-104- 血に刻まれた因縁の地Ⅶ〈波動〉

『……来た!』


 前方から飛来する複数のマシン。

 その下部にはコンテナを抱えている。

 なるほど、蜜を運ぶ蜂のようだからビーなのね。


「本当はDフェザーの技術を応用して虫みたいに薄いエナジーの羽を作り、それを高速で羽ばたかせることでスムーズな加速と滞空を実現した次世代ドローンになる予定なんだけど、今回のは普通のドローンに簡単なAIとブースターを積んで強化しただけのものになってるわ」


『ビーは何が出来るんですか?』


「白色のエンゼルビーはDMDへのエナジー補給。黒色のイビルビーは搭載した射撃武器による攻撃よ。補給は自動で行われるから、ビーに対して背を向けてジッとしててね」


 言われた通り飛んで来るビーに対して背を向けて立つ。

 それはつまり背後にいる竜種がよく見える状態だから、ジッとしてるのは結構怖い!

 竜種はモンスターを取り込みまくってドロドロの体と骨を再構築しているし、すぐにまた地上に向かって進撃を再開するだろう。


『は、速めに補給お願いしますね……』


 ビーに呼びかけても当然返事はない。

 代わりにビーはゼロリペアの背中と連結し、迅速にエナジーを送り込んできた。

 おおっ……! 機体に戦う力が満ちていく……!

 アンサー2機にも同様にビーが連結しているし、これで3機分の戦力がよみがえった!


 私たちが補給している間に、黒い機体イビルビーは竜種へと突っ込んでいく。

 搭載しているコンテナに入っている武器は……!


「予備のDエッジミサイル全部使っちゃうわ!」


 コンテナから一斉に放たれるミサイル!

 それは無数の激しい爆発を生み、竜種をバラバラにしていく!

 飛び散ったドロドロがこっちにまで飛んできそうな勢いだ……!


 爆発の後に残ったのは散らばったドロドロとバラバラになった骨だった。

 もう周りにモンスターはいないし、捕食して体を回復することも出来ない。

 もう……これで終わりなんじゃないかな?


「バラバラに飛び散ってはいる……。でも、骨やドロドロは残ったまま消滅していない……。蒔苗ちゃん、気を抜くにはまだ早いかもしれないわ」


 育美さんの言う通り、バラバラになった竜種のパーツはずるずると地面を這いながら引き合い、元の形に戻ろうとしている。

 不完全な状態で生まれたというのにこの生命力……!


「Dエッジミサイルのような爆発よりは、通常のDエナジー兵器のように熱線を照射し続ける方があいつには効くみたいね。蒔苗ちゃん、後はお願いするわ!」


『了解!』


 エナジーは満タンになった!

 完全に再生する前に焼き尽くす!

 エナジーさえ足りていれば造作もないことだ。

 目に見える範囲の竜種の残骸を全て焼き尽くし、私たちは銃を下ろした。

 これで長かった『黄金郷真球宮』の戦いも終わり……。


 誰もがそう思った時、ダンジョンの奥から飛来する影!

 それは竜種の頭の骨だった!

 頭はDエッジミサイルの直撃を受けて原形を失ったと思っていたけど、実際は爆発の勢いが強すぎて奥の方へ吹っ飛んでいただけだった……!?


 とはいえ飛んでくるのは頭だけで、こびりついているドロドロもわずかな量。

 一斉射撃で焼いてしまえばいい!


『これで終わり……!』


 放たれたエナジーが着弾する直前、竜種の頭は……受肉した。

 ドロドロと同じ黄土色の皮膚を持った竜の頭はエナジーの直撃を受けても健在で、そのスピードを維持したままこちらに接近してくる!

 もう、次から次へとなんなんだ!

 竜種ってどういうモンスターなの……!?

 これが終わったら育美さんでも紫苑さんでもいいから聞き出してやる!


『止まれ……! 止まれ……!』


 竜の皮膚は硬いけど……焼けてはいる!

 ただ、体の大半を失って軽くなったのか飛ぶスピードは上がっている!

 おそらくこちらの最高速度と同じくらい……!

 移動しながら攻撃を加えるのは難しいか……!


『ショーを盛り上げるためにはそれ相応の苦難も必要ですわ。でも、あまりそればかりというのも飽きが来てしまいますわね』


 紅花が急に芝居がかった台詞を吐く。

 それに合わせて藍花が言葉をつなぐ。


『そろそろフィナーレの時間……。あいつはもう消えていい!』


『幕引きといきましょうか、派手に!』


『焼き尽くすんだ!』


 2機のアンサーから赤と青のオーラが噴き上がる!

 それは私のオーラとは違い、炎のように激しく揺らめいている!

 しかもこれは……熱?

 オーラから熱を感じる……!


『オーラフレイム!』

『オーラフレイム!』


 竜種へ迫る赤と青の炎は混ざり合い、紫色の炎へと姿を変える。

 その勢いは凄まじく、竜種を焼きながらダンジョンの奥へと押し返していく。

 皮膚が焼け、骨が焦げ、最後には灰となって竜種は消滅した。


 長いショーに幕が下ろされた瞬間だった。

 ゼロリペアはこの瞬間もキッチリ映してマシンベースに伝えている。

 きっと大ホールはスタンディングオベーションだろう。


「最後は主役がキッチリ決めてくれたわね」


『はい! 観客としてそれを間近で見られてよかったです!』


 紅花と藍花は最後までやり遂げたんだ。

 途中にいろんな苦難があったけど、見事に乗り越えて人々に希望を示した。

 深層ダンジョンは抹消出来る。

 竜種だって撃破出来る。

 人類とDMDはついにそれだけの力を身につけたんだ!


 そして、オーラは私だけの特別な力じゃないこともわかった。

 ダンジョンという未知の脅威に出会った人類に芽生えた新たな力。

 獣の爪や牙のような、種が生き残るための武器……それがオーラなんだ。


 いずれもっと多くの人がオーラを使えるようになる。

 そうして、また新たな脅威にも立ち向かっていける……。

 紅花と藍花はそれを私に示してくれた。


 少し……肩の荷が降りたかな。

 まあ、そもそもあんまり重圧なんて感じてなかったけどね!


『本当に……深層ダンジョンを抹消したんですわね。あはは……あんなに求めていたのに、いざ成功すると実感が湧きませんわ……』


『私もだよ紅花ちゃん。でも、これは夢じゃない……。私たちの手で勝ち取った現実なんだ……!』


 並び立つ赤と青のDMD。

 ゼロリペアは帰還するまでその雄姿ゆうしを映し続けた。

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