彼女に浮気されてフラれたら、女友達と妹が迫ってくるようになった

爛々

第1章

第1話 彼女に浮気されてフラれた

 突然だが、僕の彼女は浮気をしているかもしれない。


 昨日、学校帰りに妹に頼まれて隣の街まで買い物に行っていたら彼女が他の男と手をつないで歩いているところを見てしまった。

 コソコソ隠れるように後をつけていると、彼女と男はそのまま路地裏に入って、そのままキスをして。


 僕には許してくれなかったその唇を他の男の人に簡単に差し出した光景を見た僕は現実を受け入れたくなくて、嘘だと思いたくてそのまま逃げるように帰ってしまった。


 ……見間違えじゃないかって?

 それならどれだけ良かったな。

 あいにく彼女を見間違えるほど僕はばかじゃないし、それに……彼女は見間違えるような姿をしていないんだ。

 どこにいてもわかるし、誰よりも美しい、それが僕の彼女なんだ……浮気されてるかもだけど。


 透き通るような白い肌とキレイな金髪―街を歩けば誰もが振り返るような美貌ををもった彼女は学校中のアイドル。

 誰もが憧れる、どこにいても目立って視線を独り占めにする、そんなハイスペックな存在。


 対して僕は何というか、その……まあ、普通の存在。

 顔はえくぼが出来る以外は普通、友達はそれなりにいて、勉強もそれなりだけど、平均+5点から抜け出せないようなそんな平凡な存在。

 彼女と一緒にいる時は羨望の目がものすごく痛かった……あまり一緒にいた記憶はないけど。


 ……正直、付き合えたこと自体がキセキというか、もともと釣り合っていないという事は自覚していたというか。

 友達にも「やめておけ」「無理だ」「絶対なんかある」って言わ続けてたから、そこまで浮気されていることに対してショックとかは感じていない……と思う。

 付き合って一年で手もほとんどつないだことなかったし、デート行っても彼女の買い物の荷物持ちみたいな感じだったし、学校でもほとんど喋ってなかったし、電話とかそう言うのも全然しなかったし、恋人っぽいことしたの最初の一か月くらいだけだったから、ショックは全然ない……と思う。

 うん、だから全然ショックとかは、その、えっと……



 ……ごめんなさい、本当はめちゃくちゃショックです。

 彼女の事が大好きで、ずっと好きでようやく夢がかなって付き合えてから。

 どれだけ恋人っぽくなくても、全然あっちが構ってくれなくても塩対応でも、彼女と付き合ってるという事が、彼女の恋人でいるという事実が嬉しかったというか。

 好きな人とどこかで一緒にいるって、すごく嬉しいから。


 それに恋人ならどれだけ塩対応でも心のどこかでは僕の事を一番に好きだって考えてくれていると思っていたから、だから浮気はショックというか。



 ……本当はこのまま逃げて、浮気なんて気づかないふりしていれば多分まだずっと恋人でいられるんだけど。そうしたい気持ちも全然強いんだけど。


 でもやっぱり整理はしないといけないと思うんだ。

 浮気現場ばっちり見ちゃったわけだし、こんなモヤモヤした気分じゃ学校生活にも支障があるし、だから一回話しておかないといけないと思った。

 だから、今日の放課後、僕は彼女を校舎裏に呼び出した。



 ☆


「何、どうしたの高梨君。用件なら早く言って欲しいんだけど」

 放課後、呼び出した校舎の裏で待っていると、彼女―鈴木千尋すずきちひろがけだるげな表情でスマホをいじりながら現れた。


 ふんわりとなびく金髪も、銀色に輝くダイヤみたいな瞳も、均整の取れたスタイルも全部全部相変わらずキレイで、美しくて、もうこの姿を見ただけで全部許したくなる。何もなかったって言いたくなる。


