-38- ウェポンマスター

『すぅ……ふうっ!』


 2本のネオアイアン・エッジソードを振り、2つのバルーンを切り裂く。

 うん、やっぱり軽い軽い!

 オーガランスの時よりも素早く攻撃出来た!


『そこと……そこっ!』


 2本の剣を投げ、高いところに昇っていたバルーンも貫く。

 剣はその後、訓練場上部のバリアに当たって跳ね返り、地面に突き刺さった。

 うんうん! 投げ心地も最高だ!

 剣というよりかは、少し大きめのクナイという認識があってるかも?


『うーん、やっぱり天才女子高生ね蒔苗ちゃんは。いくら軽くて投げやすい形に変えたとはいえ、動く的に剣を投げて当てるのはそう簡単なことじゃないわ』


『うふふっ、そうですか?』


 また褒められちゃった!

 何度味わっても良いものだなぁ~と思っている間に、訓練場には青いバルーンが現れた。

 ということは……。


『次は射撃武器でバルーンを割って……みる前に、3つの射撃モードを試してみましょう。両方のシューターを構えてくれる?』


『了解です』


 腰にマウントしてある2つのシューターを取り外し、構える。

 右手には赤色の炎の銃フレイム・シューター。

 左手には黄色の雷の銃サンダー・シューター。

 色こそ違えど、デザインには統一感があってとってもカッコいい!

 後はこれをカッコよく使いこなせるかどうかだけど……。


『まずは拡散モード!』


 育美さんの合図で引き金を引く。

 それぞれの銃から炎と雷が吐き出された。

 そう、まさに吐き出されるという表現が似合っていて、とりあえず周りにばら撒いてみました感あふれる射撃モードが『拡散』だ。

 射程も短く、威力も大したことないが、とにかく近くの敵に当てやすい。

 見た目だけは派手なので、撤退時の目くらましにもなる案外大事なモードだ。


『よし、正常に作動しているわ。次は集中モード!』


 引き金から一度指を離し、モードを切り替えて再び引く。

 すると、それぞれの銃から炎と雷が一直線に噴射された。

 この『集中』は攻撃範囲を真正面かつ直線に絞ることで、射程と威力を得たモードだ。

 また、集中の名の通り一か所を継続して攻撃するのにも向いていて、エナジーがなくなったり、銃身が焼けつかない限りは継続して炎や雷を噴射出来る。

 狙いがブレても噴射を続けながら修正出来るから、これも比較的当てやすいモードと言える。


『うんうん、問題なし! 最後は圧縮モードよ! 壁に当たると修理が面倒だから、これはバルーンに当てて!』


『……はい!』


 問題がこのモードだ……!

 炎や雷を圧縮して弾丸を作り、それを放つというある意味一番シンプルなモードなのだが、シンプルゆえに銃の扱いに慣れていない私には一番難しい!

 でも、日常生活で銃を撃たない以上、ここで撃ちまくらないと撃つことに慣れる日は来ない!

 やってやるんだ、萌葱蒔苗!


『いけっ!』


 放たれた炎と雷の圧縮弾は……見事バルーンに命中した!

 そして、小規模な爆発を起こした!

 このモード最大の特徴……それは当たった衝撃で圧縮されていたものが解放され、弾丸が爆発すること!

 当然威力は3モード中最大で、射程も最も長い!


『おおっ! 一発で目標に当てられたじゃない! やるわね蒔苗ちゃん!』


『あ、そういえばそうですね』


 初めてここで銃を撃った時は、なかなか狙ったところに飛ばなかった。

 でも、今回は同時に撃った2発の弾丸のどっちもバルーンに命中した。

 運が良かっただけかもしれないけど、私としては今回の銃の方が手に馴染むんだよねぇ。

 なんだか反動も少ない気がするし。


『この調子でどんどんバルーンを撃ってみて。こっちもどんどんバルーンを出すから』


 訓練場の壁の一部が開き、青いバルーンがどんどん流れてくる。

 私はそれを圧縮モードで片っ端から撃っていった。

 うん……! やっぱり前より全然当てられる!


『よし、これくらいにしましょう。これで蒔苗ちゃんはゆっくり動く的くらいなら問題なく当てられるようになったわけね』


『いやぁ~、私もビックリです。こんな短期間で上達するものですかね? あれから銃を撃つ機会なんてありませんでしたけど……』


『ふふっ、それは才能と……アイオロス・ゼロを扱うことに慣れたからかな。体の使い方が上手くなれば、おのずとすべての動作が洗練されてくるものよ』


『なるほど……そういうことですか!』


『そうよ! じゃあ、今回も最後に回避力テストいっとうこうか!』


 回避力テスト……か。

 ドローンの銃撃から3分間逃げ切ればいいだけのシンプルなルールなんだけど、これがなかなか難しいのよね……。

 まるで本物の兵器みたいな機敏な動きをするドローンだし……。


『あ、ルールは少し変えるわよ。今回はドローンに攻撃してもOK!』


『えっ!? でも、壊れちゃうんじゃ……』


『ドローンにはバリア発生装置を仕込んであるの。エナジーの消費量が多くてまだまだ実戦配備は出来ない試作品だけど、訓練にはもってこいよ! 蒔苗ちゃんにはこれから複数のドローンを相手にしてもらうけど、それらはバリアに攻撃を当てることで撃墜出来る。だから、前回みたいにひたすら逃げ回る必要はないわ。敵の攻撃を避けつつ、4機のドローンの全機撃墜を狙ってね!』


『了解しました……えっ?』


 4機のドローン? 全機撃破……?

