第40話 彩葉と海未ちゃん
「……ねえ、慶太。嘘だったらどうなるか分かってるよね? 私まだ、彩葉さんの正体疑ってるんだけど」
ファミレスを出て帰り道、ギロっと俺の方を睨んだ梓がどすの効いた怖い声でそう忠告してくる。
だから何回も言ってるけどマジで男なんだってば、彩葉もそう言ってるじゃん。
「だから彩葉は男なんだって。なあ彩葉?」
「うん、僕は男だよ!」
「じゃあなんで女ものの服買ってるの? なんで女の子の格好してるの?」
「そ、それは慶太とデートだから……」
「ほら、デート言った。やっぱり浮気してたんじゃないの、慶太の方が? 本当は彩葉さんの方がずっと本命で私たちで遊んでたんじゃないの?」
そう言って彩葉の方もぎろりとにらむ。
その顔に委縮してふにゃっとなる彩葉……普通に可哀そうだけど、でも勘違いされても仕方ないところはあるよね。
「まあ彩葉、そんな落ち込むなって。海未と会えば全部真実だってわかるんだしさ」
「うん、そうだね……慶太とカップルって言われるのは普段だとすごく嬉しいけど今だけに限ってはめっちゃ怖いよ……梓ちゃん怖いよ……」
そういうとガクブルと身体を震わせる。トラウマになりますよ、このままじゃ。
「ちょっと二人とも何してるの? いちゃいちゃしないで早く慶太の家行くよ! 海未ちゃんから真実、聞かないといけないんだから! もし嘘だったら……ホントに、ね?」
そう言ってもう一度僕にガンを飛ばしてきて……だから怖いよ、梓!
☆
「やっと着いたね。ここで真実、見てあげるんだから。白日の下にさらしてあげる」
僕の家に着くと、そう怖い顔で言ってピンポーンとチャイムを押す。
「はいはーい、って梓さんですか? どうしました?」
テトテトと出てくるのは部屋着をだらしなく着崩した海未。
そんな恰好ダメだよ、悪い配達員さんだったらどうするのさ?
「海未ちゃん、ちょっと聞きたいことがあってさ……海未ちゃんはこの人の事知ってる? 彩葉さんの事海未ちゃん本当に知ってる?」
そう言ってビシッと彩葉の方を指をさす。
キョトンとした顔で彩葉の方を見つめた海未は、女装した彩葉の方を見て納得した様に苦笑い。
「……梓さん、ちょっとこっち来てください。色々説明しますのでこっち来てください」
「え、何? まさか本当に……」
「梓さんが何考えているかは大体わかりますから、だから来てください。多分色々勘違いしてるってことがわかりますので早く来てください」
そう言ってふがふが何かを言っている梓を部屋の中に連れて行く。
そして暑い中取り残される俺たち二人。
「……ていうか彩葉、お前海未に女装見せたことあるの? 俺ですら初めて見たんだけど」
「うん、この前二人で出かけた時ボクが女装していったんだ。男の人と出かけるのなんか嫌かも、って言ってたからそれに付き合ってあげた感じで。だから海未ちゃんは知ってるよ……というかそこで目覚めたまである」
「なるほど……ていうかそれいつの話? 何しに行ってたの?」
「内緒。海未ちゃんにもヒミツにして、って言われてるしね」
「……なんだそりゃ」
海未が僕に内緒で出かけたことなんてあったかな? なんて考えていると少し疲れた様子の海未とわらわら焦った様子の梓が出てくる。
そして僕たちの前に立つと、ビシッと頭を下げて。
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
そう深々と頭を下げて謝って……いやいやいや!
「ここ外だから! 梓そう言うの別にいいからせめて中で!」
「そうだよ、梓ちゃん! ここではまずいよ!」
「でもでも、二人に酷いこと言ったし、なんか色々やらかしてたし! だからちゃんと謝らないと、すぐに謝らないとだから……ごめんなさい!!!」
もう一度深々と頭を下げて謝る梓。
地面に突き刺さりそうな危険な角度で謝り始めて……ああやばい、ご近所さんが結構見てる、隣のろっくんがめっちゃ見てる!
「と、とりあえず家の中に入ろう! 話しはそこで聞くからさ!」
頭を下げる梓を家の中に押し込む。
その最中も「ごめんなさい」と連呼していて……そんな謝らなくていいよ!!!
