-46- ブラッドプラント防衛作戦Ⅱ〈反撃〉

『今度はちっさいのがたくさん来ましたわ!』


 体長1メートルくらいの小さな鳥型モンスターたちがこちらに向かって走ってくる!

 機体のデータベースはそれらを『ビームドードー』と判断した。

 確かにその姿は絶滅した飛べない鳥ドードーに似ている気がする。

 でも、ビーム要素はどこに……。


《キュィィィィィーーーーーーッ!》


 ドードーのくちばしの中から光り輝く銃口が飛び出す!

 ああ、ビーム要素はそこにあるのね!

 口から放たれたビームを盾で受け止めつつ、反撃にサンダーシューターから雷を放つ!

 圧縮モードの威力なら一撃で倒すことが出来る。


『オホホッ! ビームはビームでも圧縮がまるで足りていない見てくれだけのビームですわね! これではグラドランナちゃんのサファイア・シールドは破れませんわ!』


 グラドランナは片腕で盾を展開しつつ、空いた方の手で反撃に移る。


『ルビー・ショット!』


 本物のルビーのように赤く輝くDエナジーの粒が連射され、次々とドードーたちを撃ち抜いていく!

 ジュエリーボックスは両手でそれぞれ別の形のDエナジーを扱うことも出来るみたい。

 上手く使い分けることさえ出来れば、まさに万能武器ってわけね!


『す、すごい……! ビームドードーをこんなにあっさりと……! こいつらは局部機械体きょくぶきかいたいだから混成体に比べて機械化されている部分が少ない。だから戦闘能力も相応に低いとはいえ、まず機械体の時点で他のモンスターよりは強いのに……!』


『そもそも、なんでこんなに機械体のモンスターが出てくるんだ! 特に混成体なんてこのレベルのダンジョンに出てくるもんじゃない! 大量発生のせいだとしても、1体出てくれば珍しい方のはずだ……!』


『本来ならば混成体1体を相手するのにDMD小隊が1つ必要とされている。確実に仕留めるなら2小隊必要という者もいるくらいだ。それに対して今回の救援部隊は約5小隊と聞いている。評判の良い首都第七対迷宮部隊が出ているとはいえ、コアから遠い工場付近でこの遭遇率……! 他の小隊は戦えているのだろうか……』


 防衛部隊のDMDたちは不安そうにうつむいている。

 なんとか励ましたいけど、あんまり安っぽい言葉は逆効果だと思う。

 ここは行動で示すべきだ。


『私たちは私たちに出来ることをしましょう。今はとにかく工場へ急ぎます!』


 真っ先に敵を退け、率先して前を進む!

 彼らが機械化した凶悪なモンスターを恐れていることはわかる。

 ならば、それを倒すのがアイオロス・ゼロの役目だ!


『……行くぞみんな。動く機体があるのに工場の防衛を他人に任せてるようでは、今日の午後には無職だ』


『それもそうですね……。機体が壊れたって死ぬわけじゃあない。限界まで戦ってやるさ!』


『まあ本当に壊すと査定に響くのが雇われDMD操者の辛いところなんだがな……』


『いや、でも今回は緊急時だし見逃してもらえるかもしれん……!』


 防衛部隊のDMDたちは顔を上げ、再び前進する。

 その背中を押すように蘭が最後尾につき、その手を引っ張るように私が先頭に立つ。

 この陣形に隙はなし……!

 ほどなくして私たちは工場のゲート前まで戻ってきた!


『すごい……! 本当に戻ってこられた!』


『ご令嬢2人のおかげだ! ありがとうございます!』


『さあ、工場の中へ入るぞ!』


 防衛部隊のDMDが工場の防壁と通信を行う。

 ダンジョン内ではあらゆる通信技術が機能しなくなってしまうが、流石に目と鼻の先になるものとなら繋がることが出来る。


『……よし、工場のシステムと繋がった。蒔苗さん、蘭さん、なにからなにから申し訳ありませんが、周囲の警戒をお願いします』


『了解しました』


 バリアが部分解除され、ゲートも開放される。

 防衛部隊のDMDたちは素早く工場内へと滑り込み、続いてグラドランナが入る。

 アイオロス・ゼロは機体のエナジーもそんなに減ってないし損傷もないけど、一度落ち着いた状態で育美さんと連絡を取って全体の状況を確かめたい。

 なので最後に私が工場内へ入った後、バリアとゲートは閉じられた。


『簡易ドックはこちらにあります。一応エナジーは満タンにしといた方がいざという時後悔しないと思いますよ。補給はオートでやってくれますから数秒待つだけです』


『わかりました。私もエナジーを補給しておきます』


 簡易ドックに機体を預ける。

 後は勝手に満タンになるまでエナジーを補給してくれるみたいだ。

 その間に、育美さんに全体の状況を尋ねる。


『蒔苗ちゃんはここまで完璧に任務をこなしているけど、全体としては苦戦してると言わざるを得ないわ。ダミーコアの発見および破壊が目的の有志部隊はダンジョン全体の5分の1程度しか探査出来ていないし、コア方面に展開している対迷宮部隊も何機か完全に破壊された機体が出ている状況よ』


