第46話 海未が兄さんを守りますから
「……慶太、鈴木さんってああ言う事する人だったの? ボク、慶太からは可愛い可愛いとしか聞いていなかったからわかんないんだけど、ああいう人だったの」
たくさんの視線をかいくぐりながら下駄箱を抜けて階段の踊り場。
少し息をつけたところで隣の彩葉がコソコソ小声で聞いてくる
「……思い返してみるとそう言う人だったかもしれない。昔色々あったし、それに別れた時も付き合ってるときも……」
「そっか……それじゃあ慶太別れて正解だったね! なんか怖いけど、でもちょっとだけ安心したかも。慶太があの毒牙にかからなくて安心したかも!」
「ありがと、彩葉。僕も少し安心してるかも」
「でも危険はいっぱいだからね! 用心しないとだよ!」
そう彩葉と気合をつけて、千尋の教室の方を華麗に避けながら自分の教室へ向かう。
「へ~、海未ちゃんって言うんだ、可愛い~! 私ね、長岡蓬生! お兄ちゃんのクラスメイトだよ~! ねえねえ、可愛い海未ちゃんはここに何しに来たのかな~?」
「え、あの、その、私は兄さんと話したいことが……」
「え~、お兄ちゃんに会いに来たんだ! もう可愛すぎだよ~、愛おしすぎるよ海未ちゃんは~! ねえねえほっぺすりすりしていい? すりすりしていい?」
「え、あ、え、その……え?」
「ああ~ん、困惑している姿も可愛い~! ねえねえ、海未ちゃん、海未ちゃ~ん!」
「ふええ……」
教室に着くと、何やら少し不穏な声と、困惑する海未の声……これは早く助けないとダメな奴!
「海未! お兄ちゃんだぞ!」
「彩葉もいるよ!」
「に、兄さん! それに彩葉さんも……あ、ちょっと離してください、兄さんが来ました、離して下さい長岡さん……離して!」
バンと急いで扉を開けると、思っていた通りにクラスメイトで年下の可愛い女の子大好きの長岡蓬生に絡まれていた海未が悲痛な叫びをあげながら僕の方に手を伸ばす。
「ダメダメ~! もうちょっとだけいいでしょ~、良いでしょ~!」
「ダメですよ、離してください! 私は兄さんに用事が……」
……こんな時に蓬生ちゃん暴走時のお目付け役こと川崎ちゃんはどこにいるんだろう? まだカバン無いから登校してないのかな……う~ん、タイミングが悪い!
「こら、長岡さん! 離して、海未も嫌がってるし僕に用事あるみたいだし」
「そうだよ、離しなよ!」
「む~、もっと堪能したいのに、可愛い後輩ちゃんの可愛いところ……でもお兄ちゃんと福永君が相手ならしょうがないですな! 海未ちゃんはお譲りしますぞ!」
そう言って長岡さんは海未の事を離してくれる。
長岡さんから離れた海未は安心した様に、でもものすごく心配するように僕の方にてとてと歩いてくる。
その顔に何かを察したのか彩葉はすー、っとどこかへ行ってくれて……ありがと、彩葉。
「に、兄さん! だ、大丈夫ですか?」
「海未こそ。大丈夫だった、長岡さんに絡まれて?」
「私は大丈夫です、全然大丈夫です……それより兄さんのほうが心配です! あの女……鈴木千尋に何かされませんでしたか?」
「……見ちゃったの、あれ?」
「……はい、ごめんなさい。海未が登校したときにはもう張ってあって、人も集まってて……そ、それで見ちゃいました……ご、ごめんなさい兄さん! でも海未は兄さんの事が心配で……」
申し訳なさそうにくるくると目を回しながら、でも僕を心配するようにまっすぐと顔を見つめて。
大丈夫だよ、怒ってないし、僕も心配してるだけ。あんなの見ちゃってトラウマにならないかとが心配だから。
「そ、それは大丈夫です、トラウマなんてなってません!」
「そっか、それなら「おーい、高梨兄妹いる……ってそこにいた! こっち来い、先生と話ししようか!」
僕と海未の会話を遮って、教室のドアをバン! と強く開けた担任の猪熊先生が入ってくる。
「……何の話かは何となくわかりますけど、それって海未も……」
「ああ、高梨兄妹が必要だ! 早く来てくれ!」
「あ、はい、わかりました……海未、行くよそれじゃあ」
