-126- 蘭の覚悟
「あらあら、わたくしのDMDの話をするのでしたら、操者であるわたくしの口からさせていただきたいですわね」
整備ドックに現れたのは蘭だった。
8月の終わり頃とはいえまだまだ暑い中、金髪ドリルのカツラを被ってお嬢様を演じている。
でも、服の方はドレスじゃなくてフリルワンピースになっているから少し涼しげだ。
「蘭のグラドランナもパワーアップしてるんだね」
「もちろん! そうでなくては蒔苗さんを守る力になれませんもの! 輝きを増したグランドランナちゃん……いや、グランドランナ・アンドファレナちゃんの姿をとくとご覧あれ!」
DMDを格納しているハンガーのゲートが開き、その中にたたずむ黄金のDMDが姿を現した。
これがあのグラドランナを強化した姿なの……!?
カラーリングもシルエットも変わっているから新型機に見える!
「何より目を惹きますのはこの黄金の装甲ですわよね? こちらは蟻の巣抹消作戦の際に投入された無人機ファレノプシス・ユニット、通称ファレナの装甲を受け継いだ結果なのですわ!」
「ファレノプシス・ユニット……あのキャタピラが付いた黄金ピラミッドみたいな奴ね」
「ええ! グランドランナ・アンドファレナとはいわばグラドランナちゃんとファレナが融合した姿なのですわ! ファレナの装甲に使われていた素材DゴールドはDメタルよりも耐久面で優秀でしたので新たな装甲として再加工し、ファレナに内蔵されていたAIは機体の移動、姿勢制御、火器制御など状況に応じたサポートを行ってくれるように再調整いたしましたの!」
無人機のAIを操縦のサポートAIとして使ってるのね。
グラドランナは元々細かく射撃の威力を調整出来るストーク・キャノンや、3つのモードを切り替えて戦うジュエリーボックスなど複雑な操作を要求する武装が多かった。
攻撃に集中している間に機体を移動させてくれたり、逆に移動中に自動で敵を攻撃してくれたりと、AIの使い道はかなり多そうね!
「驚くのはまだ早いですわ! 背中のストーク・キャノンⅡは撃ち出すDエナジーの調整だけでなく、Dエナジーを固形化し実弾兵器としても使える機能が搭載されているのですわ!」
「Dエナジーを固形化!?」
Dエナジーは魔進石から抽出されたものだから元々は固形と言えるかもしれない。
でも、それを瞬時に固形に再加工出来るとなると……すごい技術だ!
実弾兵器は弾を持ち歩かないといけないから、どうしても機体重量が増えスペースも圧迫してしまう。
なので深層へと潜る私たちのDMDはDエナジー兵器をメインとしている。
こちらも濃縮したDエナジーを内蔵する必要があるとはいえ実弾に比べると軽い。
しかし、モンスターの中にはDエナジー兵器に耐性のある表皮や装甲を持っている個体もいる。
そういったモンスターに対しては接近戦を仕掛けるか、Dエッジミサイルなどで装甲をはがすのが効果的とされてきた。
でも、ストーク・キャノンⅡなら普段はDエナジー兵器で攻撃しつつ、状況に応じてDエナジーを固めて実弾を撃つことが出来る。
Dエナジー兵器でありながら、それに耐性があるモンスターも苦にしない。
うーん、やっぱりすごい発明だ!
