-42- 黄昏に出撃す
「……お! こうしている間にもフリーのDMD操者たちがどんどん救援部隊への参加を表明してるわ! この調子なら対迷宮部隊も含めて20機以上のDMDが集まるかも!」
育美さんのいう通り、最終的に救援部隊には22機ものDMDが集まった。
マシンベース所属の首都第七対迷宮部隊から8機。
ちょうどこのタイミングでマシンベースにいたフリーの操者たちのDMDが14機。
この数分でこれだけの数が集まるなら、確かに対迷宮部隊の人員を軽視してしまうのもわかる。
「人数が確定したところで、救援部隊のリーダーから今回の作戦が通達されたわ」
「は、早いですね! 人数が確定したばかりなのに!」
「今回のリーダーは対迷宮部隊の総隊長を務めている人だから、こういう状況には慣れているのよ。それに大量発生への対応や施設防衛にはある程度セオリーもあるしね」
志願してから言うのもなんだけど、いきなり集まった部隊で上手く連携が取れるのかは気になっていた。
でも、経験から生まれたセオリーやこの状況に慣れているリーダーがいるなら一安心だ。
私はちょっと特殊な経験をしているだけの初心者だし、ベテランの言うことは素直に聞いて動こう!
「蒔苗ちゃんの今回の役目は工場の防衛よ。基本的に工場付近に待機し、向かってきた敵だけを迎撃するポジションになるわね」
「それってつまり……後ろの方でジッとしてろってことですかね?」
「簡単に言うとそうなるわね。まあ、これは蒔苗ちゃんの実力を過小評価してると言うより、初心者はまず比較的安全な後ろの方で実戦に慣れてもらおうというリーダー側の配慮だと思うわ。同じような理由でもう1機DMDが工場の防衛につくから、その子と上手く連携して前線から抜けてくるモンスターを撃破してね」
「了解です!」
……と言いつつも、少しだけ前の方に出してもらえることを期待していた自分もいる。
アイオロス・ゼロは性能的に後方支援より前衛でバリバリやる方が向いてるしね。
とはいえ、今は与えられた役割をキッチリこなしていこう。
言いたいことを言うのは、DMD操者として実績を積んでからでいい。
「あと数分で出撃になると思うから、今のうちにザッとダンジョンの構造を説明しておくわ。
「はい!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「アイオロス・ゼロ、異常なし。ブレイブ・リンク、異常なし。発進準備完了!」
全体の作戦や自分の役割、怪鳥峡谷の情報は頭の中に叩き込んだ……はず!
あとはダンジョンに突撃して戦うだけだ!
『萌葱蒔苗、出ます!』
出撃ハッチから歩み出た私は、駆け足で大型輸送ドローンの格納庫へ向かう。
今回は1人で行う仕事ではないため、集団で移動出来る大きなドローンに乗っていく。
そのドローンまで移動する方法が『自分の足で歩いていく』なんて、このハイテクの塊のマシンベースに似合わないような気がするけど、人間以上に機敏な動きが出来るDMDならちょっとした距離の移動は他の機械に頼るより自分で動いた方が速い。
普通の人間のようにえっほえっほと走り、私は指定された3番機に乗り込んだ。
大型輸送ドローンは空撮などに使うあのプロペラが4つ付いたドローンをそのまんま大型にして、その下に四角いコンテナをくっつけたような形状をしている。
そのコンテナ部分の中には、すでに5機のDMDが待機していた。
このタイプのドローンには最大8機のDMDを搭載出来るから、救援部隊22機のうち16機を1番機と2番機に乗せ、残りの6機を3番機に乗せる予定になっている。
つまり、私を乗せた時点で3番機ドローンは準備完了というわけだ。
アイオロス・ゼロを所定の位置に固定し、後は出撃の時を待つのみ……。
『……あっ! この機体は!』
私の目に留まったのは1機のDMD!
レモンのようにフレッシュな黄色の装甲、至る所に装備された武装、背負った大型のキャノン砲、そしてなにより特徴的な下半身のキャタピラ!
『グラドランナ! 蘭なの!?』
『あら蒔苗さん! ごきげんよう!』
思わぬ場所での再会に声を上げる私たち。
その声にビックリした他のDMDが人間のようにビクッと震える。
このまま話すのは周りに迷惑になりそうね……。
『育美さん、蘭とだけ通信をつなぐことって出来ますか?』
「もちろん! 今つないだわ」
『ありがとうございます。じゃあ、改めて……蘭! 元気そうでなによりよ!』
『蒔苗さんこそ、あの後倒れたと聞いて心配しておりましたのよ』
『あはは……。あれはまあ、ちょっと頑張りすぎただけよ。今はゆっくり休んだから元気元気! 蘭もグラドランナが綺麗に直ったみたいで良かった!』
『その節はお世話になりましたわ。おかげさまでグラドランナちゃんは完全な姿を取り戻すことが出来ました。これもすべて蒔苗さんのおかげ。もはや私にグラドランナちゃんが自社製という嘘をつく必要もなくなったので、それはそれは修理もスムーズに進みましたわ。心から感謝いたします』
『えへへ、どういたしまして! 前に見た時は壊れてたからわからなかったけど、完全な状態のグラドランナって綺麗だよね~』
『そうでしょうそうでしょう! この力強さの中にも気品を感じさせるデザイン! それに加えてあらゆる状況に対応出来るDMDとしての機能美も兼ね備えているのですわ!』
『あらゆる状況に対応出来る……機能美?』
『そう! あれからわたくし、今までの自分を振り返って反省し、グラドランナちゃんのマニュアルをしっかり読むことにしたのですわ』
『ええっ!? マニュアルも読まずに操縦してたの!?』
『だってぇ……お恥ずかしながら、わたくし本を読むのが苦手ですのよ。それどころか、長文を視界に入れるだけで眠たくなってしまいますわ。ゆえに利用規約なども読まずに同意しますの』
『利用規約も!? って、それは私もザッとスクロールするだけだし同じか……。いや、アイオロス・ゼロもマニュアルを読んだ記憶がないなぁ……。もしかして私たちって似た者同士?』
『うふふ、そうですわね! まあ、アイオロス・ゼロには見たところ内蔵武器の類はありませんし、蒔苗さんには育美さんというマニュアル以上にアイオロス・ゼロのことを知り、導いてくださる方がいらっしゃるから、一概に同じとも言えませんけど』
『確かに私は育美さんに甘えてるからなぁ』
『そこで私も周りの人に甘え、マニュアルを読み聞かせてもらったのですわ! おかげでグラドランナちゃんの真の力を知ることが出来た……! 蒔苗さんにはこの戦いでその力をお見せいたしますわ! 同じ後方支援を役目とする者として!』
育美さんが言っていた『私と同じような理由で工場の防衛につくDMD操者』って蘭のことだったんだ!
お互い見知った相手な分、これは動きやすい!
『うん、頼りにしてるよ蘭!』
グラドランナの頭が縦に強く振られる。
これも自信の表れね!
「蒔苗ちゃん、1番機と2番機もDMDを搭載し終えたわ。そろそろテイク・オフよ」
ドローンのハッチが閉まり、激しく回転するプロペラの音が聞こえてくる。
私たちの機体を乗せたドローンがいよいよ出撃する。
目指すはレベル22ダンジョン『
鳥と夕日と断崖の迷宮だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます