-45- ブラッドプラント防衛作戦Ⅰ〈合流〉

『育美さん、残存部隊の状況と位置を教えてください!』


 ダンジョン内では当然レーダーなんかも機能しない。

 味方の位置を知るにはDMDの目であるカメラで視認するか、地上で各DMD操者の声を聞くことが出来るオペレーターに尋ねるしかない。


「残存部隊のオペレーターの話だと現在残っているDMDは4機。どの機体も損傷が酷くて、全滅するのも時間の問題だわ。位置は工場の南西だから蒔苗ちゃんがバリアから出た位置に近いはず。でも、今もモンスター交戦中とのことで移動してしまってる可能性もあるわ」


『了解しました。とりあえず周囲を探索してみます』


 とは言ったものの、怪鳥峡谷の地形はとっても険しい……。

 峡谷の所以ゆえんたる深い谷以外にも、ごつごつとした岩山がそこかしこにあって視界は悪い。

 DMDは人間と変わらない大きさだから、広い場所を目だけで探すとなると結構大変だ。


『蒔苗さん、あの岩山に登ってモンスターが集まっている場所を探しましょう! お魚の群れに鳥が集まるように、鳥型モンスターもまた敵のいる場所に集まっているでしょうから』


『なるほど! それは名案ね!』


 近くにある岩山に登り、ダンジョン内部を見渡す。

 ここは広いとはいえ無限ではないし、地球のように丸くもない。

 見えている地平線はそのままこのダンジョンの果てだ。

 その果ての一点には赤く輝く太陽のような塊がある。

 あれがここのダンジョンコアだ。


 ダンジョンの内壁にめり込むような形で存在し、常にダンジョンを赤く照らしている。

 丸見えだから壊すとなると他愛もないけど、壊してしまえばダンジョンは消滅する。

 だから、工場を守るという目的を果たせなくなってしまう。

 私たちはダンジョンコアを壊すことなく、とにかくモンスターの数を減らさないといけない。


『蒔苗さん、なにか見えましたか?』


『うーん、特に鳥が群がっているようなところは……あっ!』


『見つけましたか!?』


『いや、鳥の群れは見えないけど、とっても首が長い鳥……ダチョウみたいなのが暴れてる! 周りでは閃光もちらちら見えてるし、きっとあれよ!』


『行ってみましょう!』


 アイオロス・ゼロならば荒れ地もなんのその!

 障害物をひょいひょい跳び越えて、一直線に現場に向かう!

 グラドランナもキャタピラとスラスターを上手く使い分け、荒れた大地をぐんぐん進む。

 モエギの血が入っているだけあって思った以上の機動力だ。

 特にスラスターの出力はアイオロス・ゼロ以上に見える。

 重そうな機体を数秒間浮かすことが出来るのだから!


『でっかいダチョウですわね! しかも、このモンスターも体の半分くらいが機械!』


『名前はハードネック。新種ではないけど、こいつも混成機械体こんせいきかいたい?』


 無防備に見える長い首は完全に鋼鉄で覆われ、巨体を支えるには細すぎるように見える脚もまた機械化されている。

 そしてなにより……大きい!

 10メートルは軽く超えている気がする!


『蒔苗さん! こいつ口になにかくわえておりますわよ!?』


『えっ!? あれは……DMD!?』


 くちばしでDMDを咥えて、丸のみにしようとしているの!?

 機械の体を持つモンスターにはDMDが栄養になるのかな……なんて考えている場合じゃない!

 早く助けないと!


『その首もらったぁ!』


 ネオアイアン・エッジソードで鋼鉄の首に切りかかる!

 首が切れれば飲み込むことは出来まい……と思ったけど、刃はまったく通らず逆に弾き飛ばされてしまった!


『ぐうぅ……! 見てくれだけじゃないってことか……! 蘭! 次は足を狙って!』


『了解ですわ!』


 脚も機械化されてるから切れないかもしれない。

 でも、攻撃の衝撃で動かすことさえ出来れば、この巨体を転ばすことも可能かも……!


『開けジュエリーボックス!』


 グラドランナの両腕にある長細い六角形の装甲が少しせり上がり、その隙間から黄色いDエナジーがあふれ出す。

 それは次第に収束し、両刃の剣の形で安定した。


『トパーズ・ソード! 高出力のDエナジーで作られた刃は鋼鉄をも切り裂く!』


 グラドランナは両手を広げ、刃を目いっぱい伸ばすと、そのままダチョウの股下を通過し両脚を同時に切り裂いた!

 すごい……! 本当に一撃で切断している……!

 これがDエナジーをそのまま攻撃に転用した武器の威力!


『蒔苗さん! トドメを!』


『よしっ!』


 脚を切られたダチョウは地面に倒れ込み、その衝撃で飲み込みかけていたDMDを吐き出す。

 それを確認した後、オーガランスで頭部を貫く!

 首を機械化して頭はそのままなんて変なモンスターだけど、1人じゃ苦戦していたと思う。

 さっきのアームドホークだって対応が遅れればいきなり部隊に犠牲者を出していただろうし、大量発生ってこんな過酷な戦いなのね……!


『またまたお手柄ですわね蒔苗さん!』


『ありがとう。でも、これは蘭の功績よ。すごいわね、その剣』


『ふふっ、そうでしょうそうでしょう? このジュエリーボックスは高度なDエナジー制御技術によって複数のDエナジー武器を使い分けることが出来るのですわ! トパーズ・ソード以外の武器も今ここでお見せしたところなのですが、あいにくこれは機体に内蔵された武器……。エネルギー源も当然機体のDエナジーですから、あまり使いすぎるとグラドランナちゃんが動けなくなってしまいますの』


『ハイリスクハイリターンってやつね。でも、カッコいいなぁ~。私は普通の武器が好みだけど、今の威力を見たら1つくらいDエナジー武器を持っておいてもいいかもなぁ~』


 シュィィィンと音を立てて伸びる光の剣というのは、やっぱりロボットに似合う気がする。

 あまりロボットアニメとか見ない私でもそう思うのだから間違いない!


