-74- 蟻の巣抹消作戦Ⅳ〈女王〉

 行く手を塞ぐ蜘蛛の巣を焼き、群がってくる小型の蜘蛛を蹴散らして進む。

 このエリアは完全に蜘蛛の支配下なのか、他のモンスターは出てこない。

 まあ、他のモンスターにとっても蜘蛛の巣は邪魔でしょうしね。


『まもなく目標と接触。私が先行します!』


 私は一足先に問題の大広間に出た。

 その空間の中央には巨大な蜘蛛……!

 そいつは今まさに捕獲したDMDの腹を食い破っているところだった。

 悪い予感は当たってしまった……!

 明らかに女王蜘蛛は機体の胴体に入っている濃縮Dエナジータンクを探している!


 今すぐ攻撃を仕掛けてもいいけど、女王蜘蛛は食事に夢中だ。

 1機分のDエナジーで進化するとは思えないし、今のうちに捕まっているDMDを助けよう!

 私は2丁のシューターを使ってまだ動けそうなDMDに絡みつた糸を焼いていく。

 機体は頑丈だから、少しあぶられたくらいじゃ壊れない。


 ただ、問題はこの部屋のすべての糸が繋がっていたということ。

 1箇所の糸を燃やすとどんどん燃え広がって、フロア全体が炎に包まれる!

 救出という意味では効率が良いけど、ここまで派手にやると女王も気づく!


 女王蜘蛛はエナジータンクを食い終わったDMDの残骸を足で器用に蹴とばし、私向かって糸を噴射してきた!

 混成機械体である女王蜘蛛は体の半分が機械化している。

 こいつの場合は8本の足がすべて機械化しており、それぞれに糸の噴射口が備え付けられている。

 まさに四方八方に糸が出せるというわけだ!


 しかし、重量を制御し360度縦横無尽に動き回れるゼログラビティを捉えるには八方では足りない!

 糸を軽々と回避し、スタビライザーキャノンとDエナジーマシンガンで攻撃を加えていく。

 機械化されていない胴体にはエナジーによる攻撃が良く効く。

 フロアを満たしていた糸もほぼ焼けて、拘束を逃れたDMDたちが退避していく。


 動けない機体もチームのみんなが一旦他の場所に動かし、エサにならないようしてある。

 こうなったら後はこいつを倒すだけでいい!


『フルブラックオーガランス……!』


 炎と雷で女王蜘蛛の目を焼き視界を奪った後、ゼログラビティを高く舞い上がらせる。

 そして槍を真下に構え、重力制御を解除する。

 機体の重みを乗せた一撃が……女王蜘蛛の胴を貫いた!


 思ったよりも重みのある一撃……!

 もしかして機体の重力を軽減するだけじゃなくて、増加させることも出来るのかも……?

 まあ、これは要検証かな。


 とりあえず、女王蜘蛛の排除には成功した。

 これで後は生き残った小型の蜘蛛を狩っていけば巣を見ることもなくなる。

 女王蜘蛛が落とした白い内臓のようなものと糸の噴射口をアイテム・スキャナーで回収していると、救出したDMDが話しかけてきた。


『ありがとうございます……。おかげで助かりました』


『いえ、当然のことをしたまでです。機体の方は大丈夫ですか?』


『ええ、まだ戦えそうです。さっきまでは心が折れそうでしたけど、あなたの戦いを見てもう一度立ち上がる勇気が湧いてきました。まるでかつての迷宮王の戦いを見ているような……。いや、それ以上の力があなたにはある気がしてならない……!』


 ヤタガラスの件でアイオロス・ゼロの知名度が上がったことを実感する。

 この機体を見るだけで誰かに勇気を与えることが出来るんだ。

 それはまさに迷宮王と呼ばれたお爺ちゃんがやっていたこと。

 私にそれ以上の力があるかはわからないけど、少なくともそれ以上のことをやれる能力を与えられて生まれてきた。


『ありがとうございます。多くの人を救うために共に戦いましょう』


『はい! 私たちはここより奥には立ち入れませんが、周辺のモンスターを掃討しあなたたちを追撃させないように頑張ります!』


『お願いします』


 救出したDMDたちと分かれ、マキナ隊は広間を抜けてダンジョンのさらに奥へ向かう。

 ここからは情報がほとんどない。

 何が出て来てもおかしくはないってことね。


「蒔苗ちゃん、立派になったね」


 ふいに育美さんの声が聞こえてきた。


「さっきの人たち、女王蜘蛛に襲われてる時はパニック状態だったのよ。強制的にブレイブ・リンクを切ってまだ動ける機体を捨てようとしている人もいたくらい。でも、蒔苗ちゃんの戦う姿を見たら戦う気力を取り戻したみたいね」


『まあ、私だってあの蜘蛛に食われる映像を見たらパニックになると思いますし、機体がまた動くようになれば戦いに戻ると思いますよ』


「ううん。一度パニックになった人ってそんなに簡単に切り替えられるものじゃないよ。蒔苗ちゃんには人を導く力がある……。やっぱり私の考えは当たってたなって思ったの。作戦中にこんなこと言ってごめんね。でも、伝えておきたかったからさ」


『それはとっても嬉しいんですけど、やっぱり褒められることに慣れてないんでむずがゆくなっちゃいます……!』


「ふふっ、じゃあうんと褒めるのは全部終わった後にするわ。でも、最後に一言だけ。蒔苗ちゃんはいろんな人の遺志を受け継いでここにいるのは確かだけど、だからといってその人の遺志たちのままに動く必要はないからね。蒔苗ちゃんは迷宮王の孫だけど、迷宮王そのものではないんだから」


『……ありがとうございます。私は私ですから、見失ってはいませんよ』


「うん。私も蒔苗ちゃんだけを見てるからね」


 みんなが私のことを話す時、お爺ちゃんを引き合いに出しがちだから、育美さんはそれを気にしてくれているんだ。

 迷宮王といつも比べられてプレッシャーにならないかってね。

 でも、私って案外図太いんだ。

 そんなに気にしたことはないよ、育美さん。


『……やけに静かだなぁ』


 もうダンジョン・レベル30を超えた位置にいるのにモンスターが全然出てこない。

 私は育美さんと会話している間も集中力を切らさないように気をつけていた。

 でも、モンスターの気配すら感じ取れない。

 妨害されないことは良いことだけど、良いことが続きすぎると不安になるのが人間だ。

 この予感もおそらく当たりそうな気がする……。


『また大広間だ』


 さっきの女王蜘蛛がいた空間よりも天井が高い。

 しかも、ここから繋がる道は4つある。

 こりゃ妨害されなくても大変な作業だ……!

 手分けして探すわけにもいかないし、一番広い通路から順に探索を……。


《ピィーーーーーーーーーッ!》


 その時、グラドランナの後ろにくっついているファレノプシス・ユニットがアラートを鳴らし、真上に向けてバズーカを放った!

 あの機体には新技術を利用した実験的なセンサーが積まれていると聞いた。

 つまりは……!


『上だ! 全機散開!』


 4機のDMDが一斉にその場から離れる。

 次の瞬間、私たちがさっきまでいた場所に何かが落ちてきた!


『あれは……DMD!?』


 違うというのはわかっている……!

 でも、そのモンスターは人型で全身に装甲をまとっている。

 特徴的な角からして、モデルはクワガタムシ!

 でも、体は人型に進化している……!


 それだけでは終わらない。

 続けざまに天井から3つの物体が落下。

 合計で4体の人型昆虫モンスターが私たちの行く手を塞いだ……!

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