「胸にはDエナジーを放つ宝石を輪のように散りばめたトパーズ・ガトリングが2門。バックパックの側面には長い砲身を持ち安定した射撃が行えるDエナジースマートライフルが2丁。そして、両腕にはバリアガントレットおよび超磁力パイルバンカーが装備されていますわ」
Dエナジーを放つ宝石はアイオロス・マキナも使ってるからよく知っている。
Dエナジースマートライフルも普通に流通している武器だ。
でも、バリアガントレットと超磁力パイルバンカーというのは聞いたことがない。
「腕から伸びている金属の棒を強い磁石の力で加速させ、標的に打ち込むのが超磁力パイルバンカーですわ。まあでも、これはあくまで敵に接近されてしまった時の保険ですわね。本命はこの太くたくましい腕の中に搭載されるバリア発生装置ですわ!」
「う、腕にバリア発生装置を!?」
バリアと言えばマシンベースやダンジョン内の重要施設を守っているあのバリアだ。
人類が扱える防御兵器の中では未だにトップクラスの強度を誇り、ドローンに搭載するなどして小型化の検証が進められてはいるけど、消費エナジーの多さがネックでなかなか実用化に至っていないのが現状……。
それをDMDの搭載すること自体は不可能じゃないけど、長時間の戦いが予想される深層ダンジョン攻略ではやはり消費エナジーが気になる。
でも今回グラドランナ・アンドファレナに搭載されたということは、その問題の解決策が見つかったということだ!
「ただし、バリアが展開するのは手のひらのみ! しかも常時発動ではなく他の武器と同じく任意で使うタイミングを選択しますの。展開範囲を絞り、発生時間を削り、なんとか長時間のミッションにも対応出来るバリアシステムが完成したのですわ!」
なるほど、確かに今までの小型バリアはドローンに搭載する都合上、機体全体を守るよう球体状に展開されていた。
それに移動中こそAIの判断でバリアを切っているけど、戦闘となれば細かなオンオフまでは判断しきれず戦闘中常時バリアが展開されていた。
それに対して今回のバリアシステムは展開のタイミングを操者に任せ、展開範囲を限定することでエナジーの消費を抑えたわけね!
「そして極めつけは下半身! キャタピラを前に2つ、後ろに2つの計4つにすることで柔軟な走行能力を得ると同時に、今はお見せ出来ませんがキャタピラ部分が変形しDフェザーを展開するユニットになりますのよ! 走行出来ない地形では飛行し、走行出来る地形ではDフェザーを切ってエナジーを節約する……! 見た目こそ金ピカでゴージャスですが、その実は計算しつくされた
ついにあのグラドランナも飛ぶにまで至ったか……!
多種多様な弾丸を撃ちわけられるキャノンに限定的なバリア機能、さらに走行と飛行の切り替えまで要求される複雑な機体になっているけど、蘭にはそれを支えるAIがいる!
見た目の派手さとは裏腹になんて繊細で美しいDMDなんだ!
「わたくしはこの機体をあくまでも後方支援用として仕上げましたわ。元々グラドランナちゃんはモエギの血が強く、砲撃だけでなく機動力を生かした接近戦もこなせるDMDでした。しかし、今回私に課せられた役目は蒔苗さんをコアまで送り届けること! そこで黄堂重工の設計思想に立ち返り、タンクタイプ本来の砲撃による支援能力を極限まで高めることにしたのですわ。そのためにトレードマークであるキャタピラも変形し空を飛びますの! どんな地形、どんな状況でも蒔苗さんをサポートしてみせますわ!」
蘭の覚悟が形になったようなDMD、グラドランナ・アンドファレナ。
あの『
それが今では黄金に輝くDMDに……。
そして、蘭も真っすぐな心を持つDMD操者になった。
初めて食堂で彼女を見かけた時には、こんなに仲良くなるなんて想像してなかったな。
「ありがとう蘭。この機体と蘭になら安心して背中を任せられる」
「ええ! 大船に乗ったつもりでいてくださいな!」
私も彼女の覚悟に応えるために自分の役割を果たそう。
必ずコアを破壊しダンジョンと竜種を……!
「あっ! いたいた! おーい育美! 私の機体どうなってんだよ~!」
遠くから駆け寄ってくるのは葵さんだ。
彼女もマキナ隊の一員なので当然滋賀には来ているけど、まさかDMDの方が届いていない……!?
でも、その割には育美さんはすっとぼけた表情をしている。
「どうなってるのって……ちゃんとここに用意してあるわよ?」
「そうじゃなくって、なんで私に蒔苗が使ってたアイオロス・ゼロを受け継がせようとするんだよ!?」
「えっ!? アイオロス・ゼロを葵さんが!?」
それ、私も初耳なんですけど!?
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