-123- 胎動

『ま、蒔苗さん……! 速すぎますわ……!』


『単独行動は……よくないんだぞ……!』


 グラドランナとディオスが最奥までやって来た。

 私が先行して敵を倒しているとはいえ、なかなかの進攻スピードだ。

 新潟に行っている間にこの2人もかなりレベルアップしているみたいね。


 ただ、今回はこのダンジョンの最奥にたどり着いた段階で目的は達成された。

 申し訳ないけど到着したばかりの2機もすぐに帰らなければならない。

 いくら攻略な容易なダンジョンであっても、目的もなく長居するものじゃないからね。


『ふぅ……。アイオロス・マキナさんと最低限肩を並べて戦うには、グラドランナちゃんの強化も考えないといけませんわね……』


『私も素のディオスじゃ流石にキッツイなぁ。とはいえポラリス・グリントはモエギに返しちゃったし、カスタム機も平隊員の私には手が出ないし……』


 今来たばかりの道を引き返すことになった2人はそんな会話をしている。

 うむむ……新型機を貰った私が割って入れる話題じゃないな……。

 グラドランナとディオスはモエギ製だから、モエギの偉い人に私が頼めば機体を強化してくれるかもしれない。

 でも、アイオロス・マキナという高額DMDを作ってもらったばかりだから言い出しにくい!

 後で育美さんにそれとなく相談しよう……。


『……むっ! センサーに反応が!』


 アイオロス・マキナはセンサーも強化されている。

 敵性脳波感知機能はもちろんのこと、ダンジョン内部では至近距離でしか機能しないとされてきた従来のセンサー類もその性能を上げることで有効範囲の拡大に成功している。

 とはいえ、小型だったり弱かったりするモンスターには案外反応してくれない。

 しっかり反応する相手といえば金属製の大きな体を持ち、高出力のDエナジーで攻撃を行う完全機械体以上の大物!


『潜る時には通らなかったルートに潜んでいたか……!』


 私たちの前に立ちはだかったのはサソリ型の完全機械体。

 凶悪な面構えや大きな2つのハサミも印象的だけど、やっぱり一番目を惹くのは尾の先に付いた鋭い針!

 いや、大型のモンスターだから針というよりはもう槍みたいだ!

 それがこちらを狙っている……!


『蒔苗さん……!』


『大丈夫。ここはこいつの性能を試してみる』


 ここまで使いどころがなかったドラゴン・ヘッドを銃として使う。

 放たれる超高出力かつ超高圧縮のDエナジーは完全機械体にも当然有効なはずだ。


『ドラゴン・ブレス!』


 左腕に装備された竜の口が開き、そこから白熱する光線が発射される!

 思っていたよりも光線は太くない。

 スリムでスマートな光……でも、扱っているエナジー量が多いことは感覚でわかる!

 一瞬で標的であるサソリ型を捉えた光線は、その金属のボディを音もなく溶かして貫いた!

 そして、サソリ型はあっけなく消滅した……。


 対竜種用の兵器とはいえ完全機械体を一撃で……!

 覚醒機械体ならまだしも、もう現段階で完全体に苦戦するようでは困るってわけね。

 それにあれだけのエナジーを放った後でもドラゴン・ヘッドに異常は見られない。

 やたらめったら乱射しなければオーバーヒートも起こさないだろう。


 こんな感じで冷静に戦闘を振り返っていると、グラドランナとディオスがポツンとたたずんでいることに気づいた。

 なんというか……あまりの強さにドン引きしている雰囲気だ!


『……やはりグラドランナちゃんの強化は急務ですわね!』


『私も専用機欲しいなぁ……』


『あ、あはは……! 後で育美さんに相談してみるね!』


「あら? 私にも聞こえてるわよ? 蒔苗ちゃんと一緒に動くなら2人のDMDの強化は確かに必要だと思うわ。すでにいくつかのプランは用意してあるから、機体をマシンベースに戻したらいろいろ相談しましょうね」


 育美さんはいつも先を読んで行動しているなぁ~。

 私はたとえ1人でも敵を倒す覚悟があるけど、それはそれとして頼れる味方の存在には勇気を貰える。

 蘭や葵さんと一緒に深層ダンジョンに挑めれば作戦の成功確率も上がるはずだ。


 アイオロス・マキナの性能はすさまじいものだけど、現状の戦力で満足してはいけない。

 敵であるダンジョンもまた常に進化を続けているんだ。

 もしかしたら、すぐそこに新たな脅威が迫っているかもしれない……。

 そういう危機感を常に頭の片隅に置いておかないといけない。


 でも……今日ばかりはそれも難しそう!

 だって私のアイオロス・マキナが強すぎるんだもの!

 今日、今この瞬間は誰にも負ける気がしないわぁ~!



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 すぐそこに新たな脅威が迫っているかもしれない――。

 それは予感か、偶然か。


 蒔苗はその後も数日かけてアイオロス・マキナの実戦テストを続け、その恐るべき機体スペックを完全に使いこなせるまでになっていた。

 蘭や葵は自らの機体の強化プランを検討しつつ、操者としてのレベルアップを目指し日々活動を続けていた。


 各地のマシンベースでは徐々にヴァイオレット社製の新型装置の導入が進み、防衛や緊急時の戦力として無人機を配備する計画も持ち上がっていた。

 深層ダンジョンの抹消を機に、世界はよりダンジョンへの対抗策を増やす方向に進んでいた。

 もう二度と人命が奪われることがないように……。


 しかし、それに呼応こおうするかのように闇は胎動する。

 その兆候を最初に察知したのは滋賀第二マシンベース。

 レベル100ダンジョン『琵琶湖大迷宮』に設置された敵性脳波感知器から送られてきた脳波……。

 それは再びこの地に竜種の卵が産み落とされたことを意味していた。

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