第55話 みーつけた

 ショッピングモール、2階。

「よいしょ……よっしゃ、ストライク! 完璧!!!」

 併設された色々遊べる施設のボウリング場で、僕はそう歓声をあげる。よっしゃ、これで3連ストライク、自己ベスト更新できそうだ!


「おー、凄い! またストライクだ、なんで慶太そんなにボウリングだけ上手なの? 他のスポーツあんまりできないのになんでボーリングだけ?」


「だけって酷いな、だけって! 僕もわかんない、昔から得意だったからね、ボーリングだけは。そうだったよね、海未?」


「はい、兄さんは本当に謎にお上手でしたから、昔から……海未は全然得意じゃないのに、どうしてですかね? なんで兄さんだけそんなにお上手なんですか?」


「ふふっ、なんでだろうね? あれかな、昔からWiiスポーツで遊んでたからかな、やっぱり! アレのボウリングも得意だったし!」

 あのゲーム結構やりこんでたし、普通にプロは超越してたし!

 だから上手なのかも……あの時、海未と一緒にやればよかったかもね。


「はい、そうかもです……私も兄さんと一緒にしたかったです。あの時からずっと、もっと兄さんと二人で……ふふっ、遊んでたかったです」


「そうだね、海未。僕だって海未と……」


「ちょっと慶太! 海未ちゃんとイチャイチャしない! 次は私の投げる番だからちゃんと見ること! このシスコン大魔神慶太が!」


「いちゃいちゃしてないよ、梓……まあでも梓の投げるのは見てあげるよ。さっきから全然上手に投げれてないけど」


「あー、言ったな! 見とけよ、凄いの見せてあげるからね! そりゃ!!!」

 そう威勢よく放ったボウリングの球はスーッと吸い込まれるように、レーンの端っこ、ガターのゾーンにボスっと落ちる。


「あれ~、なんで? なんでこうなる~?」

 球を投げた梓が不可解そうな顔で首をひねる。

 もー、本当に昔からこうだね、梓は……ふふっ、ちょっと教えてあげようかな?」


「梓は相変わらずへたっぴだね。投げ方教えてあげるよ、上手な投げ方」


「むー、なんか言い方やだけど、でもそれは嬉しい! えへへ、手取り足取り教えてください、慶太先生! 私だってストライク取りたいです!!!」


「手取り足取りは出来ないけど、わかりましたよ、梓君!」


「触って良いんだよ、別に? 慶太なら別に……私の事、好きに触って良いんだよ?」


「あはは、それは嬉しいけどこういう所じゃダメ。それは二人の時に……それじゃあ投げ方はこうやってああやって……」


「え、それまた……は、はーい! ちゃんと聞きまーす!!!」

 はーい、と元気よく手をあげる梓に投げ方とか色々ちゃんと教える。

 僕の理論があってるかわかんないけど、上手に投げれたらいいな、梓も!



