
「アハハ、ごめんね海未ちゃん。可愛くてつい……それで海未ちゃん。どうして私にバックハグしてほしかったの?」
「む~、反省してますか、本当に? 梓さん、ちょっとあれな気がしますけど。兄さんの件も含めてなんかいじわるな気がしますけど」
少し汗ばんだ顔に訝しげな目で私の方をジトッと見てくる。
その顔も可わ……じゃなくて、ちゃんと反省してるよ!
「反省してるよ、海未ちゃんに嫌われるの嫌だし! だから教えて、なんでバックハグしてほしかったか」
「本当ですか、別にいいですけど……ギュッとしてもらったのは梓さんにいちゃいちゃのお手本を見せるためです。これがいちゃいちゃだ、って言うのをちゃんと知ってもらうためです」
相変わらずの目線だけど、でも少し誇らしげに胸を張る……海未ちゃんなんて?
「……いちゃいちゃの見本?」
「はい、見本です。梓さん、全然いちゃいちゃしてませんでしたし、ずっこいちゅーとかしてましたし……いちゃいちゃの基本がなってないです、全然です」
「いちゃいちゃの基本? それは別に……」
「別にじゃないです、なってないったらなってないんです。そもそも基本がなってたら眠ってる人にちゅーしないです、そんなのしなくても起きてるときのいちゃいちゃでじゅうぶんですから。普通は睡眠無理やりちゅーなんてしないです」
「うぐっ……」
海未ちゃん、慶太にキスしたのやっぱり相当怒ってるな。
確かに今考えるとダメだよね、興奮したけどダメだよね、我慢できなくてするなんて性犯罪者の言い訳だし。
「そうですよ、反省してください。海未は別に怒ってませんけど反省はして欲しいです……という事でそんな梓さんにいちゃいちゃとはこれだ! というのを教えてあげようと思ったんです。私が兄さんといつもしているいちゃいちゃを再現して、同じように梓さんにもしてもらおうと思ったんです」
「……再現? 慶太といつも?」
「はい、海未はいつも兄さんといちゃいちゃしてますから。海未と兄さんはいちゃいちゃラブラブですから。だからお手本見せてあげようと思ったんです。兄さんは海未の事好きって言ってくれましたし、私も兄さんの事大好きですし、両想いいちゃいちゃのお手本です」
ぬふふと可愛い笑顔を浮かべて、笑う。
……う、海未ちゃんといつもこんなことしてるなんて慶太はやっぱりシスコン大魔神じゃん! 慶太やっぱり海未ちゃんの事大好きじゃん、私には言わないくせに!
「補足すると兄さんは足の間じゃなくてお膝の上でやってくれますよ。兄さんのぷかぷかの膝の上でギュッとしてくれますよ」
「ひ、膝!? 膝はちょっとエッチすぎませんか!?」
膝の上でバックハグはまずいですよ、慶太! それは流石に兄妹でやっていいところ超えてるよ、多分!
なんか思ってた以上にいちゃいちゃしてて私ビックリ……海未ちゃんに押し切られて、仕方なくって形なんだとは思うけど……そう、だよね?
「ふふ、どうでしょうか。それと海未と兄さんは兄妹ですからえっちじゃないです……それに他にも色々いちゃいちゃしてますよ、お手本見せてあげるです」
少しびっくりしている私の足の間からぴょんと飛び上がると、海未ちゃんは私の隣にぴょこっと座る。
そしてころんと寝転がり、私の腰にギュッと抱き着いてきて。
「ふふっ、兄さんに甘えたいときはこういう格好で甘えるです。この格好だと兄さんの体と匂いとその他もろもろを一気に摂取できるので最強なのです。しかも頭を撫でてくれるオプション付きです、摂取兄さんが多すぎてパンクしちゃうかもです」
「な、なるほど……す、すごいね、海未ちゃん。こ、これはいちゃいちゃ感すごいよ!」
なんか腰に抱き着くってすごい特別感あるし、摂取兄さんって言葉もなんかすごいえっち!