 ……でも、今日は逃げちゃダメだから。

 今日の僕―高梨慶太たかなしけいたはちゃんと話すって決めたんだから。


「あ、あのさ、千尋。その、嘘だったらすぐ嘘って言って欲しいんだけどさ」


「……何、その気持ち悪い聞き方? そう言う女々しい気持ち悪い話し方、私嫌いってずっと言ってるよね」


「あ、ごめん……あ、あのさ、千尋、その、えっと」


「そう言うグチャグチャな話し方も嫌い、何度言ったらわかるの、バカなの? 私には時間がないの、早くしてほしいの。あんたに使ってる時間なんてほとんどないから」

 ポチポチとスマホをいじりながら、冷たい声で興味なさげにそう言って。

 もう僕の方も見てくれないんだ……でも、話さないといけないよね。


「あ、あのさ、千尋昨日隣町で男の人と一緒にいたよね? その、結構仲良さそうに手を繋いで歩いてたよね?」


「……それで? それがどうしたの?」


「え? それがって……」


「え、じゃないでしょ、質問の意味も分からないの? 本当にバカなんだね、あんたは……私が男の人と歩いていたらあんたにどんな影響があるのか聞いてんの」


「ご、ごめん。その千尋がその別の男の人と歩いてると、その、僕的には……」


「……チッ、はっきり喋んなよ。そう言うしゃべり方大嫌いだってさっきも言ったよね、なんでわかんないの、何で出来ないの? 本当にバカだよね、あんた。そう言うとこ大嫌い。野良犬の方がずっと物分かりが良い、私をイラつかせないでくれる?」

 スマホをいじる手を止めてギロリと弾丸のような冷たさで僕の方を睨んでくる。


 ……最近、ずっとこんな感じなんだよね。

 何かしゃべってもすぐに怒られて、会話切られて、色々言われて。


 でも僕が出来ないのが悪いんだし、それにこう言う事言ってくれてるうちはまだ僕の事好き、ってことだよね?

 その、期待してないとこう言う事言ってくれないと思うし、好きだからこそ改善してほしいからずっと言ってくれてるんだよね?

 最初しかデートとかしてくれなかったのも僕が全然ダメだからだよね、僕がちゃんとしてなかったからだよね?


 ……うん、そうだ、絶対そうだ!

 3日ぶりぐらいに千尋と話したけど、確信持てた。

 まだ僕の事多分好きでいてくれてるんだよね、うん!

 昔から千尋、こんな感じで僕を鼓舞してくれるんだから!


「あ、ごめんね。ほんとにごめん、何もできない僕でごめんね」


「チッ、そうやってすぐにへこへこするとこも嫌い……それで何? 私が男と歩いててどうなの、その答えだけ早く聞かせて」


「うん、そうだね。その、仲良さそうに歩いてたから浮気かと思ったけど、でも千尋と話してみてそんなこと……」


「あ、気づいてたんだ。あんたバカだから浮気とかわかんないかと思ってた。これからも金づるとして使ってあげようかと思ってたけどざーんねん。でも、気づいたとしてもこうやって女々しく本人に聞くなんて……やっぱりあんたの事、嫌いだわ! アハハ、ホント気持ち悪いわ、あんたのそう言うとこ! 男だったらそんなの気にしないふりしてずっと私の金づるでいてほしかったな! ほんと女々しくてキモイわ、そう言うとこ!」

 バサッと金色の髪を優雅にかき上げて千尋は笑う。

 でも言ってる内容は全然優雅じゃなくて。


「……え、その、どういう……」


「何? まだ私と話すの、あんた話すことなんて何もないんだけど? もう話すこと終わったんでしょ、早く彼氏のとこ行きたいんだけど。気持ち悪いから早くどこか言ってよ」


「いや、違うくて、その僕は……」


「うるさいわね、そうやって執着するとこも嫌い……あ、もしかしてまだ私の事好きなの?」


「うん、当たり前だよ、そんなの……!」

 好きに決まってるじゃん!

 だって、だって、付き合ってるんだし千尋はキレイで優しくて、それに千尋も……!