 それってもう……回避力の訓練じゃないんじゃ……。

 ええい、でも『了解しました』と言ってしまったから、もうドローンが来た!

 こうなったら全機墜としてみせる!


 とはいえ、4機に一斉射撃されると攻撃の隙がない!

 ここはまず大きく動いて、攻撃の回避に専念しよう。

 ドローンに装備されている銃にはペイント弾が入っているけど、これも本物の弾丸と同じように撃った後にはリロードが必要になる。

 そのタイミングを狙って反撃だ!


 ……と、思っていたのだけど、ここで私はあることに気づいた。

 4機もいると、他のドローンのリロードの隙をカバーする奴が必ず出てくる。

 安全に反撃が出来るような完璧な隙は生まれない。

 今求められているのは、攻撃されながらでも反撃する能力……!

 ならば、2機がリロードしている今のタイミングで、回避しながら剣を投げる!


『うおりゃ!』


 投げられた2本のネオアイアン・エッジソード!

 1つは見事ドローンに命中!

 当たったドローンはおとなしく訓練場の外へ帰っていった。

 しかし、もう1つは外してしまった!

 やっぱり、私と標的の両方が動いている状態では狙いもブレてしまう!


 とはいえ、1機減らせたのは大きい。

 ここからは2丁のシューターで仕留める!


『集中モードで……発射!』


 空飛ぶドローンに拡散モードでは射程が足りない。

 一直線に炎と雷が噴き出る集中モードでなら……と思ったけど、いくら銃を振り回してもカスりもしない!

 ならば残るは圧縮モード……!

 弾丸として炎と雷を撃ち出すから、その速度は非常に速い。

 すばしっこいドローンだって簡単には回避は出来ないだろう。

 ちゃんと狙えればの話だけど……。


『圧縮モード! いけえっ!』


 やっぱり弾丸のスピードが段違い!

 ドローンの回避もギリギリで、あとちょっとのところでバリアに当たるところだった。

 でも、そのちょっとがなかなか詰められない。

 動きを予測して撃っても、勘で撃っても、あと少し外れてしまう。

 狙いは悪くないのにどうして……。


『そうか……動いているからか!』


 さっき剣を投げた時と同じだ。

 標的であるドローンとアイオロス・ゼロの両方が動き回ってるから当てにくいんだ。

 でも、ドローンは『止まって』と言っても絶対に止まってくれない。

 止まるべきなのは……私だ!


『ほんの一瞬……撃つ瞬間だけ止まれば……!』


 2つのシューターが、2つの弾丸を放つ。

 その2つの弾丸は、2機のドローンのど真ん中に命中した!


『やった! これで残りは1機!』


 こうなったら後はこっちのもんだ!

 素早い動きの邪魔になるからと、地面に突き刺しておいたオーガランスを引き抜き、ドローンに突撃する!

 そして真下に潜り込んで、一気にオーガランスを真上に突き上げた!

 パリンッっと小気味よい音を立ててバリアが割れ、槍の先端がドローンを貫く!


『やりました! 私の勝ちです! ……ああっ!?』


 ドローン……1機壊しちゃった!!

 こんな高性能なドローン……絶対高いよね……。

 私が1人絶望していると、管制塔の方から拍手が聞こえてきた。


『お見事蒔苗ちゃん! 自分でも力の片鱗を少し感じ取れたんじゃない?』


『ええ、まあ……』


『あ、壊れたドローンは気にしなくていいからね。それくらいなら簡単に直るし、弁償する必要もまったくないわ。試作品にはどうやって壊されたかという経験も大事なのよ』


『あ、ありがとうございます……! 助かります!』


『じゃあ、部屋までみんなで迎えに行くから、蒔苗ちゃんはアイオロス・ゼロをドックに戻して待機ね』


『了解です!』


 ああっ、助かった……!

 テンション上がって物を壊すなんて、人としていけない。

 でも、相変わらずオーガランスはすごい貫通力!

 ネオアイアン・エッジソードはもちろん、シューターの圧縮弾を受けても割れなかったバリアを一撃で割ってしまった。

 今回は新しい武器ばかり目立つことになったけど、オーガランスにはこれからも頑張って貰わないとね。


『一緒に戦おう……私の武器たち』


 そうつぶやきながら、私は出撃ハッチへと戻っていった。

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