-19- レベル10ダンジョン『潮騒砂宮』

 勢いよくカプセル型コックピットに入り、アイオロス・ゼロとブレイブ・リンクする。

 新武装であるオーガランスを含め、必要な武器がロボットアームによって装着されていく。

 シールドは両腕に、ソードは腰の両側に、そしてオーガランスは……手に持つ!


「オーガランスは大きいから、腰にはくっつけられないの。基本的には手で持って、どうしても手を空けたい時は地面にぶっ刺しておけばいいからね。作戦の要のサンダーフェンスの発生器は腰の後ろに装着したボックスの中に入ってるわ。ボックスを機体からパージすると自然とふたも開くから、設置する地点に着いてからパージしてね」


『了解です!』


「良い返事! では、発進シークエンスに移行!」


 整備ドックから出撃ハッチへ流れるように運ばれる。

 期待と不安と高揚感が入り混じるこの瞬間が結構好きだ。


「アイオロス・ゼロ、異常なし。ブレイブ・リンク、異常なし」


 地上へとリフトが上昇していく。

 そういえば、今回も空を飛ぶことになるのかな?

 飛んでからはそれなりに冷静になれるけど、飛ぶ前はやっぱり恐怖も感じる。

 うぅ……慣れないとダメよ、私!

 一流のDMD操者は、何百回と出撃を繰り返すもの。

 飛ぶたびにビビってたら話にならないわ!


「地上用ハッチをオープン」


 あれ? 天井じゃなくて、目の前のハッチが開いたぞ?

 これはもしかして、今回は陸路ってこと?


「あら、あらあらあら! なんてことですの! このDMDにはロクな武装が積んでないではありませんか! それで本当に戦えますの!?」


 ハッチの向こう側には、黄堂蘭おうどうらんがいた!

 腕を組み、仁王立ちでこちらを見ている!

 まるで品定めをするような目だ……!


「DMDというのは多くの武装を撃ち鳴らし、モンスターを一気に殲滅するもの! その方が安全ですし、効率的ですわ! 近接戦闘など邪道! 本当にこのDMDで私のグラドランナちゃんを救うことが出来ますの!?」


『大丈夫、アイオロス・ゼロは強いよ。絶対にあなたのDMDを救い出して見せるわ』


 自分でも驚くほど穏やかな声が出た。

 一体どうしてだろう……?

 蘭の方も驚いてフリーズしている。


「ふ、ふんっ! 自信はあるようですわね……。まあ、期待せずに待ってますから、せいぜい無理せず頑張りなさいな」


『うん、ありがとう』


 アイオロス・ゼロに輸送用ドローンが装着され、天井のハッチが開く。


「蒔苗ちゃん、今回から飛び立つタイミングはあなたに任せるわ。前はごめんね」


『いえいえ、ああしないとなかなか飛ばなかったと思いますし、おかげで耐性もつきましたから、今回からはバッチリ飛べます!』


 もはや飛行など恐るるに足らず!

 いざ、潮騒砂宮へ!


『テイク・オフ!』


 アイオロス・ゼロが空を舞う。

 ただ、飛び立った後に関しては引き続き育美さんが制御するので、私は待ってるだけ!


「今回は海の方へ向かうわ。空から見る海はなかなかの絶景よ」


 海……か。

 潮騒砂宮という名前からして海を連想するけど、実際ダンジョンも海の方にあるんだなぁ。

 そういえば私、海に泳ぎに行ったことはない気がする。

 危険な生き物がたくさんいるし、海水はベタベタするから、泳ぐだけならプールでいいかなって思っちゃう。

 美味しい海の幸を食べに行ったことなら、小さい頃にあった気がする。

 もう記憶が薄れてるけど、その時はお父さんもお母さんも元気だったな……。


 ……って、感傷に浸るなんて私らしくないわ!

 そういうことは中学生で卒業したんだ。

 高校生の萌葱蒔苗は過去を振り返ったりしない。

 それに今はDMD操者としてやるべきことがある!

 必要としてくれる人だっているんだから!


 気合を入れるためにほっぺたを軽く叩こうとして、手に槍を持っていることに気づいた。

 危ない危ない……。この高さから地上に落とすのはまずいからね……。

 でも、ヒヤッとしたおかげで頭が冴えた。


「蒔苗ちゃん、見えてきたわ。あれが今回探査するダンジョンの入口よ」


 眼下に広がるのは小さなビーチ。

 白い砂浜と青い海……そんなフレッシュな景色の中に紛れ込んだ異物。

 ちょうど砂浜の真ん中あたりにぽっかりと開いた漆黒の穴は、なにもかも飲み込んでしまいそうな雰囲気があった。

 燐光風穴の入口とは形状が全然違うけど、こちらはこちらでこの世のものとは思えない。


「そろそろ降下するわ。着陸に備えて」


『はい!』


 砂浜に着陸する時、砂に足を取られて少しバランスを崩した。

 うん、確かに砂の足場は動くのが難しそうだ。


「ここの入口は地面に対して水平になってるから、穴の中に飛び込むようにして入ることになるの。でも、ダンジョン内は燐光風穴と同じく洞窟型だから、真っ逆さまに落ちていくなんてことはないわ。安心して飛び込んでね」


『は、はい……』


 目の前で見ると、結構デカいなこの穴!

 黒いエネルギーが渦巻いているような感じがするし、暗闇がどこまでも下へ伸びているような気もする。

 正直怖いけど、育美さんが安心しろと言うのだから、きっと問題ない!


『突入します!』


 私は漆黒の穴へ飛び込んだ。

 一瞬、目の前が真っ暗になる。

 でもその後、すぐにどこかに着地した。

 足の裏の感覚からすると……砂の上のようだ。


『ここが……ダンジョン!?』


 確かに壁や天井の雰囲気は洞窟だ。

 でも、足元の砂や広がる地底湖、なにより光源が存在しないのに真夏のように明るい日差しは、とてもダンジョンとは思えない!

 いや、むしろこのありえない状況こそダンジョンなのか……!


「驚いてるわね、蒔苗ちゃん。ブリーフィングで見せたダンジョン内部の画像では、この夏真っ盛りのような日差しまでは伝わらないからね」


『前のダンジョンは鉱石が光ってるから明るいって理屈がありましたが、今回はなにが光ってるのかすら不明なのに明るいですからね……。それに入って来る時は穴に飛び込んだはずなのに、ダンジョン内から見る入口は壁に出来た横穴みたいな感じなんですよね』


「ダンジョン内では入口の形がこちらの世界と違ったり、意味不明な自然現象に出くわしたりなんて日常茶飯事よ。蒔苗ちゃんもそのうち驚かなくなっていくわ」


『嬉しいような、悲しいような……』


 一流のDMD操者への道は遠い……。

 でも、千里の道も一歩から!

 まずはこの依頼を完遂することから始めましょう。

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