-133- 第二次琵琶湖決戦Ⅲ〈疾駆〉

 当面の目標は先行部隊がいるレベル40……。

 いや、今はさらに進んでレベル50付近!

 まずはそこまで一気に駆け抜けよう!


 道中で出会う部隊はどこも苦戦を強いられていたけど、誰も心は折れていない。

 駆けつけた私たちと共にひるむことなく戦ってくれる!


『皆さんお強いですね、育美さん。もしかしたら私が焦らなくてもみんなの力で戦況を押し返すことが出来たかもしれません』


「それは違うわ、蒔苗ちゃん。苦しい状況の中でみんなが奮い立っているのは蒔苗ちゃんが来たからよ。少し前までは弱気な言葉がいろんな部隊から出ていて、私も釣られて弱気になりかけてた。でも、蒔苗ちゃんが出撃してからはみんな戦う気力を取り戻してる。やっぱり蒔苗ちゃんには人を導く力があるのよ」


 私には人を導く力がある。

 いろんな人から何度も言われた言葉だ。

 自覚はいつだってなかったけど、私がいるだけでみんなの力になれるなら、自覚がなくたって受け入れようじゃない!


『みんなありがとう! ここは任せます!』


 いくつもの戦場を駆け抜け、ダンジョンの奥深くへと進攻するマキナ隊。

 完全に戦いを避けられてるわけじゃないけど、高火力武器のおかげで戦闘が長引くことはないし、今のところ重大なアクシデントは起きていない。

 順調……そう言っても問題はないくらいに。


「もうじき折り返し地点のレベル50ね。先行部隊は健在でルート確保のための戦線を維持しているわ。蒔苗ちゃんたちは戦いを彼らに任せて一旦リラックスしましょう。この先まだ50レベル分のダンジョンが残っているし、ずっと神経を張り詰めていたら脳がもたないからね」


 レベル50付近ともなれば出現するモンスターも相当に強い。

 しかし、戦うDMDたちの強さはそれを上回っている!

 ただの量産機ではなく操者に合わせた改造が施されたカスタム機が個性的な動きで暴れ回っているんだ!


『蒔苗様! 志なかばで散った大樹郎様の想いをどうか……!』

『ここは我らにお任せを!』

『ちゃんとボーナス分は働かせていただきますよお嬢様』


 戦いの片手間に一言二言語りかけてくる彼らは明らかに今までの操者と練度が違う!

 これがDMD業界ナンバーワンのモエギ・コンツェルンが抱える戦力『グリームス』!

 彼らに守られている今この瞬間はこのダンジョンに入ってから一番心が落ち着く瞬間だ。


『百華さんもお気をつけて!』

『蒔苗様を任せましたよ』

闇を照らす者イルミネーターに恥じぬ戦いを頼むぜ!』


 同僚である百華さんにも応援の言葉が送られる。

 そのたびに百華さんが恐縮そうに肩をすくめているのがDMD越しにもわかった。


『紅花様、藍花様、万歳!』

『ああ……これより先へお供出来ないわたくしをお許しください……!』

『我が社の誇りアンサーは今日も美しい……』


 ヴァイオレット社の人は言動が特徴的だからすぐわかる。

 でも変わってるのは言動だけで、戦闘に関してはモエギの人とも連携出来ているみたい。

 彼らがここから先もずっとついて来てくれるなら本当に心強いんだけど、残念ながらレベル60以上に立ち入れるのはマキナ隊のみ。


 それが私に人を導く力があると言われる理由の1つでもある。

 元々ブレイブ・レベルが高かったヴァイオレット姉妹や百華さんはまだしも、並よりはマシ程度だった蘭と葵さんまで短期間でブレイブ・レベルが上昇しているのは、私と戦いを共にしたからだと言われているんだ。


 私としてはただ一緒に戦うんじゃなくて、お互いのことを理解し支え合う心が大事だと思ってるんだけどね。

 後は単純に性格的な相性かな。

 どうしても噛み合わない人ってのもいるだろうし、そういう人とは高め合うことは出来ないと思う。


「もうすぐレベル60地点よ。そこから先は他の部隊の支援を受けられない領域……。みんな心の準備は出来ている? 特に蘭、葵、百華の3人は大丈夫?」


『ノブレス・オブリージュ……。他の者より優れた力を与えられた私が果たすべき役目……。そして、これは本物のお嬢様に至るための試練……! 望むところですわ!』


『対迷宮部隊の見習いから平隊員になった後、いきなりマキナ隊に配属なんてステップアップをした私にはもはや心の準備なんて必要ないのさ。目の前の現実から逃げないて立ち向かうだけ!』


『モエギ・マシニクルに拾っていただいた時から、この身を捧げる覚悟は出来ています。でも蒔苗様の命令ですから命までは捧げません。犠牲者を出すことなく作戦を遂行します!』


 他の部隊の支援がなくても、みんながいれば大丈夫。

 マキナ隊はレベル60地点を超えても止まらない!

 しかし未知の領域に足を踏み入れた瞬間、私は妙なものを感じた。


『なんだろう、この圧迫感……。いや、威圧感の方が近いか……』


 この地下世界の奥深くから感じる圧倒的なプレッシャー。

 原因は間違いなく竜種……!

