-137- 第二次琵琶湖決戦Ⅶ〈激昂〉

 ブレイブ・バトル・システム――。

 それはDMDの制御に使用している脳波を攻撃に転用するための技術。

 モンスターに対して脳波を放射し、その脳に直接働きかけることで思考を乱して動きを鈍らせる効果がある。


 ただし、竜種との戦いでは無視出来ないデメリットがこのシステムにはある。

 それは竜種の脳波から操者を守る防御システムとの併用が出来ないことだ。

 こちらの脳波を放射するには相手の脳波を遮断する壁を取り払う必要があり、システム発動後はノーガードの状態になってしまう。


 その状態で竜種からの脳波攻撃を防ぐには……それ以上の脳波で力任せに押し返し、逆に相手の脳にダメージを与えるしかない!

 人類最強の脳波を持つ私ならそれが出来る!

 そう思って、私のことを心配する育美さんを説得し、秘密裏にこのシステムを搭載してもらった。

 脳波を周囲に放射する技術だから、あふれ出した脳波を物理的な力に変えるオーラとの相性もバツグンなんだ。


 ただ、さっきまでの私じゃその力をフルに発揮することが出来なかったと思う。

 脳波は感情のたかぶりでその力を増す。

 弱気なままでは竜種の脳波に押し切られて死ぬ可能性だってあった。


 でも、今はもう大丈夫。

 お母さんのおかげで弱気な心は吹っ飛んだ!


「さて、私より上手く扱えるかな?」


 お母さんはこのシステムが危険なものだと欠片も思っていない。

 ただ単に信頼する育美さんが作った大切な人を守るための力と考え、デメリットなんて気にしてもいない。

 だから娘の私が使っても平然としている。


 お母さんの考え方は正しい。

 生きるか死ぬかの戦いの場で、託された力を信じられないようでは勝てない!

 道具というのはいつだって人間がどう扱うかで決まる!


『ブレイブ・バトル・システム起動!』


 その瞬間、体の中を駆け巡る解放感。

 抑圧されていたものが解き放たれたような……そんな気分。

 もしかしたら、私にとって脳波攻撃に対する防御システムはかせだったのかもしれない。


 あふれ出して止まらないオーラがアイオロス・マキナを輝かせる。

 敵の攻撃もこのオーラの前では豆鉄砲のようなものだ。

 ああ、負ける気がしない……けど、この感覚に酔いしれてはいけない。

 勝負は一撃で決める……!


 人間の感情のピークなんてものは数秒で過ぎ去っていく。

 この万能感も永遠には続かない。

 解放感だってすぐに慣れるだろう。

 だから今しか出せない最高の一撃、それで勝負を決める!


 この空間すべてをオーラで満たしてアイオロスの動きを止めつつ、狙うのは胸のコアのみ!

 機体はそのまま壊さず返してもらう。

 私たちにとってかけがえのない人の愛機だから!


『オーラ……インパクト!』


 突き出した右の拳から伝わるオーラの衝撃がアイオロスの胸を打ち砕いた!

 緑色のコアの破片がオーラに混じって散り、動力源を失った機体が力なくうなだれる。

 同時にこのダンジョンの命運も尽きた。

 規模が大きいから完全消滅までに時間がかかるだろうけど、もう消えゆく運命は変えられない。


『私たちの……勝ちだ!』 


 無限に放出されていたオーラが減り、自分の精神も徐々に落ち着いていく。

 これで終わったんだ。萌葱一族の戦いの歴史もここで一区切り……。


『ん……? もう空間が歪んで……』


 死闘を繰り広げたこの闇の空間がすでに揺らぎ始めている。

 この揺らぎはコアを破壊されてからしばらく経ったダンジョンに起こる現象で、その空間が消滅する兆しだと言われている。

 元から重力があるようでなかったり、物理的な壁や床があるようでなかったりする不安定な空間だったから、消滅するのもそれだけ早いのか……?

 とにかく安定していた貝の墓場、レベル95地点まで引き返さないと!


『アイオロスも運ばないといけない……! もう少し頑張れアイオロス・マキナ! そして私!』


 消滅に向けた収縮をオーラで押し返しつつ、動かなくなったアイオロスを抱える。

 マキナの壊れたパーツがそこらへんに散らばっているし、出来ればそれも回収したいけどギリギリ間に合わないか……!

 でも、戦闘の最中サブアームと共に再度吹っ飛んだドラゴン・ヘッドや最後の攻撃のために手放したオーガランスロッドがここで消えてしまうのは……。


 その時、真上から白い光が差し込んだ。

 生き残っていたスノーフェアリー2機がその白いDフェザーを輝かせながら下りてきたんだ!


『ありがとう……! 落ちているパーツを急いで回収して!』


 スノーフェアリーはせっせとパーツを回収した後、高速でこの空間から離脱した。

 それを確認した後、アイオロス・マキナも最後の力を振り絞って飛ぶ!

 オーラの助けもあって、なんとか空間が消滅する前に脱出することが出来た!


『最後の最後まで厄介なダンジョン……! でも、この場所はまだ消滅しないみたいね』


 貝の墓場には残り2機のスノーフェアリーもいた。

 流石に小型ドローンのスノーフラワーはバッテリー切れで落ちてたけど、フェアリーの方は全機健在だ。

 儚く消える雪と思いきや、絶対に溶けない万年雪だったわけね。


 でもどうせなら、フラワーの方も復活させておくかな。

 この無人機たちはジェネレーターじゃなくてバッテリー駆動だから活動時間は短いけど、その代わりにアイオロス・マキナと物理的に接触することでエナジーを補給出来る機能が搭載されている。

 この時のエナジーというのは液体の濃縮Dエナジーではなく、濃縮Dエナジーをジェネレーターで変換して生まれた電気的なエナジーだ。

 それを機体同士が物理的に接触した場所から流し込み、相手側のバッテリーに溜めるという流れね。


 その電気的なエナジーをバッテリーで持ち歩けるならDMDにわざわざ液体の濃縮Dエナジーを積ませる必要はないんじゃないかと最初は思ったけど、濃縮Dエナジーを入れるタンクと変換後のエナジーを溜めるバッテリーが同じ大きさの場合、使用出来るエネルギー量は圧倒的に濃縮Dエナジーの方が大きいらしい。

 それこそ倍以上の差がつくとか育美さんは言っていた。

 だからDMDは液体の濃縮Dエナジーを積み、ジェネレーターで変換しながら戦っているというわけだ。


 さて、落ちているスノーフラワー4機にエナジーを補給し終えた。

 どの機体も多少の傷はあれど大破していない。

 飛行も問題なく出来るようだ。


『失ったものは戻らないけど、取り戻せるものは全部取り戻す! さあ、みんなで帰ろう!』


 帰還するまでがダンジョン攻略!

 この規模のダンジョンならまだまだモンスターも残っているだろう。

 でも、それを蹴散らしてマシンベースまで帰る力も残っている。

 私の機体はアイオロス・マキナなんだから!

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