-06- 萌葱蒔苗の決意
「蒔苗ちゃん、休憩している間にアイオロス・ゼロをドックに戻してもいいかな? 問題はないと思うけど、一応各部のチェックをしておきたいの」
『はい、構いません。どこに持っていけばいいですか?』
「そのまま出撃したハッチに戻ってくれればいいわ。他の機体が出撃準備をしている時は使えないけど、普段は帰還用にも使えるようになってるから」
『了解しました!』
シャッターの開いている『01』ハッチにアイオロス・ゼロを戻した瞬間、意識が自分の体の方に戻った。
ゆっくりと手足を動かしてみる。
……うん、こっちもちゃんと私の体だ。
「お疲れ様、蒔苗ちゃん。なにか冷たいものでも飲む? それとも軽く食べる? トイレは大丈夫? 調子が悪かったら設備の整った医務室もあるわよ?」
「じゃ、じゃあ、飲みものをください」
「りょーかい! スポーツドリンクにする? フルーツ系にする? コーラとか炭酸飲料も……」
「お茶があれば嬉しいんですが……」
「ふふっ、蒔苗ちゃんはなかなか渋いわね。はい、どうぞ!」
貰ったボトルのふたを開け、一気に飲み干す。
思った以上に体は水分を欲していたようだ。
冷たいものが体の中を流れていくのを感じる……。
「落ち着いたらコックピットから出て来てね」
「はい、もう大丈夫です」
コックピットから出て、デスクの前に置かれている椅子に座る。
育美さんは情報端末を信じられないスピードで操作していた。
「今、さっきのテストのデータを参考に、アイオロス・ゼロの機体設定をより蒔苗ちゃんに合ったものになるよう調整してるところなの。上手くいけば、あれ以上の動きが出来るはずよ」
「あ、あれ以上の動きですか……!」
「そうよ! だから、少しだけ待っててね!」
育美さんの少しだけは、本当に少しだけだった。
2分も経たないうちに調整を終え、私の方に向き直った。
「うん! これでより自然な動きが出来るようになったと思うわ。違和感があったら元に戻すから、その時は気を遣わず正直に言ってね」
「わかりました。何から何までありがとうございます」
「うふふ、好きでやってるから気にしないで」
育美さんは優しくほほ笑む。
その笑顔にお母さんの面影を感じた。
「それでダンジョン探査はどうする? 最初の探査は比較的安全なダンジョンを選んでるから、1時間もあれば行って帰って来られるし、家に帰るのが遅くなって怒られることもないと思うわ」
「時間のことは気にしなくてもいいですよ。私の家……誰もいませんから。父は6年前に事故で他界していて、母は3年前から今の医学ですら治せない原因不明の病でずっと目を覚まさないんです。だから、病院にいます。家には私ひとりしかいないんです。帰りが遅くなったからって、誰もなにも言いません」
「ああ……その、ごめんね。私ったらデリカシーのない発言を……」
「いえ、私が悪いんです。こんなこと言う必要がないのに、なんだか育美さんには話してみたくなって……。気を遣わせるようなことしてすいません……」
「ううん、いいのよ。蒔苗ちゃんの大事なこと……話してくれて私も嬉しいわ。あ、そうだ! 連絡先を交換しない? これからは私が蒔苗ちゃんのことを心配するわ。だから、夜遊びはしちゃダメよ! それと困ったことがあったらなんでも私に相談してね。部屋に虫が出たから助けてーとかでもいいわ」
「はい、ありがとうございます。でも私、虫は自分で退治できます」
「へー、すごい! 私はとてもじゃないけど出来ないから、その時には蒔苗ちゃんを呼ぶわ!」
「任せてください……って、あれ?」
なんかいつの間にか立場がすり替わった気がするが、まあ気にしない!
育美さんのおかげで、私の気持ちも固まった。
「私、ダンジョンに行きます!」
「気持ちは……固まったのね」
育美さんの問いかけに、私は静かにうなずいた。
「ずっと1人なんだと思ってました。お父さんもお母さんもいなくて、学校に友達はいるけど家に帰ったら1人で、ずっとこのまま1人の人生なんだと思ってました。でもそれは違ったんです。私にはすごいお爺ちゃんがいて、感じは良くなかったですけど、たくさんの親戚もいたんです。そして……アイオロス・ゼロがいる。おかげで育美さんにも会えました」
「うふふっ、私も蒔苗ちゃんに会えて嬉しいわ」
「狭苦しくて、先が見えなかった私の世界は、一気に広がったんです。どうして両親はお爺ちゃんの存在を隠していたのか。どうしてあの機体が親戚の誰でもなく私に贈られたのか。わからないことだらけですけど、きっとその意味もアイオロスと共に戦っていけば、わかるような気がするんです。だから、私はダンジョンに行きます! そして、いつかはお爺ちゃんのように人を助けられる人間になりたい!」
「……立派よ蒔苗ちゃん。私もあなたの戦いを全力でサポートするわ。いつか真実にたどり着くその日まで……いや、それ以降もずっと」
「えへへ……。むしろ、育美さんに支えてもらわないと、私は戦えないかもしれません」
「んもぉー! この子ったら嬉しいこと言ってくれるじゃない!」
育美さんは椅子から跳び上がり、こちらに向かって来たかと思うと、その胸でギューッと私を抱きしめてくれた。
金属の匂い、機械の匂い、そしてなんだか懐かしい甘い匂い……。
このまましばらくこうしていたいと思ったけど、育美さんの切り替えはやはり速かった。
「じゃあ、真実への第一歩……最初のダンジョン探査の概要を伝えるわね」
私から離れ、情報端末の前に戻る育美さん。
すると、部屋の壁に迷路のような地図とモンスターの画像が表示された。
この部屋の壁はスクリーンにもなるのか!
「これから蒔苗ちゃんに向かってもらうダンジョンは……レベル5の『
ビシッとスクリーンを指さす育美さん。
ここから、私のDMD
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