-68- 重力を御す
アイオロス・ゼロはフレームだけの状態で出撃ハッチへと向かう。
重力制御のテストは訓練場のような広い場所で行うのが適切だからだ。
私もすでにカプセル型コックピットに収まり、機体が地上に出るのを待っていた。
「じゃ、いつも通り訓練場まで移動してね。今は緊急事態だからハッチの周りに人がいると思うけど、ぶつからないように気を付けてね。翼、大きいから」
ハッチが開くと、育美さん言うように往来する人が見えた。
みんな未完成の機体が出てきたことにギョッとしているが、私は気にせず訓練場に向かう。
「よし、着いたわね。まずは軽ーく浮遊する姿をイメージして」
テストはすぐに始まった。
自分の浮いてる姿……浮いてる姿……。
『……うわっ!? 浮いてる!』
アイオロス・ゼロはふわふわと宙に浮かんでいた。
推進器の類は使っていない。
重力でも操らないとありえない現象だ!
「うん! 第一段階は成功ね。次は重力制御を用いた飛行のテストよ。浮いたまま自由に飛び回る姿をイメージしてみて」
飛び……回る……!
機体は軽くスラスターを吹かせながら、なめらかに飛行を開始する。
スラスターの勢いだけでロケットのように飛んでいた時とはまるで感覚が違う。
より思いのまま自由に空中での動作が行える!
「流石ね……! 後は戦闘レベルの機動力を発揮できるかどうかだけど、今回はこのドローンの動きについていってみて」
訓練場に現れたのは毎度おなじみの訓練用ドローンだった。
前回これと戦ったのは、愛莉たちがマシンベース見学に来ている時だったなぁ……。
あの時は勢い余って1機壊してしまったけど、今回はそうならないようにしなくちゃ!
「あ、今回は別に戦う必要ないわよ」
『そ、そうですか……』
今回はとにかくドローンの動きについていけばいいんだな。
でも、このドローンは訓練用とは思えないほど機敏な動きをする。
無人兵器としてダンジョンに投入したらどうかと思うほどだ。
私も気合入れて頑張らないとね……!
「ドローンが動き出して5秒経ったらスタートよ」
カウントダウンが始まる。
その間もドローンはその機敏さを見せつけてくる。
絶対ついていってやるんだから!
「スタート!」
『うおおおおお…………おおっ!?』
は、速い……!
アイオロス・ゼロの動きが速すぎる!
重力の影響を軽減できるとこんなにも速いの!?
これじゃドローンについていくどころかぶつかる……!
『止まれ……!』
アイオロス・ゼロはスッと停止した。
加速だけでなく、停止もなめらかになっている!
この動きが出来れば飛行するモンスターと出くわしても恐れることはない!
空中で格闘戦だって出来るはずだ!
『これすごいですよ育美さん!』
喜びのあまり空中をぐるぐる飛び回る。
この機体に訓練場の中はあまりにも狭い。
大空を飛び回ってみたい気分だ!
「すごいのは蒔苗ちゃんよ。テストは無事終了。この翼は新しいアイオロス・ゼロに正式採用させてもらうからね」
『やったぁ!』
地上に降り立ち、機体を整備ドックに戻す。
まだ未完成の機体を明日までには完成させないといけないから、いつまでも気持ちよく飛び回っているわけにもいかない。
でも、明日は好きなだけ飛んでいいからね。
もちろん、ダンジョンの中を……だけど!
「お疲れ様。今日はもうゆっくり……って、さっきまで寝てたんだったわね」
「えへへ……ついつい寝すぎちゃいました。私はこれから食堂でご飯を食べようと思います」
「おっ、いいね。そういえば私も晩御飯食べてないかも……?」
「この状況だと強くは言えませんけど、ご飯はちゃんと食べてくださいね」
「そうね! じゃあ、チームのみんなも誘ってご飯にしよう!」
「えっ? この時間なのに誰もご飯食べてないんですか?」
「そうみたいよ。蘭ちゃんは歪みの近くのマシンベースで戦うことをお父様に納得させようとずっと戦ってるし、葵はずっとポラリス・グリントの調整とテストを繰り返してるし、百華は本社と何か話し合ってるみたいだし」
「みんな大変なんですね」
「それぞれに背負ってるものがあるからねぇ。でも、目的は一致しているわ。みんなあのダンジョンを消し去るために戦っているのよ」
「もう戦いは始まっている……か」
「でも、腹が減っては戦ができぬとも言うでしょ? みんな1回休憩を入れて、クールダウンしないと解決する問題も解決しないわ」
「そうですね。みんなを誘いに行きましょう! 決戦前夜の決起集会です!」
「そう言われるとなんか燃えてくるわね! でも、騒いじゃダメよ?」
蘭も、葵さんも、百華さんも、私の提案を快く受け入れてくれた。
決起集会という名の休憩&食事は静かに行われ、みんなで現状を報告した。
蘭はお父様との話し合いは平行線なのでもう無視するらしい。
葵さんはポラリス・グリントの作られた経緯の特殊さのせいで調整が難航してるとのこと。
百華さんは仕事をしてましたとしか言わなかったけど、なんとなくポラリス・グリントを持ち出したことについて本社に確認をとっていたんじゃないかと思う。
出撃直前でやっぱ返せと言われたら困るもんね。
私は重力制御という新しい力のことを話した。
みんな驚いていたけど、割とすぐに納得したようだ。
もう私って重力を操っても違和感がない女になってる……?
まあ、それならいっそオーラも完璧に操ってみたいけど、さっきのテスト中もオーラが発生することはなかった。
一応意識はしていたんだけど、やっぱり自分の意思で操れるものじゃないのかな?
また私がピンチになれば、助けてくれるんだろうか?
でも、不確定要素を当てには出来ない。
今ある自分の力とみんなの力でなんとかするんだ!
決起集会が終わり、そのうちみんなも眠りにつく。
そして、決戦の朝がやってくる。
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