ずっと好きだったんだから
《梓視点の話です》
電車の中、慶太の隣。
妄想でぽやぽや温まってしまった頭と体を冷やすようにバナナジュースを啜りながら慶太といつも通り平常心を保って話す。
「ね、ねえねえ、慶太は動物園何が一番楽しかった?」
……慶太がそう言うつもりじゃなくて私の事をお家に誘ってくれたのは分かってるけど。
中学の時も同じ感じで何回も家に行ったし、私の家にも来てもらったことあるし、慶太の料理はすごく美味しいし、私も大好きだし……だから慶太が全然そう言うつもりで言っていない、って言うのは百も承知で分かってる。
……でも今日は特別な日じゃん。
だって、慶太がフラれて、それを慰めるために私がデートに誘って……その、私が知ってる同人誌とかだとこの後、落ち込んだ慶太の事慰めてあげて、私で満足しない? って言って、そしてそのままにゃんにゃんするって言うのが鉄板であって、だからその……今日誘ってくれたらそう言う事だと思うじゃん!
にゃんにゃんすると思うじゃん!
「そうだね、やっぱりキリンの餌やりかな! あんなの初めてしたし、それに舌もなんだか不思議な感覚で気持ち良かったし!」
……でもそんな雰囲気は慶太は全く感じなくて、そんなこと考えているのは私だけみたいで。
「……それに慶太が私の涙で変なことしても困るし!」
「変な事って何だよ、何するんだよ、それで……ふわぁぁぁ」
ちょっと挑発的なことを言っても、慶太は何もわかってない様に大きくあくび。
もう、昔から慶太はこんな感じなんだから……ちょっと鈍感なにぶちんで、そういう所も好きなんだけど、でもでもダメダメなところ! そして何だい、その大きなあくびは!
楽しみにしてくれてた、って言うのは嬉しいけど……絶対に寝ちゃダメ、というかデート中に眠っちゃうなんてダメだよ、慶太!
もっともっと慶太と話したいことあるし、色々やりたいこともあるし、それに……眠ったら無防備なるんだよ、人間って。
だから眠っちゃダメ、私とまだまだいっぱいお話して!
「えへへ、どうしようかな……まあ、それはその時に考えてあげる!」
挑発するような笑顔を慶太に向けた眠らない様にお願いします、と全力アピール。
でも、だんだんと慶太と会話する声が少しうとうとしたものに変わっていった。
☆
肩に少し重たくて温かい感覚、そして小さく可愛い寝息。
「け、けいたぁ? 寝ちゃったの慶太?」
「すーすー……んっ」
コテンと私の肩に頭を預けて気持ちよさそうに眠る慶太の耳元で囁いいてみるとくすぐったそうに甘い息を吐く。
……ちょっとだけ前言撤回。
眠ってもいいよ、なんかすごくいい!
こんなに無防備になるんだ慶太……ふふっ、本当に何でもできちゃうな、今なら。
「……んっ……」
「ふふっ、けいたぁ」
慶太の羨ましいくらいのサラサラストレート髪を掬いながら頭を撫でたり、つんつんとほっぺをつついてみたり、まじまじと寝顔見つめてみたり……ふふふっ、相変わらず慶太の寝顔は可愛いな、やっぱりすぐに食べちゃいたいくらい。
それに中学の時から何も変わってない。
修学旅行のあの夜から何も変わってないな、慶太の可愛い寝顔は。
……あの時告白出来てたら、今の関係ももうちょっと進んでたのかな?
あの時勇気出して慶太に告白出来てたら今の生活、もっと楽しくなってたのかな?
慶太と二人でいろんなところ行って、色々楽しいことして……そんな未来もあったのかな?
……でも、あの時告白してもフラれた気しかしないな。
慶太あの時、千尋ちゃんの事大好きで憧れで一途だったから……あの時告白しててもフラれてた気しかしないな。
「……んん」
でも今は違うよね。
今は慶太その最愛の千尋ちゃんとも別れたし、私にもチャンス、絶対にあるよね。
それにあの時出せなかった勇気、今なら出せるよ。
「好きだよ、慶太」
眠る慶太の髪を撫でながら、耳元で囁く。
……夢の中に言うなんて少し卑怯だけどでも許して。
好きなのは本当だから、ずっとずっと大好きだったから……それにまだ、現実世界で慶太に「好き」って言う勇気は出ないから。
「んん……あ、あずさぁ」
「……け、けいたぁ?」
夢の世界の慶太が小さな声で呟いたその声に少し動揺してしまう。
さ、さっきの返事……ってことは無いよね、流石に違うよね、うん!
