-22- 黄堂重工の誇り

 回収班が現場に現れたのは、さらに20分後のことだった。

 流石に退屈し始めていた私のもとに、3機のDMDが接近してくる。

 どの機体も破壊されたDMDたちと同じく下半身が戦車みたいなキャタピラになっている。

 3機のうち2機は同一機種で、アイオロス・ゼロより背は高くないけど、横には太いずんぐりむっくりなDMDだ。

 そして、もう1機は縦方向も含めてアイオロス・ゼロより大型のDMDで、そのお尻には破損DMDを乗せるであろう台車が連結されている。


『おまたせしたっす! あたしは黄堂重工DMD運用部の桧山ひやまと申すものっす! この度はうちのお嬢のわがままを聴いていただきありがとうございやす! 後はあたしらでなんとかするんで、ご安心を!』


 大型のDMDからほがらかな女性の声が響く。

 私も回収班が無事ここにたどり着けて一安心な一方で、目の前のDMDを見ていると……不安になってくる。

 この3機、明らかに旧世代の機体に見える……!


『あのぉ、つかぬことをお伺いしますが、桧山さんたちの機体って普段から運用されているものなんですか?』


『あはは……流石は萌葱家の人だ。やっぱり見ただけでバレてしまうっすね』


 これは誰にでもわかるよ!

 ……という言葉を飲み込んで、次の言葉を待つ。


『お察しの通り、あたしらのDMDは旧式っす。整備は一応してるんすけど、普段から運用してるものではないっす。DMDに関わる企業なら、お抱えのDMD部隊みたいなのを持ってるのが普通になってやすが、うちは急に伸びてきたんで、そこんところまだまだなんすよ。あと、社長がケチ……いやいや、基本的に作ったものはお客様に売りたいという崇高な精神をお持ちですんで、自社のためにわざわざDMDを製造してないんすよ』


『でも、DMDを開発するには試作とか試験用の機体も必要ですし……あっ!』


『大正解っす。この機体は試作機なんすよ。しかも結局ボツになったキャリーバってDMDの試作機っす……。倉庫に眠ってたのを一部社員が練習がてらに整備してたんで、引っ張り出してここまで来やした』


『それはまた無茶な……』


『返す言葉もないっす……。隣の2機は今のうちの主力DMDグラドーラーの1世代前のグレックって機体の試作機で、実際に売られた機体に比べて若干高性能に作られてるから、まだマシなんすけどね』


『じゃあ、あっちの7機も試作機ということですか?』


『いえ、あれは今言った主力DMDグラドーラーを生産する過程で出た質の悪いパーツを集めて作ったレッカー・グラドーラーっす。あっ! 質の悪いって言っても、完全にダメなパーツは使ってないっすからね! 惜しくも社内の基準にみたなかった、そういうギリギリなのを使ってやす! 性能も言うほど通常のものと差がないっす! 決して劣化ではないっす!』


『は、はあ……』


『それとお嬢が使ってるグラドランナだけは本当の高性能機っす! 社長はお嬢のことが大好きっすから、それはもぉ~大事にしてるっす! あたしら回収班も一緒に戦う戦闘班も全員女性を選んで男を寄せ付けないくらい過保護っす! ゆえにグラドランナだけは他社の最新鋭機にも劣らない性能を有してるっす!』


『それはすごい……! 社長さんの愛が作り出した黄堂重工最強のDMDなんですね』


『まあ、実はその、他社と協力して作った機体なんすよねぇ……グラドランナは。しかも、なんの縁かモエギ・コンツェルンと……。あっ、この話はお嬢に内緒っすよ! お嬢はなにも知らないし、本気を出せばグラドランナくらいの機体をうちの会社だけで作れると信じてるんす! でも本当は7割くらいモエギの血が入ってるんす!』


『ど、どうして、そんな嘘をついたんですか?』


『それは聞くも涙、語るも涙! 子を想う親の愛のストーリーっす! というのも、元々お嬢にはDMD操者としての適性があったっす。だから、うちのDMDを操縦した場合、機体の反応を鈍く感じる可能性があったんす』


 黄堂重工製DMDの強みは、適性がない人でも操縦出来ること。

 逆に適性がある人にとっては、鈍い機体に思えるってことか……。


『DMD事業が当たって、これからDMDで娘に良いもんを食わせていこうって時に、鈍い機体なんて与えたらDMDそのものが嫌いになってしまうかもしれない……。社長は出来る限り高性能な機体を自社で作ろうとしたっすが、そんなことはすぐに無理だとわかったんす。だから、社長はお嬢のために頭を下げて、モエギに共同開発を依頼したっす。そうして完成したのがグラドランナっす。その出来栄えに、あたしらはただただ感服するしかなかったっす』


『そんな理由があったんですね。子を想う親の愛……か』


『社長は誇りを持って自社のDMDを売り出してるんで、自分の娘にはそれを与えられないことに悩んでた時期もあったっす。でも、モエギの技術を肌で感じて、むしろ吹っ切れたみたいっす。こんなすげぇ機体はそうたくさんの人間には使えねぇ。だから、うちはこれまで通りたくさんの人間に使える機体を作るんだって』


『素敵だと思います、その考え方。確かに技術的なことを言えば、グラドランナは純粋な黄堂重工のDMDではないかもしれませんけど、社長の愛がなければ生まれなかった機体と考えれば、それはやっぱり黄堂重工のDMDなんじゃないかなって、私は思います。こんなこと萌葱の直系の人間が言うのは、おかしいかもしれませんけど』


『いえいえ、むしろ嬉しいっす! モエギの人たちには感謝しかないっすから! DMDを作り始めたばかりの企業の社長から、一緒に娘のためのDMDを作ってくれなんて依頼を持ち込まれて、快く応じてくれるなんて懐が広すぎっす! 冷静に考えたらとんでもないわがままっす! 血は争えないというか、似た者親子なんすねぇ~。あっ、今のセリフもお嬢には内緒でお願いするっすよ……!』


『ふふっ、わかりました。さて、早く大事なDMDたちをマシンベースに連れて帰ってあげないといけませんね。私も作業を手伝います。最後まで見届けたいですから』


『それは助かるっす! 正直あたしら、操縦に不安しかないっすから!』


 みんなで協力して壊れたDMDたちをキャリーバが引っ張る台車に載せていく。

 自分たちには触れることも畏れ多いと言われたので、グラドランナは私が持ち上げて載せた。

 黄堂の名の通り黄色をベースにしたその機体には、巨大なキャノン砲などの火器が無数に搭載されていた。


 桧山さんは7割モエギの血って言ってたけれど、アイオロス・ゼロの設計思想を見た感じ、モエギ側はDMDにこれほどの武装を積み込もうなんて考えないと思う。

 やはり、この機体は黄堂重工のDMDだ。

 技術はそんなに入っていなくても、たくさんの想いが入ってるから。

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