-20- 真夏の迷宮

 裸足で歩いたらやけどしそうな砂浜を前進する。

 地底湖は風もないのに揺らめき、さざ波の音が聞こえてくる。

 そんなミニチュアのビーチのようなフロアを抜けると、今度は洞窟らしい岩壁に囲まれた通路が続いている。

 そして、通路を抜けるとまた別のビーチが広がっている……。

 潮騒迷宮はその繰り返しで構成されたダンジョンだ。


 DMDは『熱い』という感覚をそこまで操者にフィードバックしないから、歩いていてしんどいと思うことはない。

 ただ、目に見える光景は夏を連想させるものばかりなので、気分的には『暑い』と言った感じかな。


『……モンスター発見』


 白い砂浜に無造作に転がっている真っ赤な岩。

 その正体は岩に擬態したカニ型モンスター『ファイヤクラブ』だ。

 こいつは近づくとカニの姿に戻り、口から高熱の泡を噴射してくる。

 対処法は……一気に距離を詰めて貫く!


『はあっ!』


 擬態を解かせる間もなくオーガランスがファイヤクラブを貫いた!

 その体は光の粒子となり、後には真っ赤な殻だけが残った。


「ファイヤクラブの殻は耐熱性に優れているから、結構需要があるのよ」


『よし、出来る限りたくさん回収します!』


 このカニを狩るのは楽でいい。

 でも、そうもいかない曲者がこのダンジョンにはいる。


『あっ、地底湖から赤いエビみたいなモンスターがこっちを見てます。確かあれは……』


「フレイムロブスターね。気を付けて、炎を飛ばしてくるわよ」


 水面から姿を現す巨大なハサミ。

 その刃と刃の間には、銃口のようなものが隠されている。

 そして、銃口はハサミが目いっぱい開かれると同時に、圧縮された炎の弾丸を発射する……という仕組みになっている。

 こいつへの対処法は……炎の弾丸を回避しつつ貫く!


『いよっと!』


 余裕をもって炎を回避し、オーガランスを構えて突撃の体勢を作る。

 本当は撃たれる前に倒せればいいんだけど、こいつは水の中に潜んでるから、発見が遅れることが多いらしい。

 だから、1回は好きに撃たせて、その次が来るまでに仕留める!


「やーっ!」


 スラスターを噴射し、一気に距離を詰め、その赤い殻を貫く!

 ロブスターの体は光の粒子となって消滅し、その後には殻と同じくらい赤い内臓のようなものが残された。


『い、育美さん……結構グロいものが出ました……』


「お、発炎器官はつえんきかんをゲットしたのね。それは体内のエナジーを炎に変えるための臓器だから、たくさん集めれば火炎放射器を作れるわよ」


『火炎放射器……ですか。なんだか悪者が使ってる武器って感じで、あんまり良いイメージがありませんね』


「でも、結構使い勝手は良いと思うわよ。普通の銃と違って正確に狙いをつける必要はないし、適当に炎をばら撒くだけで目くらましにはなるからね。近接用の射撃武器って感じかしら」


『確かに私の射撃の腕前でも使えそうですね。積極的に集めてみようと思います』


 その後、結構な頻度でフレイムロブスターに出会い、そのたびにオーガランスで貫き、たくさんの内臓を集めた。

 字面は猟奇的だけど、要するに探査が上手くいっているということだ。

 オーガランスはとっても使いやすい!

 敵に真っすぐ突撃して、正面から突くだけで戦いが終わる!

 レベルの高いダンジョンではこうもいかないんだろうけど、この潮騒砂宮に関しては必殺のオーガランス突撃だけで今のところなんとかなっている。


『おっ、またフレイムロブスター発見! ちょっと今までの個体よりハサミが立派かな?』


 と言いつつ、普通に貫いて倒す。

 後に残ったものは内臓……ではなく、炎の弾丸を発射する銃口がついているハサミだった!


『育美さん、ロブスターがハサミを落としましたよ!』


「それは運が良いわね。モンスターの中にはたまに他の個体より発達している奴がいて、そいつらは特別な部位を残すことがあるのよ。そのハサミは耐熱性に優れているだけでなく、エナジーを送ることで高温になる性質があるから、ヒートサーベルとか熱で敵を切る武器の素材に使えるわ」


『熱で敵を切る……カッコいいですね! こっちの銃口はなにに使えるんですか?』


「そっちはエナジーを送ることで炎を圧縮したり、増幅したり出来る特殊な物質が入っているから、そのまま元と同じく炎の銃を作ったり出来るわね」


『炎の銃……それもカッコいいですね!』


「あらら、火炎放射器は良いイメージないのに?」


『だって、炎の銃ってなんか主人公の武器っぽいじゃないですか』


「うーん、わかる。同じ炎を扱う武器なのに、少し違うだけでこんなにイメージが変わるなんてちょっとかわいそうね」


『確かに……。それにしても、機械みたいな体を持ってるモンスターもいるんですね。ロブスターのハサミなんて、DMDの武器とそう変わらない気がします』


「そもそもDMDはダンジョンのモンスターを研究し、参考にして作られたマシンだからね。もちろん人間もたくさんの武器を作ってきた歴史があるから、すべてがモンスターからの恵みというわけではないけど、割合で言うとモンスター側がオリジナルと言えるかもね」


『そう考えると、DMDより強いモンスターとか結構いそうですね……。もう全身マシン化してる奴とかもいるかも……!』


「うん、いるわよ。マシン系モンスターって呼ばれてて、その中でも全身がマシンと変わらない状態になっている個体は『完全体』って呼ばれてるの。当然1機のDMDではまったく歯が立たないわ。でもね、そいつらは基本的に1体で活動するから、人間の数と連携の力があれば、倒せない敵ではないのよ」


『協力し合う関係こそ人間の力ってことですね。ということは、今の私がそういうヤバい奴に出くわしたら……?』


「そりゃ……全力逃走よ! 流石の蒔苗ちゃんとアイオロス・ゼロでも勝てないと断言しておくわ。どんなモンスターが相手でも、危ないと思ったら逃げる! 基本的にダンジョン内の戦闘において逃げることは負けじゃないの。機体を動ける状態で残し、記録した映像や音声、センサー類の計測結果を持ち帰れるんだから、まさに逃げるが勝ちってね!」


『なるほど……逃げなかった結果、今回みたいな事態になるんですね』


「なかなか毒を吐くわね、蒔苗ちゃん」


『えっ!? そういう話の流れじゃなかったんですか!?』


「そうでもある! でも、本命は蒔苗ちゃんへの忠告よ。そろそろ問題の現場だからね」


『あっ……! 気を引き締めます!』


 DMD7機が破壊された場所……。

 いったい何が潜んでいるというのか……。

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