『そう……ですか。私たちはこの後どちらかに合流した方がいいんでしょうか?』


『……いや、工場の防衛という任務は変わらないわ。バリアは無敵に見えるけど、短時間に連続して強い攻撃を受けると、キャパシティを超過して割れてしまう可能性があるの。だから、複数のモンスターが工場に集まっているという状況はどうしても避けたい……。それに増援部隊がもうすでに出撃準備に入っているわ。蒔苗ちゃんたちは工場の周りのモンスターを減らして、増援部隊がスムーズにバリアから出られる状況を作ってほしいの。増援部隊にはベータ部隊みたいな防御自慢のDMD小隊はいないからね』


『わかりました。では、引き続き工場周辺のモンスターを討伐します』


『お願いね蒔苗ちゃん。正直、今回の大量発生は普段のものとは違う……。蒔苗ちゃんが連続して新種に出会うみたいな異常事態も、このダンジョンが水面下で活性化していたことが原因だったのかもしれないわ。でも、この大量発生を抑えれば周辺のダンジョンもまとめて沈静化するはず! いつも任せてばかりで申し訳ないけど頑張って!』


『はい! どーんと任せてください!』


 他の機体の修理にはまだ時間がかかりそうだけど、私の補給は終わった!

 ドックから先に出て、バリアの向こうの状況を確認しておこう。


『……こりゃちょっとヤバいかもなぁ』


 四方八方からバリアを攻撃する鳥! 鳥! 鳥!

 協調性がないからみんな別方向から攻撃しているのが救いね。

 この数に同じ場所を攻撃されたら、確かにバリアも割れちゃうかも……。


『蒔苗さん、我々の機体の修理もあと少しで……うわっ!? なんだこの数は……!?』


 修理を終えて出てきた松浦さんのDMDがバリアに群がるモンスターを見てワッと驚く。

 まるで芸人のようなリアクションからもその驚きの強さが感じられる。


『我々……もう一度バリアの外に出られるんでしょうかね? いや、なんとしても出なければなりませんが……』


『安心してください。私が単独でバリアの外に出て敵を引き付けます。その後、グラドランナを軸に他のゲートからタイミングを見計らって外に出てください』


『りょ、了解しました。本当になにからなにまですいません……』


『いえ、これがアイオロス・ゼロの役目ですから』


 しばらくして簡単な修理を終えたDMDたちがドックから出てきた。

 腕ならば腕、脚ならば脚と壊れたパーツをブロックごとに切り離し、そこへ新しいパーツを装着する形で修理が行われたからか、汚れている部分と新品の部分の差がハッキリしている。

 しかし、中には腕が欠けたままの機体もあった。


『この機体は接続部分から歪んじゃってましてね……。新しいパーツが刺し込めなかったんですよ。でも、武器とエナジーの補給はしましたから、それなりに戦えるはずです。腕が一本なくたって、撃つ弾丸の威力は変わらないってね』


 そのDMDはそう言って手に持ったDエナジー・ライフルを掲げた。

 みんなその言葉にうなずき、再出撃に向けて動き出す。


『ゲートを開けてください。バリアの向こうに敵がいないことを確認次第、私が出ます!』


 ゲートが開き、その向こうがあらわになる。

 うん、正面にモンスターは1体も見当たらない。

 他のところでバリアにぶつかっているモンスターたちはこちらに見向きもしていない。

 出るならこのタイミングだ!


『出ます! バリアを解除してください!』


『了解! 御武運を!』


 バリアが部分解除され、アイオロス・ゼロが工場の外へおどり出る!

 その瞬間、ゲートの死角に隠れていた巨大な口を持つペリカンみたいなモンスターが大きく口を開け、アイオロス・ゼロを丸のみにしようとしてきた!


 まさかの待ち伏せ……!

 こいつはDMDがどこから出入りするのか学習してたってことね……!

 これは一本取られた……。


『うおりゃっ!!』


 あえて口の中に入り、そのままオーガランスで内部を貫く!

 作戦はそっちの勝ちでも、勝負は私の勝ち!


『無事出られた!』


 さて、ここから敵を引き付けないといけない。

 ペリカンの落としたアイテムを回収しつつ、フレイム・シューターを拡散モードでスタンバイ。

 それを天に向かって掲げ、目立つように炎を広範囲にまき散らす!


『私はここにいるぞ~!』


 炎に釣られたモンスターたちがアイオロス・ゼロに殺到する。

 よし、引き付け作戦は成功!

 後はとにかく倒して数を減らすべし!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る