-27- 使命感の行く先
「強制休養……1週間!?」
私は杉咲さんに負けないくらい……というか、完全に上回る声でそう叫んでいた。
自分の意思では止めることが出来ない、条件反射のような叫びだった。
杉咲さんはビクッと体を震わせた後、しどろもどろになる。
「え、えっと、強制休養って言っても私にそんな権限はないから、あくまでも提案みたいなもので……。それに1週間は確かに長い……かな? と、とりあえず、月曜から金曜の平日は学業に専念した方がいいんじゃないかなって、私は思ったんだけど……」
「つまり、次の土曜日までDMDを操縦してはいけないってことですか?」
「そ、そういうことに……なるね」
「5日間も……! 放課後にちょっとだけでもダメなんですか?」
「それでは脳の活性化状態が維持されてしまうからダメなのよ。疲れを取るには一度完全に操縦から離れた方がいい」
「じゃあ、1日だけ……! 月曜だけは完全に休みますから、それでなんとか……」
「うぅ……それは認められない……!」
学校がある平日は休もうという妥当な提案だと頭ではわかっている。
でも、この抗うことが出来ない衝動はなんだろう……。
まるで買ってもらったばかりのおもちゃをすぐに取り上げられた子どものように、私はなんとか強制休養命令を取り消してもらおうと食い下がっていた。
それを止めたのは育美さんだった。
「そこまでよ、蒔苗ちゃん。先生はビビりだけど、仕事に関して適当なことは言わないし意思も固い。これ以上の譲歩はないわ。言われた通り次の土曜日までDMDは動かさないこと。いいわね?」
「……はい、すいません。先生が正しいってわかってたんですけど、止められるとやらないといけない気持ちが強くなって、抑えきれなくて……」
「わかるわ。私も新人の頃はやる気が抑えられなくて倒れてたから。まあ、今もやる気は抑えられてないんだけどね! 体力がついたことと仕事に慣れたことで倒れなくなっただけなの」
「育美さんにもそんな時期があったんですね」
「私も人間だからね。蒔苗ちゃんもそのうち操縦に慣れて、戦っても疲れにくくなる日が来ると思う。前回も今回も大変な探査だったけど、その戦いっぷりを見れば、蒔苗ちゃんにとってあんな敵なんて苦にもならない相手だってわかる。ただ、今はまだ体が慣れてないだけなの。このまま焦らず続けていけば、自分の体もアイオロス・ゼロももっと上手く動かせるようになるはず。それこそ1日中戦えるくらいにね」
「あはは……流石に1日中戦うのはキツイですね」
「まっ、それはそうよね! これはあくまでもたとえ話。私が言いたいのは優れた戦士にも休息は必要ってこと。最悪の場合、仕事の途中に倒れてアイオロス・ゼロが動けないままダンジョンに放置されてしまう可能性もある。そうなると当然受けていた仕事は断らないといけなくなるし、無抵抗の機体がモンスターに破壊されることもあるわ。ダンジョン・マシンドールは操縦する人がいなければ、その名の通りただの人形。敵と戦うことは出来ない。覚えておいてね」
「はい、わかりました。本当にわがまま言ってすいませんでした」
「わかってくれればそれでいいのよ。別に責めてるわけじゃないからね。私個人としてはダンジョン探査にこれだけ情熱を燃やしてくれることが嬉しかったりするの。蒔苗ちゃんは
「確かに最初は戸惑うばかりでしたけど、今となってはこうしている自分になんの違和感もないというか、むしろ使命感に燃えているというか! でも、今は使命のためにダンジョン探査を全力でお休みします!」
「うん、その意気よ。休んでる間だって、すべての物事が止まるわけじゃないからね」
「と、いいますと?」
「蒔苗ちゃんが休んでる間に、アイオロス・ゼロの武装を一新しようと思ってるの。最近作ったばっかりのオーガランスは当然据え置きだけど、今使ってる剣とか盾とかはより蒔苗ちゃんに合わせたオーダーメイドモデルに切り替えようかなって」
「お、オーダーメイド……!」
なんとシャレた響きなんだろう!