「……やっぱり兄さんは梓さんが……それなら私も……ちょっと悔しいですけど」


 ~~~


「よし、勝負ありです。海未の勝ちです、1対2でも海未の勝ちです、梓さんに兄さん」


「……海未、強すぎる。なんでこんなに強いんだよ。あんなに色々可愛いのになんでこんなに強いんだ……兄の威厳がなくなる」


「全く分かんない、海未ちゃんの強さの源……慶太、次はちゃんと作戦立てよう! 私と慶太のコンビネーションならきっと突破できるはず! 海未ちゃんを突破できるはず!」


「そうだね、梓! 頑張ろう、もう一回! 今度こそ二人で海未にリベンジしよう! 兄として負けられない!」


「わかってるよ、慶太! 頑張るぞ! 二人で一つ、一心同体で頑張ろう!」


「おー! 頑張るぞ、梓!」


『おー!!!』



「ふふふっ、お二人がどれだけ仲良くしても負けませんよ……ちょっと嫉妬はしちゃいますけど」




 ☆


「いやー、いっぱい遊んだね、慶太に海未ちゃん? 楽しかった? 楽しかった?」

 夕暮れの休憩スペースの中で、未だに元気いっぱいの梓がジュース片手にぷいぷいと忙しそうに僕達に首を振りながらそう言う。


 あの後、梓の大好きなビリヤードをやって、海未の得意なテーブルホッケーとか誰もゴールを決められないバスケとか……すごく楽しかったよ、梓! いっぱい二人と遊べて、すごく楽しかった! だからそんなに首ブルブルしないで、ジュースとか飛んだらどうするの?


「海未も楽しかったですよ、梓さん。久しぶりに兄さんと梓さんと遊べましたから……それだけでも、楽しかったです。ご飯も美味しかったですし」


「おー、それなら良かった! えへへ、慶太と海未ちゃんに楽しんでもらえたなら良かった! 私も計画したかいがあったってもんだよ! それじゃあ私は2階のお店で甘い物買ってくるけど、ついてくる人いますか!」


「……え、梓まだ食べるの? 大食いして今もチョコレート食べてたのに?」

 あれだけ大食いして、中に入ってるスーパーで買ったチョコレートも食べてたのに? まだ食べるんですか、まだ食べられるんですか梓さん!?


「ふへへ、甘い物は別腹ですからね~。それにいっぱい運動してお腹空いちゃったし? まあこれくらいは食べられますよ、賞金もあるしね!」

 そう言ってパチッと可愛くウインクする梓。

 本当に梓は凄いな、こと食べることに関しては……昔からずっと思ってたけど、食費とかすごく大変そう。いや、意外と抑えるのかな、そういう時は?


「まあ、こんなに食べるのは遊びに行く時だけですよ、普段はもっと少ないから安心して! あ、慶太は一緒に来る、一緒に甘い物買いに行く?」


「普段少ないなら安心かも……いや、僕はいいや。ちょっとここで休憩してる、荷物とか見なくちゃいけないしね」

 さっき買った服とか色々あるし。

 それの番しておきます、持っていくの大変だから。


「兄さんが荷物番してくれるなら私は梓さんについていきますね。それじゃあお願いします、兄さん……兄さんの分も買ってくるので安心しててください」


「よろしく、慶太! 慶太の分も買ってくるね、もちろん私のお勧めで!」


「はいはい、よろしく頼むよ二人とも! 気をつけて行ってくるんだよ」


『はーい!!!』

 楽しそうにステップを踏みながら、二人で仲良く歩いている梓と海未に手を振って、僕は椅子にでろーんと腰を伸ばす。


 ふふっ、今日は本当に楽しかったな。

 海未と遊んで、梓と遊んで……なんか一番楽しかった時期、思い出した気がする。中学の一番楽しかった時期……高校入って千尋に出会わなかったらこんな日々が続いてたのかな? 千尋と付き合うなんてことしなければこんな風に楽しい日々、ずっと続いてたのかな?

 学校は違っても、疎遠になることなく、こうやって遊んで、たまに家に行って……そんな日々が続いてたのかもしれない。


 まあでも過ぎた日々を悔やむのは仕方ない。今は仲直りできて、また仲良くなってるんだ。だから今からその時間を取り戻せばいい、梓との時間をもう一度……

「みーつけた!!! みーつけた!!!」


「……え?」

 そんな風に感傷に浸っていると背中の方から低く、どこか恐ろしい声が聞こえる。

 聞き覚えのある声、数か月前なら嬉しくて、心が躍った声……でも今はただただ恐ろしくて、逃げ出したくなる声。


「……ち、千尋!?」


「あはは、正解! 正解だよ、えっと……あはは!!! ねえ、もう一度やり直さない? もう一度私とやり直そうよ!!!」

 振り向くと、キレイな髪をグチャグチャにした千尋が鋭く濁った眼で僕の方を睨んでいて……え、な、何でいるのここに!?



 ★★★

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