「あ、はい……?」
「おう、ついてこい……あの集団にバレない様にコソコソ行くぞ」
あの集団、ってのは多分千尋たちの軍勢だろうな。
「……兄さん、手握らないで大丈夫ですよ?」
「ううん、海未が心配だから。今だけ、こうさせて」
「……兄さん」
取りあえず状況がうまく呑み込めていない海未の手を取って僕たちは猪熊先生の後ろをついていくことにした。
「……おい、何だよこれ! 誰だよ私の机にこんな落書きした奴! 誰だよ、こんなことした奴!!!」
「……」
「おい、誰か名乗り出ろよ! 誰だよ、こんなことした奴! 嘘八百ばっかり書くんじゃねえよ、クズのくせに! 私なんかと比べ物にならないクズのくせに!」
「……事実じゃん、たまには痛い目見たらいいんだよ」
「何だよ、どうして誰も何も言わないんだよ! おい、おい!!!」
☆
猪熊先生に少しビクビクしながらついていって指導室。
「えー、わかってるとは思うがあの写真の事だ? 高梨兄、これは君の仕業ではないだろうな?」
椅子に腰かけた先生が碇ゲンドウのポーズをしながらそう聞いてくる。
「はい、もちろん違います。第一千尋とはああ言う事してませんし」
「……本当か、高梨妹?」
「私に聞かれてもわかりませんけど……でも兄さんが言ってることは本当だと思います。兄さんあんまり鈴木さんと仲良くありませんでしたから」
少しおどおどしながらも、海未がそうしっかりと答えてくれる。
そうだ、僕はあんな写真撮れるほど仲良くなかったし、それに千尋があんなことしてるなんて知らないし……本性は少しだけわかってたけど。
「嘘は言ってないみたいだな……よし分かった! 少しの間、高梨兄妹は学校休んで家で待機してろ!」
『……え?』
え、急に何言ってるのこの人? なんでそんな話になるんですか?
「なんで、ってそりゃお前たちが危ないからだ。鈴木さんはファンも多い人だし、お前たちが変な噂にかかって色々危険な目にあう可能性があるからな……大丈夫、すでに校長先生の許可は取ってある! 高梨兄妹が~、って言ったら公休にしてあげる! って言ってたぞ!」
「……嬉しいですけど、変なところで権力使わないでください」
まあ彩葉の親父さんならこう言う事言えばすぐにOK出すだろうけど。
て言うか先生動くの早いな、なんでこんな対応俊敏?
「そりゃまあ、俺の受け持ってる生徒が危ない目にあいそうなら素早く動くってもんよ!」
「……今初めて先生の事カッコイイ、って思いました」
「おうおう、いつも思っててくれ! それじゃあ帰るなら今すぐだ、カバンは持ってきてある! 俺の車使ってすぐさま高梨の家に行くぞ!」
「……ありがとうございます、先生」
そう得意げに笑う先生の言葉に僕たちは首を縦に振って、そのまま流されるように車に乗り込む。
「何かあったら連絡しろ、学校の情報は福永あたりに流してもらう。だから安心してお前たちは家にいてくれ」
「……ホントありがとうございます、先生」
「おう、ありがとよ! ほら、着いたぞ……くれぐれも外、出るんじゃないぞ。歩道の可能性もあるからな!」
『はーい、ありがとうございます!』
家まで送ってくれた先生にそうお礼を言って家の中へ入る。
「……なんかこんな朝から家に戻ってくるの、変な気分です。なんだか大変なことになりましたね、兄さん」
「そうだね、大変なことになったね……でも今日はお言葉に甘えてゆっくり家で休も? ほら、映画でも見てさ」
「はい、そうですね……んっ」
そう言った海未はギュッと俺の腰のあたりに抱き着いてきて……どうしたの海未?
「……兄さんの事は海未が守ります。例え何があっても海未が守りますから……だから兄さん、海未から離れないでくださいね」
「……ありがと、海未。僕も絶対海未の事守るよ」
キュッと強い口調でそう言った海未の頭を撫でる。
そうだ、今はピンチというか凄い大変なときなんだ……だから兄妹で助け合わないと。
★★★
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