-135- 第二次琵琶湖決戦Ⅴ〈暗闇〉
『スノーフェアリー、スノーフラワー、全機起動確認。これよりコアの破壊に向かいます』
「ええ、任せたわ蒔苗ちゃん」
ここから先の領域に立ち入れる操者は私だけ。
そう、あくまでも操者は……ね。
タンブルシードの内側に小さく折りたたまれるような形で内蔵されていた4機の可変式小型無人機『スノーフェアリー』と4機の戦闘用小型ドローン『スノーフラワー』。
これらの機体はAI制御だから、ここから先の領域でも問題なく活動出来る。
タンブルシードに銛が刺さった時は中にある無人機も壊れちゃったんじゃないかと焦ったけど、わざわざ変形機能を取り入れてまで小型化した甲斐あって難を逃れていたようだ。
スノーフェアリーの特徴はとにかく無駄を省いて小型化していること。
装甲なんて存在しないも同然で、モロに攻撃を受けたら終わりという
でも、深層のモンスターの攻撃なんて通常のDMDでも当たれば致命傷になるし、機動力に頼って回避を選択するなら重りになる装甲なんてなくてもいい……と育美さんは考えたみたい。
そんなスノーフェアリーの機動力を支えているのは機体各部の小型Dフェザーユニットで、変形は小型化だけでなくジェット機のようにDフェザーを放射する方向を1つに絞り、通常のDMDではありえない加速を得ることが出来る。
要するにスノーフェアリーは飛行形態に変形出来るのだ!
人型である通常形態は飛行形態より最高速度は劣るけど、Dフェザーを各方向に放射出来るから小回りが利く。
それに手を使えるようになるから攻撃能力に優れる。
武器は推進器として使っているDフェザーユニットをそのまま利用しエナジーの刃として振るうフェザーカッターと、Dフェザーを細かなエナジーの粒として発射するフェザーバルカンのみというこれまた潔い仕様となっている。
Dフェザーは高出力のエナジーそのものだから攻撃に転用してもそれなりの威力を発揮する。
とはいえ、深層のモンスターを相手にするにはちょっと心細いラインナップだ。
でも、この無人機たちの役割は私を最奥まで送り届けること。
スピードで敵をかく乱し、進むべき道さえ開ければそれでいいんだ。
ドローンであるスノーフラワーなんてDフェザーユニットが本体みたいなもんで、その速度を生かして敵の間を飛び回り、あわよくばその羽で敵を斬り裂ければ……という考えで設計されている。
機体が小型化している都合上、搭載しているバッテリーも小さく稼働時間は長くない。
短い時間で儚く消える雪のような存在だから、彼らにはスノーの名がつけられている。
あと、お母さんが使っていたDMDスノープリンセスも意識している。
お母さんに儚く消えられたら困るけど、雪解けっていう長年解決しなかった問題が解決した時に使う言葉もあるからね。
それに雪って固まればすごく硬くなるし、投げつける武器にもなる。
育美さんとお母さんの間にある強く儚い想いの結晶がこの機体たちなんだ。
「ダンジョン内部の様子はどう? 90以降はやっぱり他とは様子が違う?」
『いえ、相変わらず貝の墓場みたいに貝殻がバラまかれた地形です。出てくる敵も変わらずで……あ、また巨大半魚人がいますね』
今度は2体も待ち構えている。
流石にあれは無人機たちでは厳しい相手だけど、放置して竜種との戦いの場にまで来られたら面倒だ。
ここは私が直接やる……!
『焼き払え! ドラゴン・ブレス!』
左腕から超高圧縮のDエナジーを照射!
群がる雑魚を焼き払いつつ、2体の巨大半魚人の脚にダメージを与える。
巨大ロボが現実に現れたら一番に狙われる場所はそこだ。
なぜなら人型である以上、脚を断たれて立っていられないから。
脚にダメージを負ったのを確認した後、スタビライザーソードDFのエナジー刃を翼のように真横に伸ばす。
その状態で巨大半魚人の股下をすり抜ければ、スパッと両脚がぶった切れる!