「だから海未はえっちじゃないです、別に。兄さんが好きなだけです、甘えたいだけです……そしてもう一個気持ちいいポイントがあります……梓さんにもありました、失礼しますね」
「な、何海未ちゃん……んんっ!? ん、んん!」
ちょっとだけ不機嫌な声でそう言った海未ちゃんが気持ちいいポイントと言って私の腰骨をコリコリと……あ、やばいこれ、ちょっとやばいかも!
なんかすごい気持ちよくてふわふわで……あ、そこやばい、やばいとこかも!
「ぬへへ、兄さんほどではないですけど梓さんのコリコリも……あれ? どうしましたか、梓さん?」
「ふぇ? ハァハァ、いや、何でも……んっ、んっ!!!」
「……なるほど、梓さんはここが弱いんですか。ふふっ、それじゃあもっと攻めちゃいます、ちょっと仕返しです。私も気持ちいいですし、存分にコリコリしちゃいます」
私の反応にニヤリとほっぺをあげた海未ちゃんがもっと強く早く私の腰骨をこりこりこりこり……あ、やばい海未ちゃんもうらめ、それはらめらめ!
「ふふふっ、気持ちい良いですか、梓さん? もし兄さんといちゃいちゃするなら、これを兄さんにしてもらえるんですよ? 正々堂々ならして貰るんですよ? ふふふっ、兄さんにしてもらえるんですよ」
「う、海未ちゃんもうらめ、やめ……ふ、ふぇ? け、けいたがして……ふええええ!?」
こんなの慶太にしてもらったらやばすぎるよ、すぐにイッっちゃうよ……それだけでは絶対に終われないし、その後慶太の慶太で私の中もこりこりしてもらってそれでそれで……ああ、ダメダメ、慶太! 私たちまだ学生だし、それは、でも慶太のならいいよ、私も……んんん、慶太! 慶太慶太慶太!!!
「もうらめらめ、らめらよ、らめぇぇぇ……」
「……海未もう何もしてないですけど。少し前に離れましたけど……梓さん大丈夫ですか?」
慶太そこはダメだよ、そんなのは……も、もうけいたぁ! 大好き慶太!!!
あ、でも海未ちゃん見てる我慢しなきゃ、けいたも我慢しなきゃぁ……
「……あ、梓さんが壊れました、どどどどうしましょうか……?」
☆
「……ごめんね、海未ちゃんだらしないところ見せちゃって。後かってに慶太にキスして。ほんとごめんね」
「いえ、もう大丈夫です……それより梓さんは大丈夫ですか? さっきまで変な挙動してましたけど……?」
何とか慶太との色々を必死にこらえて真顔に戻って海未ちゃんに話しかけると、心配そうに私の方を見てくれる。
心配してくれてありがと……でも、大丈夫だよ。
「大丈夫、私は元気。それで海未ちゃん、話したいことはもう終わった? それじゃあ、私と一緒にもっとカラオケで歌おうよ! もっと海未ちゃんと遊びたいし!」
「大丈夫なら良かったです……そして梓さん。兄さん関連の話は終わりですが、もう一つ、話したいことがあります」
マイクを差しだした私の手をやんわりどけて、海未ちゃんがポケットからピンク色の何かを取り出す。
何それバイ……ダメだ、頭がピンク色になってる、早く戻さなければ。
「梓さん、少し耳貸してもらっていいですか?」
「うん、いいよ」
言われたとおりに耳を海未ちゃんの方に近づける。
ふー、と小さく息を吸った海未ちゃんが私の耳元に口を近づける。
「やっほー、梓さん! 今日は楽しいですよ、梓さんとあえて」
耳元で囁かれる小さいけど元気のある声。
その声はすごく聞き覚えがあって。
「……み、ミナレット、ちゃん?」
私の言葉に海未ちゃんはニヤリと笑った。
★★★
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