 もう奴は目覚めているのかもしれない。

 でも、場所は未だ変わらずダンジョンコアがある最奥だ。


 他のモンスターを捕食するなら動き回るはずだし、まだ奴は生まれたばかりなのかもしれない。

 出来る限り迅速に最奥を目指そう。

 この威圧感のおかげでなんとなく最奥までのルートもわかる。

 でも私以外はあまり威圧感を感じていないようなので、進むべきルートを先頭の葵さんに伝えながら進む。


 もしかしたら、竜種も私のことを脅威だと思っているのかも。

 この威圧感は威嚇だ……。

 それこそ犬が吠えるのと同じ。

 おかげで敵の位置が把握出来ている。

 脳波を抑えて隠れるのに専念されていたら、最奥に至るまでのルートを探すのにもっと時間がかかっていた。

 弱い犬ほどよく吠えるという言葉の通り、敵が弱い竜だといいんだけど……。


『マキナ、空間が少し狭くなってきてるよ。どちらかと言うと今までが広すぎたんだけどね』


 藍花の言う通り、広大な地下世界というよりはだだっ広い洞窟といえるくらいまで空間が狭くなってきている。

 これはダンジョンの壁が動いてこちらに迫って来ているというわけではなく、単純にこのダンジョンジョンが先細りの構造になっているんだと思う。


『広いフィールドがウリの大作RPGでも後半のダンジョンは一本道だったりするからな。もしかしたら、このダンジョンもそんな感じだったりして』


 葵さんが冗談めいてつぶやく。

 狭いダンジョンの方が敵が来る方向を絞れるから有利だ。

 でも、タンブルシードが通れないほど狭くなったら流石に困るな……。

 なんてことを考えている間に、マキナ隊は今までにない地形に足を踏み入れていた。


『ちょっと……足元以外水だらけなんだけど!』


 水族館にあるトンネル型水槽のように、通路以外のすべてが水で覆われている空間だ!

 水の透明度は妙に高くて、その中を泳いでいるモンスターたちがよく見える……!

 分厚いガラスで守られている水槽でもちょっと怖いのに、ここには私たちと水をへだてるガラスの壁なんてものはない!


『全機加速! ここはとにかく抜けてしまうに限る!』


 足元以外のすべてから奇襲が成立する場所に長居は無用!

 特に的が大きいタンブルシードにとってはね!


『蒔苗様、正面からも甲殻類がたくさん来てます!』


『前衛の3人は正面突破! とにかく進路を確保して! 紅花と藍花は水中からの奇襲に備えて! ここは温存するべきところじゃないわ!』


 私も惜しまずバリアを展開する。

 さっきから水から水へ矢のように飛び回ってる口が長い外来種の魚が目立つ。

 確かアリゲーター・ガーとか言ったかな。

 あの鋭いくちばしが装甲に刺さったら面倒なことになりそうだ。


 さっきのカエル型といい、1つのことに特化した兵器のようなモンスターが増えている。

 生物の形をしているけど本質は砲台であり砲弾そのものでもある。

 ダンジョンを守るために最適化した結果がこれということか……!


 それにしてもこの水のトンネル……長い!

 流石に水族館でもこんなに長いと飽きるぞ!

 バリアにバチバチ攻撃が当たり続けている……!


『あっ! 見えたぞトンネルの終わりが! あの向こうには水が流れてない!』


 葵さんのアイオロス・フルアーマーがトンネルの終わりに向けて突撃する。


『葵さん止まって!』


『えっ……!?』


 びっくりして振り返ったフルアーマーの前に落ちてきたのは巨大な機械のナマズだった。

 こいつがウワサの完全機械体か!

 なかなか出会わないなと思ってたけど、トンネルの出口で待ち伏せとは悪趣味な……。


『……ん? データベースに該当なし?』


 こいつ、ウワサの『インダストリアルキャットフィッシュ』じゃないの?

 アイオロス・マキナのデータバンクは類似点はあれど完全機械体インダストリアルキャットフィッシュとは違うモンスターだと言っている。


『なるほど、進化してしまったってわけね』


 よく見ると体表にDエナジー特有の青い光が見られる。

 濃縮Dエナジーを多く摂取した結果生まれるのが覚醒機械体。

 おそらくこいつは浅い場所でDMDを食らった後、水の中を移動しここへ先回りして来たんだろう。

 ダンジョンを流れる水はいろんなところと繋がっているみたいだし。


 さて、覚醒体ともなると一撃で撃破というわけにもいかない。

 多少は時間のロスを覚悟しなければ……。


『蒔苗たちは先に行って! こいつは私たちが倒す……!』


 アイオロス・フルアーマーがスティンガーランスから爆裂Dエナジーの針を連射し、ナマズの装甲を引きはがす。

 そして、装甲がはがれた部位にグラドランナ・アンドファレナが固形化されたDエナジー弾を撃ち込んでいく。

 アイオロス・ゼロツーはロゼオ・ジャイアント・ガトリングを撃ち鳴らし、群がってくるナマズ以外の敵を蹴散らしていく。


『わたくしたちには……ここが限界ですわ』


『このトンネルの終点がレベル70地点。いや、それを少し越えた場所みたいです。私たちも戦いの中で成長していますが、ここから先は蒔苗様、紅花様、藍花様にお任せするしかありません』


 もうすでにレベル70地点を越えていた……!

 前衛の3人は限界を超えた力でここまでついて来てくれたんだ。


『うん、後は私たちに任せて! 必ずこのダンジョンを抹消して見せるから!』


 戦い続ける3人を残して、私たちは水のトンネルを抜ける。

 このダンジョンも残り3割ほど……。

 振り返ることなく一気に駆け抜けるのみ!

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