後は地面に倒れた敵の頭をオーガランスロッドで潰してトドメを刺す。
油断して再生なんてされたら面倒だから、モンスターはちゃんと消滅するまでダメージを与えないとね。
『もう1体も……いや、終わってるね』
もう1体の巨大半魚人には無人機たちが殺到し、私と同じように脚を斬り裂いて頭を潰していた。
これで2体とも消滅を確認。
再び移動を開始する。
竜種の気配がずいぶん近くなってきた……!
『……はっ! これは……縦穴?』
唐突に地面が終わり、目の前に現れたのは底が見えない縦穴だった。
現在地はレベル95地点……。
この穴の底に竜種がいるとみて間違いない。
穴の中は光で照らしても何も見えず、闇そのもので満たされているような雰囲気があった。
それでも、ここまで来て帰るという選択肢はない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず……。
闇の根源を抹消するには闇に身を沈めるしかない!
『スノーフェアリー、スノーフラワーはここで待機。接近する敵を迎撃せよ』
ここからは本当に私1人だ。
ゆっくりとアイオロス・マキナを闇の中に沈めていく。
中に入っても何も見えない……。
それに敵の気配もない。
ただ、真下から竜種のプレッシャーを感じるのみだ。
果たしていつ仕掛けてくる……?
闇に沈んで数分後、不意に底の方に緑色の光が見えた。
あれは……ダンジョン・コアの光だ!
竜種と出会う前に見つけることが出来た!
でも、相変わらず竜種が近くにいる気がしてならない。
コアを見つけて油断しているところを襲うつもり?
とにかく警戒しているだけでは始まらない。
当初の予定通り、まずはコアを破壊する……!
『オーラガストランス!』
渾身のオーラ攻撃をコアに向けて放つ!
しかし、コアは音もなく移動し攻撃を回避した!?
『育美さん、今までにダンジョンのコアが動いたという例はありますか!?』
「聞いたことがないわ……。もしあったとしたら絶対にウワサになるだろうし……」
つまり異常事態ってことか……!
でも、レベル100ダンジョンのコアを前にして起こる異常事態がこの程度ならまだマシな気もする。
今度は逃げられないようにちゃんと接近して攻撃しよう。
アイオロス・マキナを緑色のダンジョン・コアに近づけ、広範囲にオーラを拡散させるようイメージする。
至近距離から散弾のような攻撃を加えれば、流石に回避は不可能……。
『いや、ダメだ……っ!』
思考よりも先に口から出た言葉に従い、私は盾を構えて後ろへ退避する。
その瞬間、左手に走る鈍い衝撃……!
ドラゴン・ヘッドの表面に大きな傷が残り、アイオロス・マキナがさらに後ろへと飛ぶ。
焦っていたとはいえ少しはオーラも展開していた。
それにそもそもドラゴン・ヘッドは頑丈な物理盾でもあるのに一撃でこんな傷を……!
相手は竜種しか考えられないけど、一体どこから……。
目の前にはコアしかなかったはずなのに……!
『まさか……!? でも、それじゃあ……』
宇宙に輝く星のように、闇の中に無数の光が浮かび上がる。
そして、その中でひときわ輝く恒星のような存在……ダンジョン・コア。
輝きを増していくその塊が、自らの周囲を明るく照らし出す。
こんな大きなダンジョンのコアにしては小さいなと思っていた。
それこそDMDの胸の大きさと大差ないなって……。
でも、それは必然だったんだ。
機械の胸の中に埋め込まれたコア。
そこから伸びる手足と頭もすべて機械。
でも、光の中に浮かび上がった存在は完全機械体でも覚醒機械体でもない。
紛れもないDMDだった。
『アイオロス……!』
このダンジョンで散ったお爺ちゃんの愛機。
未回収のままどこかへ消えた機体。
それが今、目の前にいる……!
ダンジョンコアをその胸に抱えて!
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