「……大変でした。何かしたでしょ、彩葉さん」
「うん、ちょっとね……ごめんね、迷惑かけちゃって。ありがと、海未ちゃん」
☆
「ホントごめんね。彩葉君の事めっちゃ勘違いしてたし、それに慶太の浮気とか疑っちゃたし、それにそれに……」
「もういいって、過ぎた事じゃん! 大丈夫、僕怒ってないからさ! ね、彩葉?」
「うん、ボクも全然大丈夫。だから安心してね、梓ちゃん」
家の中に入っても謝り続ける梓をそう言って二人で励ます。
正直彩葉が女装してたことが一番悪い気もするし、梓はそんなに謝らなくていいよ!
「そうですよ、梓さん。もとはと言えば勘違いされるようなことした兄さんと彩葉さんが悪いんですから……ところで彩葉さん、いつものやつ持ってますか?」
「酷いな、海未ちゃんも……いつものはもちろん持ってるよ!」
ニヤニヤと笑った彩葉がカバンから青いカセットケースを取り出す。
そのケースを見て海未の顔がパッと輝く。
「ねえねえ、慶太なにあれ?」
「海未と彩葉がはまっているゲーム。なんかロボットのゲームなんだけどめっちゃはまっててさ、彩葉と一緒にするのに。通信がないからこうやって実機で遊ぶんだけど彩葉は最近海未と遊ぶためによく来てるよ、この家に」
「へー、そうなんだ……私本当に恥ずかしい勘違いしてたな、ごめんね慶太」
「だから気にすんなって。そんな事もう大丈夫、疑いがとけたなら良かった」
僕たちの会話の後ろで着々とゲームの準備が進んで。
そうこうしている内に二人はソファに座ってゲームスタートの構え……このゲーム二人プレイだし、熱中すると僕の事なんか忘れてずっとやってるんだよな。
それなら僕たちも!
「ねえ、梓買い物行かない? 今日の夜ご飯食べてくでしょ?」
「え、良いの? あんなひどいことしたのに良いの?」
「あはは、別に酷いなんて思ってないし! それにDXミックスグリルSPの代金、まだ払ってもらってないし。だから買い物付き合ってもらうよ!」
「もう、それは言わないで……でも分かった! 買い物付き合うよ、一緒に行こ!」
そう嬉しそうに言った梓と一緒に買い物へ。
「あれ、二人ともどこ行くの?」
「ちょっと買い物! 彩葉何食べたい?」
「ボクは慶太が作ったのなら何でも!」
「海未も何でもいいです!」
「りょーかい。それじゃあ梓と決めるよ」
ゲームから一切目を離さない二人に苦笑いしながら、二人そろって太陽の下買い物へ。
「ねえ梓、今日は何食べたい?」
「私も慶太の料理だったら何でもいいけど……強いて言うならカレーが食べたい! 牛肉のカレーが食べたいな!」
「わかった、それにするか……あ、お金は梓が払ってね」
「もうケチ……ふふっ、わかった。私が払うね! それに色々慶太に買ってあげるよ、アイスとか焼き芋とか!」
「喰い合わせは微妙そうだけどその気持ちは嬉しいな! それじゃあスーパーまでレッツゴーです!!!」
「うん!」
弾むステップで梓とともに晴天の空の下を歩く。
梓の勘違いがとけて良かった、梓とはずっと仲良くしたいし!!!
「ところで海未ちゃん、梓ちゃんは慶太の事好きなの?」
「はい、好きみたいですね。ちなみに私も応援してます」
「そうなんだ、ライバルだね……ボクも慶太の事好きだし、一緒にいたいんだけど」
「それは諦めてください。兄さんはノーマルな人ですから」
「そげなー……あ、そうだ! それなら海未ちゃんと付き合えばいいんだ! 海未ちゃん、ボクと付き合わない」
「付き合いません、私も兄さん一筋です。それに兄さんの2番手でしょ?」
「そんな事ないよ。慶太と同じくらい海未ちゃんの事も好きだよ」
「……そんな事、他の女の子に軽々しく言っちゃダメですよ。彩葉さんは顔がいいから勘違いされちゃいますよ」
「海未ちゃんになら勘違いされてもいい……て言うかボク、結構本気で言ってるんだけど」
「……だからダメですって、彩葉さん」
★★★
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