-103- 血に刻まれた因縁の地Ⅵ〈撤退〉

『クリムゾンブラスター!』


 ゼロリペアから放たれた赤いエナジーは竜種の胸のあたりに命中。

 ジュゥゥ……と音を立てながらドロドロの体を溶かし、肋骨ろっこつを露出させる。

 ここへさらに追撃を入れる!


『マグナム……くっ!』


 竜種は体中のドロドロを自在に操り、私たちの方へと射出してくる。

 粘液と言えどそれなりの勢いで撃ち出せば弾丸だ。

 しかもこの粘液……物体を溶かす力がある!


 実際に粘液を受けてしまったマギアントB型の装甲は溶けている。

 一撃で行動不能になるわけじゃないけど、問題はこの粘液が無尽蔵に撃ち出されること……!

 そして、竜種自体もそれなりのスピードで動くということ!

 ダンジョンを背走しながらこいつの相手をするのはキツイ……!

 なんとか一時的にでも竜種の足を止められれば……。


 そう考えていた時、不意に通信が入った。

 相手は近くにいるマギアントB型で、内容は試作型バリア発生装置の使用許可を求めるものだった。

 そうだ、防御力を重視した実験機であるマギアントB型には、マシンベースなどに設置されているバリア発生装置を小型化したものが搭載されている。

 ただ、小型化しても消費するエナジーの量はあまり抑えられなくて、DMDが扱うには少々燃費が悪い兵器になってしまっている。

 だから私の許可なく使うことは出来ない設定にしてあった。


 でも、マギアントB型のAIはこの状況で使うべきだと判断した。

 ならば私はその判断を尊重しよう!


『マギアントB型、バリア発生装置起動!』


 命令を受けたマギアントB型が竜種に突っ込む!

 周囲をバリアに覆われた状態なら竜種とも押し合いが出来る。

 まるでラグビーのスクラムのようにガッチリと組み合った両者のパワーは拮抗し、その場から動かなくなった!

 これは……大チャンス!


 全機移動に使う以外のエナジーをすべて振り絞り、竜種への攻勢に打って出る。

 ドロドロの粘液を消し飛ばし、その内側に隠れた骨を焼く!

 両翼の骨と肋骨の一部、手足の骨などを破壊し、竜種の形は大きく崩れた。

 しかし、それでもなおマギアントB型とパワーは拮抗している……!

 一体どこからこの力が湧いてくるの……!?


『ミス・マキナ! わたくしの機体のエナジーは尽きましたわ!』


『こっちもフルバーストに全部……。ごめんマキナ……』


『私も攻撃に使えるエナジーはもうない……』


 それはおそらくマギアントたちもだ。

 元は実験機……。こんなにハードな戦いにここまでついて来れたのが奇跡。

 本当によく頑張ってくれたと思う。


 今回の戦いで取れたデータはきっとこれからの無人機開発の役に立つ。

 だから、このまま失わせはしない!

 B型のバリアが解除される寸前で、私は命令を出した。


『マギアント、全機脱出!』


 その瞬間、3機のマギアントのバックパックがパージされる。

 バックパックは瞬時に変形し、小型飛行機の姿になるとダンジョンの入口に向かって飛んでいった。


 これがマギアントの隠し玉……脱出機能!

 実験機であるマギアントはデータを持ち帰るのが何よりの仕事。

 そこで育美さんは緊急時にAIやデータの入った記憶媒体を逃がすための機能を組み込んだ。

 それがあの小型飛行機というわけだ。

 DMDを構成するパーツの中でも高価なジェネレーターも逃がせるのでまさに一石二鳥!

 これで次はもっと強い無人機が作れるはず……!


 でもその前に、私は目の前の現実に立ち向かわなければならない。

 マギアントを3機失って戦力の減少は否めない。

 いや、そもそも残った私たちにも戦う力はもうない。

 悔しいけど……選択肢は1つ!


『私たちも撤退しよう!』


 出来る限り早くマシンベースに戻って補給を受け、またダンジョンに舞い戻る……!

 それが今の私たちに出来る最善の戦法だ。

 幸い私たちのDMDの最高速度なら竜種も追いつけない。

 後は後続の部隊の足止めに期待する!


 ……そうは思っても、やっぱり気になってしまう。

 振り返ってみると、背後で竜種が他のモンスターを捕食している。

 粘液で溶かして、自分の体に取り込んでいるんだ。

 そして、取り込むたびに竜種の体がよりハッキリした形になっていく。


 あのまま捕食を続けたら、体が完全な状態になるのかな……?

 今でも十分強いのにこれ以上の力をつけたら……。

 でも、私たちには撤退することしか出来ない。

 エナジーがなければどうしようもない……!

 それでも、これでいいのか迷ってしまう自分がいる……。


「いいわ。そのまま竜種と距離を取って、蒔苗ちゃん」


 聞き慣れた声……。紛れもなく育美さんの声だ!


『育美さん……! 大丈夫なんですか!?』


「心配かけてごめんね。少し取り乱したけど……もう大丈夫。さっきまで『ビー』たちの調整に集中してたから、なかなか声をかけられなかったんだ」


『それはよかった……! それでビーって何ですか?』


「急造の支援メカってところかな。設計自体は前から考えてたんだけど、流石にそのパーツまで新潟に持って来てなかったから、こっちのマシンベースにあるものを使ってつくろってみたわ。もうすぐ蒔苗ちゃんたちの元に到着するはずよ! だから諦めずに頑張って!」


『はい! やってみます!』


 そのビーって支援メカが何なのかまったくわからないけど、何だか勇気が湧いてくる。

 いつもみたいに育美さんの声が聞こえるだけで、竜種にも勝てそうな気がしてきた!

 よーし、この消えゆく迷宮をあいつの墓場にしてやるんだから!

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