いわゆる『専用武器』を作ってくれるってことだ!
「でも、お高いんじゃ……」
「もちろん通常モデルよりお金はかかるけど、今回手に入れたイカの皮がおそらく返ってこないから、その買取金と蘭ちゃんからの報酬で余裕でまかなえると思うわ」
「あのイカの皮……本当に貴重なんですね」
「蘭ちゃんが来る前にも話してたけど、透明化のメカニズムがハッキリしていて、研究することで技術的に透明化を再現出来るようになる可能性が高いのよ。人類に新たな力をもたらすと考えれば、それは貴重なものだし、おそらく……蒔苗ちゃんの手元には返ってこない。残念だけどね。その分、そのアイテムを研究機関が買い取るって形で、莫大な報酬が支払われるわ」
「返ってこない……。まあ、透明になって隠密行動っていうのはアイオロス・ゼロっぽくないので、別に私は気にしてません。その代わりに貰えるお金で、私専用の武器が作れるというのならなおさらです!」
「そう言ってくれると助かるわ。武器は剣と盾以外に蒔苗ちゃんでも扱いやすい射撃武器も作るつもりよ。もうすでに仮のプランは出来上がっているけど、細かいところはお休み中の蒔苗ちゃんと連絡を取り合って詰めていこうと思ってるわ。新しい武器についての通話やメールのやり取りくらい問題ないわよね、先生?」
「ええ、それくらいなら全然問題ないよ。それにしても、育美は相変わらず働き過ぎね。蒔苗くんを見習って、あなたも大好きなお仕事を5日間くらい休んでみたらどう? その方が大人として示しもつくと思うんだけど」
「えっ……!?」
育美さんの顔が引きつる。
本気で嫌がってる時の顔だ……!
「いやぁ~、それはちょっと無理かなぁ~。ほら、蒔苗ちゃんは学業が本分だけど、私はこの仕事が本分だし、雇われの身だからね? いきなり5日間も休むなんて現実的じゃないし、みんな困っちゃうから……。それに私まで休んだら蒔苗ちゃんの休み中になにも進まなくなっちゃうし……」
「冗談よ、冗談。本気で言い訳しないの。育美が無理してるなんて思ってないわ。今の仕事量も凡人からすれば目の回るものでも、天才のあなたにとっては適量なんでしょう。でも、覚えておきなさい。育美が倒れたってアイオロス・ゼロは動かなくなる。他のメカニックには任せられないんでしょ?」
「動かすだけなら問題ないわ。このマシンベースには優秀なメカニックが多いから。でも、気持ちとしては確かにあるわね。任せられないというより、譲れないって気持ちが。先生の忠告通り、今週は私も時間外労働を控えるわ」
「そうしなさい。そして、空いた時間に蒔苗くんの家に行ってあげなさい。もちろん、迷惑じゃなければ……だけど」
育美さんと杉咲先生がこちらを見る。
私は静かにうなずいた。
元々家族で住んでいたマンションは、1人で暮らすにはあまりにも広い。
誰かがいてくれた方が落ち着くし、それが育美さんならとっても嬉しい。
「わかったわ。早速月曜日から行っちゃってもいい?」
「はい、いつでも構いません。私、待ってますから」
「食べ物とか飲み物とか買って、ささやかなパーティにしましょう。祝うことはたくさんあるわ」
「いいですね! 私もなにか作ります。そんなに上手くないかもですけど……」
「蒔苗ちゃんの手料理ならなんでも美味しいって!」
胸に渦巻いていたDMDを操縦出来ないことへの焦燥感は、いつの間にか消えていた。
その代わりに湧き上がってきたのは、明日から学校だという実感……。
木曜と金曜を葬儀で休み、実質4連休後の学校はちょっと緊張するなぁ。
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