で、でもその慶太私の夢見てくれてるのかな?
私の名前呟くってことは私の夢、見てくれてるってこと、だよね?
「ふへへ、あずさぁ……楽しいね、あずさ」
……もう、どんな夢見てるの、慶太。
眠ってるのに、そんなに顔を緩めて、楽しそうに笑って、私の名前を……
「へへ、あずさ……」
……これだけ名前呼んでくれてるんだからいいよね?
もう少し先の事、もう少し凄いことしちゃってもいいよね?
それにこんだけ無防備に気持ちよさそうに寝てるんだもん……キスとかしちゃっても大丈夫、だよね?
……唇はまだ早いから。
唇にキスするのは起きている時にお互い好きになった時に……慶太の方からして欲しいから。
だから、その……慶太のほっぺ、味見させてください。
「け、慶太……おきない、よね?」
気持ちよさそうに眠る慶太のほっぺに顔を寄せる。
慶太の寝息が顔に当たって、慶太の体温近くに感じて、お互い交換してるみたいになって……体中が熱くなって、息が荒くなって、ほっぺも紅潮しているのが自分でもわかる。
……でも、こういう機会なんてめったにないし。
慶太を目の前にすると素直にもなれない時多いし、勇気も出来ないから……だからその眠っている時くらい、私の時間にしてもいいよね?
「け、けいたぁ……」
ドキドキする体を押さえて、熱くなる体をこらえて。
「……慶太、大好きだよ」
柔らくて温かい慶太のほっぺに顔を当てて、そのままキスをした。
少し汗でしょっぱくて、でもなんだか甘くて。
ふにゅっと柔らかいほっぺに吸い込まれるような感覚で……慶太と一つになってるような気持で。
「……ごちそうさまでした」
しばらくしてから顔を上げる。
ペロッと唇を舐めると慶太の味がして……本当に慶太とキス、したんだ。
「えへへ、けいたぁ……けいたぁ」
幸せな気持ちが嬉しい気持ちが身体中を巡ってあがってきて、ポカポカ温かい身体がさらに熱くなって。
燃えるように熱くて真っ赤な顔はにやけが止まらなくて、幸せな気持ちが私の口角がさがるのを許さなくて。
「ふふふっ、慶太好き。本当に大好き」
どこか幸せそうに眠る慶太に何度目かのその言葉を伝える。
本当に大好きだから、いずれ夢の中じゃなくて現実世界で……ってあれぇ? なんかものすごく視線感じるというか、すごく見られてるというか……
「……!?」
バッとずっと慶太に向けていた視線を上にあげる。
周りにいる人が全員私たちの方を見つめていて……あ、忘れてた、ここ電車の中じゃん!
「……!!!」
色々な種類の恥ずかしさで真っ赤な顔がさらに真っ赤になって、それを隠すように窓の方へ体を反転。
隣で「……ふえっ!?」って言う声が聞こえたけど知らない、知らない!
電車の中ってこと思い出したら……いろんな恥ずかしさで顔から火が出ちゃいそうで、慶太の方なんてまともに見れないよ!
「……梓、怒ってる?」
「怒ってない、怒ってない……やっぱり怒ってる! 慶太が寝たから怒ってる!」
窓の外を見ながらそう答える。
慶太が寝たのが悪いんだから、慶太がぐっすり眠っちゃってたせいなんだから!
だから慶太が悪いんだ、慶太のばか、にぶちん、大好き!
「あ、梓、その……」
「けいたぁ、今はやめてぇ……」
ああ、どうか私にもっと勇気をください!
慶太と目を向き合っても好きって言える勇気を私に下さい!
「あ、梓、ごめん」
「謝らないで、慶太のにぶちん、ばかにぶちん……」
流れゆく車窓から見えるまん丸のお月様に私の願いを込めた。
★★★
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