-13- 肉、そして
「蒔苗ちゃんって、結構食べるのね」
「育ち盛りですから! でも、今日は特に食べてます!」
「いいね、食べ放題はそうじゃないと困るわ!」
久しぶりの焼き肉は美味いのなんのって!
食べ放題だからと侮ることなかれ。
このお店はクオリティが高い!
まあ、それなりにお値段もするけどね!
やっぱり、1人ではこういうお店には行けないな。
お金はお父さんとお母さんが残してくれたものがあるから、日々の生活が貧しいということはないし、たまの贅沢くらいなんの問題もない。
でも、そのお金が増えていくことはないし、なんとなく高い買い物が怖くて避けてきた。
それに両親が稼いだお金を自分ひとりで好き勝手に使うのは申し訳ない気がして……。
高校生になったらバイトをしようと思っていたけど、高校は結構今までと環境が変わって、なかなか慣れなかったから、新しいことを始められずにいた。
いや、もしかしたら、お金に困ってないからやる気が出なかったのかもしれない。
申し訳ないと思いつつも、甘えていたのかも。
そんな、なんだか煮え切らない、灰色の日々に突然現れたのがお爺ちゃん……そして、アイオロス・ゼロだった。
最初は戸惑うばかりだったけど、アイオロス・ゼロを実際に動かしてみて思った。
あの機体は私のために生まれてきたのだと。
最初は自分のものであることに違和感しかなかったのに、今は親しみすら覚える。
もちろん育美さんの調整のおかげというのもあるけど、それ以前に設計段階から私が操ることを想定していたような気がしている。
根拠はまったくないけど、そうでもなければ面識のない孫に自分の愛機の兄弟機を渡すとも思えない。
ただ、それでも疑問が残る。
なぜ私なんかが使うことを想定したDMDを作ったのか……ということだ。
この疑問の答えは見つからない。
結局、この考えは私の思い上がった妄想でしかないのかな……。
「蒔苗ちゃん、大丈夫? ボーッとしてるけど食べ過ぎた?」
「はい、食べ過ぎました……うぅ……」
食べたものまで上がってくる始末……。
やっぱり、私調子に乗ってるのかも……。
「あははっ、若いっていいわね~。少し落ち着いてから帰ろうか」
「はい……ごめんなさい……」
「いいってことよ!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「本当になにからなにまでありがとうございます。家まで送ってもらっちゃって……」
「なぁに、当然のことをしたまでよ。だから、頭なんて下げないで。吐いちゃうわよ」
「うぅ……はい」
これが食べ過ぎってことなのね……。
私、人生で今まで食べ過ぎたことがなかった気がする。
「それじゃ、また明日ってことでいいのかな?」
「はい、明日もマシンベースに行きます……!」
「ふふっ、やる気があるのは良いことよ。でも、体は動かしてなくても、脳は相当使ってるから、思った以上に疲労は蓄積しているわ。今日はすぐに寝て、明日もしんどかったら休んでた方が良いと思う。月曜日からは学校もあるからね」
「でも、私……もっと戦いたいです。これが私のやりたいこと、やるべきことだと思うんです」
「その気持ちは尊重したいけど、ダメなものはダメよ。疲れてる時に無理してDMDを動かせば、機体も体も壊す……。蒔苗ちゃんが倒れて悲しむ人はたくさんいるのよ」
「たくさん……いますか?」
「少なくとも私はすっごく悲しむわ」
「……ふふっ、わかりました。育美さんを悲しませたくありませんからね。しんどかったら行きません。でも、大丈夫だったら行きます」
「うん、それでいいわ。しんどくて耐えられない時は私に連絡して。脳関係の良い病院は職業
「わかりました。じゃあ、連絡先を交換しましょう」
「あ、そういえばまだだったわね……」
育美さんはうっかりしてた……って顔をしている。
ともかく、これでお互いいつでも連絡できる状態になった。
「他の人が見たら引くくらいマシンベースに入り浸ってる私だけど、流石にたまには休日もあるから、その時は連絡するわ。まあ、本当にほぼほぼいるんだけどね」
「もっと休んでください……」
「いやぁ、好きでやってるからねぇ。止められないのよ~。でも、こんなこと言ったら蒔苗ちゃんに示しがつかないから、休み増やそうかな」
「もし、休みの日にやることがなかったら……そのぉ、私の家に来てください。そんなすごいおもてなしは出来ませんけど、してもらってばかりではいけないので……」
「えっ! いいの? それは休まないとなぁ~。いっそのこと明日やすんじゃおっか……」
その時、育美さんの携帯端末が鳴った。
育美さんの顔が仕事モードに切り替わる。
「はい、若草です……えっ!? もう戻ってきましたか! やった……! すぐ行きます!」
通話が終わると、育美さんは嬉しそうな顔でこちらを見た。
「黒いオーガの角、もう戻って来たって!」
「はやっ!」
「私の予想を上回る早さとは、なかなか仕事が出来る人もいるものねぇ……。ということで、私はマシンベースに戻って一仕事してくるから、蒔苗ちゃんはゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます。あの……頑張ってください」
「おう! 任せとけってね!」
育美さんは車に乗って、行ってしまった。
残された私はいつも通りマンションに入り、エレベーターで自分の部屋のある階を目指す。
「寂しいな……」
本当は今すぐにでも家に来てほしかったけど、それを言う勇気はない。
誰もいない部屋に帰ると、さっきまでの出来事が夢だったように思える。
でも、それは違うとハッキリわかる。
アイオロス・ゼロで戦った記憶が、それを教えてくれる。
「育美さんに言われた通り、今日は寝る! 戦士には休息も必要なのよ!」
とはいえ、焼き肉の匂いがするのでシャワーは浴びよう。
もちろん、洗濯もしておこう。超静音洗濯機は夜でも安心!
まあ、今はまだそこまで遅い時間でもないけど。
「……ん?」
そういえば、私って育美さんに家の場所教えたっけ?
お腹いっぱい過ぎて、それどころじゃなかった気がするけど……。
でも、家に送ってもらったってことは、教えてないとおかしいわけで……。
まっ、いっか! それよりシャワーだ!
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