『あの……助けていただいてありがとうございます』


 ダチョウに飲まれかけていたDMDが立ち上がった。

 左腕が無く、ところどころ装甲も砕けているけどまだ動作に問題はなさそうだ。


『私は工場防衛部隊の松浦と申します。あなたたちは救援部隊の方ですね』


『はい、そうです。私は萌葱蒔苗と申します』


『わたくしは黄堂蘭。そしてこの機体はグラドランナちゃんですわ!』


『萌葱に黄堂……!? これはまた、なんと言いますか……すごい方が来てくださった』


『聞きましたか蒔苗さん? わたくしたち、すごい方ですって!』


『まあ、すごいのは家のことだと思うけどね。私たちはまだまだ駆け出しだから。ところで、残っている防衛部隊の戦力はここにいる4機で間違いないですか?』


 松浦と名乗った人のDMD以外にも、傷ついたDMDたちがその機体を引きずりながら集まってきた。

 育美さんの情報通り4機。

 どの機体もどこかのパーツが欠損している酷い状態だ……。


『はい、この4機が生き残りです。損傷は激しいですが、パーツを丸ごと交換など簡単な修理ならば工場内で行えます。それに腕の一本でも残っていれば、砲台代わりにはなりましょう。まだ少しの間ならば戦いを続けることも出来ます』


『そうですか……。では、一旦工場に戻りましょう。私たちの任務は工場の防衛なので、工場付近にいる方が都合が良いですし、直せるのならば直した状態で戦った方が戦いに勝つ確率も上がると思いますから』


『了解しました。では、直ちに移動を開始しましょう……!』


 私が先頭に立ち、蘭がしんがりを務める。

 松浦さんはまだ少しの間戦えると言っていたけど、通常モンスターならまだしも混成機械体相手にこの損傷では無理がある。

 直せるところは直すという私の判断は間違ってないと思う。

 工場は大きいんだ。蘭と私の2機では手が回らない。

 味方の数は多いに越したことはない。


『なんぞの時は私たちをおとりにして逃げてください。半壊した機体を守るためにそのアイオロス・ゼロに傷をつけては……』


『大丈夫ですよ。私たちは確かに駆けだしですけど……』


『うわああああああっ!! また混成体だっ! もうやめてくれええええええっ!!』


 防衛部隊のDMDの1機が頭を抱えて膝をつく。

 背後からは翼の下に複数のミサイルを抱え込んだ細身の鳥型モンスター『デッドストーク』が今まさにそのミサイルを放ったところだった。

 レーダーが機能しないからミサイルも目で避けるしかない!

 でも、私はまだしも他の機体にそれだけの機動力は……!


『オホホホホホ! ミサイルなど恐るるに足りませんわ! 開けジュエリーボックス! サファイア・シールド!』


 グラドランナの両腕にある長細い六角形の装甲が少しせり上がり、その隙間から青い色のDエナジーがあふれ出す。

 それはすぐさま広がり、青いエナジーの壁を作り出した!

 ドンッドンッという爆音とともにミサイルはエナジーの壁にぶつかるけど、グラドランナはまったく揺らがない!


しくもあなたもストークのようですわね。まあ、あなたはコウノトリのストーク。わたくしはくきのストークですが』


 グラドランナが背負っている巨大なキャノン砲……。

 その砲口が高速で飛行するデッドストークを狙う。

 でも、とても当てられるとは思えない。

 少なくとも、私はあの速さで動く的に弾は当てられない……!


『ストーク・キャノン……照射!』


 放たれた金色のDエナジーはデッドストークにかすりもしなかった。

 しかし、エナジーはまだ放たれ続けている……!

 しかも、どんどんその太さを増しながら……!


『うおおおおおーーーーーーーーーッ!』


 蘭の叫びと共にグラドランナが動き、太いエナジーの奔流ほんりゅうも動く!

 デッドストークは当たるというよりも、激しい流れに巻き込まれるという形でエナジーと接触!

 一瞬で消し飛んでしまった……!


『……ふぅ。わたくしったら百発百中ですわね』


 みんなあっけにとられていたが、口々に蘭にお礼を言いつつ移動を再開した。

 ツッコミたいところはあるが、どこからツッコめばいいかわからないという空気を感じる。

 私もグラドランナにこれほどの火力があるとは思わなかった。

 やっぱり私もDエナジー武器を使うべきなのかな……?


『ところで松浦様』


『は、はい、なんでしょう……』


『工場にDエナジーを補給出来る設備はございますか?』


『ええ、ありますよ。濃縮Dエナジーも緊急時用のストックがありますから、すぐにDMDに注入出来ます』


『それはよかったですわ。お恥ずかしながらグラドランナちゃんのエナジー残量は今の戦いで半分以下になりましたから……オーホッホッホッ!』


 ……高火力も一長一短だなぁ。

 私がDエナジー武器を使うなら、やっぱりエナジー消費が少ない格闘武器かな?

 この戦いが終わったら育美さんに相談してみよう。


 それにしても、なかなか強力なモンスターがどんどん襲いかかってくる。

 みんなの反応を見ると、混成体は新種ほどレアじゃなにしても普通のモンスターではないということは伝わってくる。

 後方に展開している私たちでもこれだけ遭遇するんだ。

 コアやダミーコアに向かっている小隊はどうなっているんだろう……。

 すごく気になるけど、今は防衛部隊を工場に導くことに集中しよう。

 また、何か来る……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る