「へー、そうなんだ、気持ちわる。ほんと気持ち悪いね、あんたは」

 でも、僕の想像と反して、千尋から帰ってきたのは拒絶の冷たい声で。

 僕の事をすべて拒否するようなそんな声で。


「何、その目は。そんな目で見られても困るんだけど、キモいんだけど、ムカつくんだけど……そうだ、あんたの嫌いなところ、言ってあげようか? まずは話し方が嫌い、すぐに謝るところも嫌い、バカなところが嫌い、私にすぐに合わせるところも嫌い、気づかいしすぎるところが嫌い、女々しいところが嫌い、私の事をすぐにイラつかせるところが嫌い!」


「え? え?」


「そうやって自分の意見をすぐに口に出せないところも嫌い。後、あんたの趣味も嫌い。お菓子作りと動物を見ることだっけ? 何その趣味、ホント気持ち悪い」


「それは、妹と一緒にしてたから……」


「妹? あんたシスコンかよ、気持ち悪いな、ホントに! それにVtuber? だっけ、あんたがたまに見てたやつ……ああ言うのもキモいよ、マジで。アニメとかそう言うのにブヒブヒ言ってる奴とは絶対に一緒にいたくないんだよね、キモオタとか大嫌いだから!」


「……」


「今の彼氏はあんたと真逆でマジでカッコいいんだよ! 少し自分勝手だけど自分の意見通す強さがあるし、私に気をつかわずに背中で私を引っ張ってくれる感じだし、ものすごく男っぽいし、全然オタクっぽくないし! まあ、あんたの事は金づるくらいには思ってあげてたけど……気づいちゃったならしょうがないか。じゃあね、高梨君。これからは他人だから絶対に話しかけないでよ、あんたの事、気持ち悪くて嫌いだから! それじゃ、私は楽しいデートに行ってきますので、あんたはブヒブヒアニメでも見てなさいよ、2次元の女の子に惨めに癒してもらいなさい! アハハハハ、もう話すことは無いと思うけど、じゃあね!」

 そう高笑いしながら、僕からドンドンと離れて行く千尋。


 頭が真っ白になりそうで、ふらふら倒れそうになるけど、でもちゃんとわかったことがある。

「僕はフラれたんだな……うん、フラれた」

 僕の初恋が、初めての恋人との生活が終了した言う事が。



 ☆


「……ハァ、ダメだな、ホントもう色々……」

 あのまま学校にいてもしょうがないので、かといって家に帰るのもなんか嫌なので、ふらふらと歩いて廃神社。

 中学校の頃によくたまり場にしていたその廃神社の赤い鳥居の下に体育座りでいじけタイム。


 ……まだ復縁というか、もう一回恋人っぽくなれるかも、って思った僕が間違いだったのかな? 


 なんかあれだけ言われたら目が覚めたというか、その諦めはつくようになったんだけど……でもなんだかなあ、って。


「……あんなにキモいとか嫌いとか言わなくてもいいじゃん。そんな言われたら僕でも結構傷つくんだけど」


「おーおー、どうした少年。何があったんだい? 彼女ちゃんと別れたのかい?」


「うん……僕の事嫌いなんだって、千尋。そりゃさぁ、確かに女々しいところとか趣味とかは気持ち悪いのは認めるよ。でも千尋のために色々したことまで嫌い、って言われたら……僕もう何もわかんないよ」


「え、別に気持ち悪くないと思うけどな。素敵だよ、君の趣味。何したかわかんないけど、君は別に悪くないと私は思うよ! ……ん~、新作オレンジ味も美味しい! もちもち最高! うん、とりあえず少年は悪くない! だから自信もって、そう言うとこ私は好きだからさ!」


「あ、ありがと……でもね、僕の全部嫌い……ってあれぇ?」

 おかしいぞ、何か会話がつながってないか?

 あれ、なんで、もしかして神様?


 そう思って埋めていた顔をおそるおそる上げる。

 そこにいたのは制服にパーカーを羽織って、スイーツ片手に顔を綻ばした見覚えのある女の子で。


「……梓!?」


「そうです、そうです、梓ちゃんですよ~! ほれ、どうしたんだい慶太君や、話、聞きますぜ!」


「……ちょっと梓、話聞いてくれよ!」


「お~お~、辛かったの~、辛かったの~。でも大丈夫、私はどこにも行きませんゆえ……だから色々はなしてよ、慶太」

 中学時代、よくこの場所で遊んだ友人―東海林梓しょうじあずさがそう言って優しく微笑んだ。



 ★★★

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