-12- オーガランス

「今回手に入れたアイテムというと、鉱石系を除けばオーガの角だけなんですけど、そこからなにか作れそうな武器はあるんですか?」


「それは……まあ、まずはカタログを見てみましょう」


「カタログ?」


「DMDを作っているのが企業であるように、DMDの武装もまた企業が作っているわ。だから、武装を作るのに必要なアイテムと金額が記されたカタログを、大体どの企業も出しているの」


 部屋の壁にズラッとたくさんの武器の画像が映し出される。

 これみんなDMDが使える武器ってこと!?


「複雑な機構を持つ武器はそれだけ作るのに時間がかかるし、必要な素材も増えて費用も高くなる。でも、それだけ強力なものも多いわ」


「武器を作るのに足りない素材は、やはり他のDMD操者から買うってことになるんですか?」


「それでもいいし、企業によっては欲しい武器を注文すれば、向こう側で素材を買い集めて作ってくれるところもある。その分金額は上乗せされるけど、手間が省けるし割と界隈ではこっちが主流だったりするわね」


「結局のところ、お金さえあれば好きな武器が買える……ってことですね」


「まあ、ぶっちゃけそうなのよ! 市場に出回らない貴重なアイテムが必要な武器以外は、お金さえあればなんとでもなるわ。必要なアイテムを自力で全部集めるのは、ちょっと時間がかかりすぎるしね」


 要するに、欲しい武器の作成に必要なアイテムが手に入ったら費用が少し抑えられてラッキーくらいの認識で、本来DMDの武器というのは作成に必要なアイテムの用意も含めて企業にやってもらうのが普通……ってことなのね。


「じゃあ、今回も別にオーガの角だけを使った武器を選ぶ必要はないってことですね。そもそも、そんな都合の良い武器があるとも思えませんし……」


「いや、あったのよこれが。ほぼほぼオーガの角だけで作れる武器を作成してくれる企業が!」


「ど、どこの企業なんですか!? そんな珍しい武器を作ってるなんて……!」


「モエギ・コンツェルンってところの系列企業よ!」


「モエギ……えっ!?」


 思いっきり身内の企業じゃん!

 大グループとは聞いてたけど、そんなものまで作ってるのね……!


「そ、それでその企業はどんな武器を作ってくれるんですか?」


「ふっふっふっ……それはね、槍よ。オーガの角の硬さをそのまま生かした『オーガランス』! 複雑な仕組みは一切なく、シンプルに硬い槍でしかないけど、それが逆に不具合や故障のリスクを極端に下げて、近接武器としての信頼度をグンと上げているわ!」


「オーガ……ランス!」


 確かに敵を直接攻撃する近接武器が壊れやすかったら困る。

 攻撃するたびにそれ相応の衝撃が武器に伝わるわけだから。

 てっきり冗談みたいな武器になると思ってたけど、オーガの角……なかなか使える!


「しかも、カラーリングやデザイン、使用するアイテムの一部変更にも対応してくれるから、今回手に入れた新種の黒いオーガの角も素材に使えるかもしれないわ」


「でも、あの黒いオーガって新種ですよね? 新種が落としたアイテムを武器の素材に使ってもいいもんなんですか? というか、普通に新種倒しちゃったけど、いいんですか!? 冷静になると、私とんでもないことをしちゃったような……!」


「大丈夫大丈夫。新種だから倒しちゃいけないなんてルールはないわ。それに一度ダンジョン内に現れた新種は、その後普通にダンジョンに出現するようになるの。基本的には……ね」


「よ、よかった……」


「ただ、落としたアイテムは勝手に加工しちゃダメね。しかるべき専門機関の判断を仰ぎ、許可が下りた後じゃないと。アイオロス・ゼロに記録されていた映像や音声のデータ、それにデータ化されたままの黒オーガの角はすでに専門機関に送り付けてあるから、後は結果待ちよ」


「結果ってどれくらいで出るんですか?」


「ものによるってのが正直なところね。より深い研究が必要と判断されたアイテムは超高額で買い取ってもらえるけど、そのまま返ってこないってこともある。でも、今回の場合は新種と言っても既存のモンスターの亜種みたいなもんだし、角だって正直ただ硬いだけに思えるわ。だから、早ければ明日の朝には結果が出るんじゃない? そして、角が戻って来てすぐに発注をかければ、明日の夕方には出来上がった武器が運ばれてくるかも」


「そ、そんなに早く出来るんですか!?」


「オーガランスはさっきも言った通り複雑な仕組みが一切ないからね。これがエナジーを刃や弾丸に変えるエナジー系武器とかだとそうもいかないけど。それに武器作りもオートメイション化がいちじるしいから、夜中だろうと休日だろうと滞りなく作業が進むというのもあるわ。まあ、流石にここまで速いのは発注先がモエギだからって面もあるけど」


「すごいんですね……モエギ・コンツェルンって」


「まあね! それでどうする? オーガランス……作っちゃう?」


「はい! なんだか運命的なものを感じますし、私の戦闘スタイルとシンプルかつ頑丈で信頼できる近接武器は相性が良いと思うんです」


「確かにそうね。じゃあ、その方向で動いていくわ! あと、最速で完成を目指すとなると、細かい調整を私の方で勝手に決めることになるけど、それでも大丈夫?」


「全然問題ないです! むしろ、お任せしたいです!」


「ふふっ、了解! じゃあ、黒オーガの角が最速で返ってくることを前提に、さらに黒オーガの角を追加の素材として受け入れてもらえることも前提に、おまけに新アイテムである黒オーガの角を既存の技術で加工出来ることも前提にした仮の発注書を作るわね」


「あの……もしかして、私ってかなり無理な注文してます……?」


「ううん、この業界はこんなもんよ。むしろ、新種のモンスターが落としたアイテムが自分のところに回ってきた方がテンション上がるわ。すべてを機械任せには出来ない、技術屋の腕の見せ所だからね」


「それならいいんですけど……」


「安心しなさい。蒔苗ちゃんは頑張って戦って新しいアイテムを手に入れたんだから、ここからは周りの大人たちが頑張る番よ」


「……はい!」


 新武器オーガランス……。

 これが出来たら、今度はまた私が頑張る番だ。

 次のダンジョンはどこなのか。

 そして、どんなモンスターが待ち受けているのか……!


「そういえば、晩御飯に食べたいものは決まった?」


「そのぉ、焼き肉が食べたいです。1人じゃなかなか行きにくいですし、友達といる時はあんまり選択肢に上がらないので、最近全然食べてないんです。お願いします!」


「……わかったわ。私が頑張る番だもんね!」


「やったー!」


 とりあえず、今日は肉!

 戦いはまた明日!

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