-69- その名はゼログラビティ
翌日、正午前――。
私の目の前には強化改修が完了したアイオロス・ゼロがあった。
昨日はフレームがむき出しだったボディには、白と萌葱色を基調とした装甲が装着されている。
以前のアイオロス・ゼロより装甲は分厚くなっているかな?
きっと重力をコントロールで出来るようになったから、ある程度機体重量が増えても問題なくなったんだ。
そして、その重力制御を行うのが背中に装備された黒い翼だ。
白と萌葱色の機体カラーに対して、漆黒のこの翼は間違いなく浮いている。
まるで翼だけ堕天した天使のような……そんな雰囲気がある。
機体本体だけでもこれだけの変化があるのに、新しい武装まで用意されている。
これだけの改修を短時間でやってのける技術力と努力には感謝しかない。
「出撃前にいくつか説明しておくことがあるわ。まずは機体名ね。これだけの変化があって前と同じままってのもあれでしょ? だからこの機体の名前は『アイオロス・ゼログラビティ』! ゼロを引き継ぎつつ、最大の変化を名前に取り入れた私にしては会心のネーミングだと思うけど……どう?」
「ゼログラビティ……! いいですね!」
「気に入ってもらえてよかった! 作る機体には自信があるけど、ネーミング能力には自信がないから不安だったわ……」
「いえいえ、最高の名前だと思いますよ!」
無重力を意味するゼログラビティ。
重力を支配下に置いたアイオロス・ゼロにとってこれほど適切な名前もない。
「さて、重力制御に関しては昨日理解してもらえたと思うから割愛して、それ以外の変更点について解説していくわ。まず機体の装甲は見ての通り厚みが増しているわね。トラブルや損傷で重力制御が行えなくなっても戦えるように、出来る限り軽量かつ頑丈な素材にはしてあるけど、それでも機体重量は増加しているわ。機体の名前にゼログラビティを採用しているように、ある程度重力制御を前提とした機体設計になっていることは忘れないでね」
「つまり、翼を壊されるとマズイと……」
「マズイというほど全体の性能がガタ落ちするわけじゃないけど、機動力の1点に関してはマズイと言えるわね。ただ、この翼はあのカラスが落としたものだけあってとっても頑丈よ。問題なのはその翼と機体の接続部分! 一種の関節とも呼べるこの部分だけはどうしても脆くなってるのよ」
なるほど、確かにバックパックと翼の接続部分は装甲が薄い。
この翼は重力制御を行う過程で開いたり、逆に閉じたりもするから、接続部分は関節のように柔軟に動く必要がある。
可動域を確保するため、あまり装甲がつけられないんだ。
それはそれとして、背中を見ていると気になるものがあった。
バックパックの真後ろ、ちょうど翼と翼の間に増設されたロボットアームが掴んでいる長剣だ。
アイオロス・ゼログラビティの全長とほぼ変わらない長さの白い剣が2本も装備されている。
「それはね、スタビライザーソードよ。これも怪鳥峡谷のモンスターが落としたアイテムを素材として作った新兵器でコンセプトは1本3役! この剣には3つの機能が搭載されているの」
「3つの機能ですか……。まず剣としての機能は当然ありそうですね」
「もちろん、名前の通り剣としても使えるし、飛行を安定させるスタビライザーとしても使えるわ。さらに持ち手には小型のDエナジー発射装置を内蔵してるの。エナジーは剣のお尻、つまり持ち手の下の方から出るから、手に持って撃つというよりロボットアームに接続したままショルダーキャノンとして使う形になるわね」
剣は刃を下にして背負われているから、持ち手の方がちょうど機体の頭に近い位置にある。
少しアームの角度を変えれば、そのまま持ち手が肩の前に出てくる形だ。
そのままキャノンとして使っても良いし、持ち手が前に出てきているから剣として使う時背中から取り外すのも簡単になる。
うーん、これが機能美って奴ね!
「このスタビライザーソードがゼログラビティの目玉武装ではあるけど、別にこれを無理して使う必要はないわ。背負ったままでも機能するようになってるからね。それに他にもたくさん武装は用意してあるから」
機体には新武装だけでなく、お馴染みの武装をさらに発展させたものも装備されている。
槍と盾と銃、その構成自体は変わらないけど、見た目はかなり変化しているものもある。
「フレイム・シューターとサンダー・シューターは前回の戦闘で腰部分の装甲と一緒に壊れてたから、それを直すと同時に少し改良を加えてあるわ。拡散・集中・圧縮すべてのモードの威力が上がってるけど、他の武器に比べると手が回らなくてマイナーチェンジ程度に収まっているわ」
2丁の銃は少し銃身が長くなっているくらいで、確かに大きな変化はない。
でも、1日ですべての武器に多少なりとも改良を加えている時点ですごいことなんだ。
育美さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいだ……!
「ネオアイアン・エッジシールドに関しては変更点が多くて、まず表面に対Dエナジーコーティングが
「この盾1つで防御と射撃と斬撃が行えるわけですね! なんだかグラドランナのジュエリーボックスみたいです」
「そう、これはまさにジュエリーボックスを疑似的に再現しようとして作った武装なの。前回の戦いでかなり活躍したジュエリーボックスをゼログラビティにも搭載したかったんだけど、あれはいろいろ特殊な武装だから調達も製造も間に合わなくて……」
「でも、この盾があれば同じくらい活躍できると思いますよ。やれることは大体一緒ですからね」
「そう言ってくれるとありがたいわ。さて、最後の武装は……オーガランス! それもすべての部分をブラックオーガの角で作り直した『フルブラックオーガランス』!」
アイオロス・ゼログラビティの右手に握られた槍は、全体が光すら反射しない漆黒だった。
前は先端にブラックオーガの角を使い、他の部分はグレイオーガの角を使っていた。
その状態でもかなりの頑丈さを誇った槍の全体が黒くなってしまったら……!
「……少し細くなりましたか? このオーガランス」
黒さの前に私が一番気になった部分はそこだった。
前のオーガランスと比べてかなり細身の槍になっている。
「まあ……気づくよね! もともといつかオーガランスを完全にブラックオーガの角だけで作り直そうとは思ってたんだけど、新種であるブラックオーガは最近やっと他のダンジョンにもちらほら出始めた感じで、取引されている角の数もまだ少なくて……」
「要するに素材不足……ですね」
「そうなの……。でも長さは維持しているし、強度は前のオーガランスより格段に上がっているわ。武器として使う上ではむしろこの細さの方が取り回しが良いと思う。その証拠にこのフルブラックオーガランスは腰の後ろにマウント出来るようになってるの」
「それは便利ですね。前までは一度地面に突き刺してから他の武装を使ってましたから」
空中戦をメインにするゼログラビティにとってこの変更はありがたい。
それに強度が上がっているなら、細くても問題はないんだ。
前の無骨な形状に多少の愛着はあったけどね。
「これがアイオロス・ゼログラビティの武装のすべてよ。私も出来る限りのことはしたと思う」
「いつもいつもありがとうございます。この機体があれば私は負けません」
「その言葉……本当に心強いわ」
「ふふっ、心強い味方がいるからこそですよ」
機体は出撃ハッチへ、私はコントローラーズルームへ向かう。
飛び立つ時がついに来た!
「改めてよろしくね、アイオロス・ゼログラビティ」
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