-70- レベル45ダンジョン『蟻の巣(仮称)』
コックピットカプセルを起動し、アイオロス・ゼログラビティとのブレイブ・リンクを行う。
……うん、問題なく繋がるね。
あとは出撃ハッチに機体が到着するのを待つだけだ。
「アイオロス・ゼログラビティ各部チェック……異常なし。ブレイブ・リンク安定性……異常なし。システムオールグリーン。出撃準備完りょ……えっ? なに? 何が起こったって?」
育美さんが誰かと会話している。
同時に私の心が激しくざわつくのを感じた。
なんだこの感じ……。
ヤタガラスが地上に出てしまった時の感覚と似ているような……。
「出撃一時中止! アイオロス・ゼログラビティは待機状態を維持!」
出撃が止められてしまった!
そして、すぐにコックピットカプセルのカバーが開く。
「蒔苗ちゃん、空間の歪みに異変が起こってる」
「ええっ!?」
私はカプセルから飛び出し、コントローラーズルームのモニターを見る。
そこには……歪みが戻り赤色が薄くなっていく空間が見えた。
もしかして、誰かダンジョンの抹消に成功した!?
「まだダンジョン抹消の知らせは入ってないわ。それどころか、ダンジョンのレベルから考えると5割くらいしか探査が進んでいない。それなのになぜ……」
「ダンジョンが改心した……なんてことはないですね」
「まあ、ないわね。むしろ、こういう変化が起こる方が怖いわ……」
でも、もしかしたら本当にあのドーム状の歪みが消えるかもしれない。
ダンジョン自体は残っても、あれさえ消えれば閉じ込められている人たちを救出できる。
そんな私たちの淡い期待はすぐに打ち砕かれた。
ダンジョンの歪みは消え、赤色も薄まりほぼ透明に近くなった。
しかし、確かにそこに壁がある……。
歪みのドームからガラスみたいなドームに変化したんだ。
これはまるでマシンベースやDエナジー濃縮工場を守っているバリアみたいだ。
なぜダンジョンはこんなものを作るんだろう?
そんなことを考えていると、育美さんがつけているインカムが光った。
誰かからまた連絡が来たんだ。
「はい、若草です」
『きゅ、急速に……混成体……上……。地上に……します!』
通信相手の人の声は大きくて、私にも途切れ途切れ内容が聞こえてくる。
そして、その内容が穏やかなものでないことは察しがついた。
「ええっ……!? 蒔苗ちゃん! ごめん、もう1回出撃準備!」
「了解です!」
準備はとうに出来ているというか、あれから気持ちを切らしてはいない!
再びゼログラビティにリンクすると、機体は出撃ハッチに向けて動き出していた。
「手短に説明するわ。今ダンジョンの入口から大きなムカデ型モンスターが飛び出してきて、あのバリアみたいなドームに張り付いているの」
『わかりやすい説明ですけど、わかりたくない内容ですね……』
私は1人暮らしが長いから、小型の虫程度なら平気で追い払える。
でも、ムカデはね……。
このご時世、都会じゃあんまり見ないよね……。
『そいつはバリアに張り付いて一体何がしたいんでしょうか?』
「バリアの中に入ろうとしている……とか。でも、バリアはそれを拒んでいるみたいで、ムカデは体をバリアに打ちつけてるように見えるわ」
『もしかして、あのバリアって良いものだったり……?』
「わからないことだらけね……あっ!?」
『今度は何ですか!?』
「ムカデの体の一部がバリアに侵入し始めている……!」
『バリア割れちゃったんですか!?』
「いいえ。何というか……部分的に歪めるというか、弱めることで自分の体をねじ込もうとしてるみたい。でも、1回じゃ上手くいかなくて試行錯誤しているような……」
話を聞く限りでは、まるで新しい力を試しているみたいだ。
私が重力制御のテストを行ったように……。
まさかあのバリアはテスト用で、バリアを弱める力を試すために作られた?
でも、ダンジョンやモンスターたちがそんなことをする……?
発想が飛躍しすぎかな……。
ただ、今やるべきことはハッキリしている。
あのバリアの中にでっかいムカデなんか入ったら困る!
だから今すぐ行って倒す!
『育美さん、私が何とかしてみます! 上部ハッチ全部開けてください! 自分で飛びます!』
普段はエレベーターで地上まで機体を運ぶけど、アイオロス・ゼログラビティなら地下からでもハッチさえ空いていれば自力で飛んで行ける!
その方が出撃までの時間も短縮できる……!
「了解! 上部ハッチ全開放! 上空に他の機影見当たらず! 進路クリア!」
『アイオロス・ゼログラビティ、出ます!』
初動から超加速……!
重力すら支配したこの機体を縛るものは何もない!
ほぼ一瞬で出撃ハッチから地上に飛び出すと、そのムカデがいる方向に機体をさらに加速させていく!
『うわぁ……! もうハッキリ見えるほどでっかいムカデだ……!』
体の半分が機械になっている混成機械体だらか、少し気持ち悪さはマシになっている。
だが、機械である分強さが増していることは、もう嫌というほど理解している。
アイオロス・ゼログラビティの最初の相手として不足はなし……!
いきなり機体のスペックをすべて引き出すつもりで挑む!
『怖いだろうけど、待っててねみんな! すぐに助ける!』
オーガランスを腰にマウントし、私は背中のスタビライザーソードを抜いた。
『たたっ斬ってやる!!』
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