-89- ネタバラシ

「まず、どうしてショーの内容を私に伝えるのかを教えてくれない?」


「それは……もしもの時のためです。私たちの作戦に不測の事態が起こった時、対応出来るのはきっとマキナだけだから……」


 彼女も私と同じような思いを抱いているというわけか……。

 いや、実際ショーの本番で『黄金郷真球宮』に挑むのは彼女たちだ。

 その不安は私よりもずっと大きいはず。


「もちろん、私も作戦に関わる人間として失敗するとは思っていません……。お母様の理論は完璧で、それを元に生まれた新技術もまた完璧です。でも、相手はあの深層ダンジョンですから……。まだ、誰も抹消したことがありませんから……」


 そう、まだ誰も……というか私は深層ダンジョンを抹消していない。

 深層ダンジョンに足を踏み入れ、50レベルを超えても普通にDMDを動かせることは証明済みだけど、まだ抹消には至っていない。

 それは今すぐ消すべき深層ダンジョンが存在しなかったからだ。


 深層ダンジョンは脅威ではある。

 でも、脅威とされる理由は『いざという時抹消できないこと』に集約される。

 それが『いつでも抹消できますよ』となり、その前提で深層ダンジョンのことを見つめ直してみると……案外すぐに消してしまいたいダンジョンはなかった。


 人間が生活するうえで少し危険だったり邪魔だったりする位置に存在する深層ダンジョンはある。

 でも、即座に消すほどではない……。

 なぜなら、そこからも資源が取れるから。

 すでに交通やらインフラを整え直しているから。

 絶対に消せないと思われていたからこそ、その存在を前提としたシステムが組まれていたんだ。


 だから、『いつでも消せますよ!』と意気込んでも『ちょっと考えさせてください』という返事しか返ってこない。

 まあ、私も今この瞬間人の命が脅かされているとかでもない限り、そこまでダンジョンを消し去ってやりたいとは思っていない。

 ダンジョンは脅威であると同時に恩恵も与えてくれることをDMD操者は知っているから。


 そう考えると、『黄金郷真球宮』の抹消許可が出たのはすごいことだ。

 多くの人の命を奪ったダンジョンだから、普通のダンジョンとは事情が違うにしても、そう簡単に許可が出たとは思えない。


 しかも、抹消する様子をショーにしようと言うのだからなおさらだ。

 きっと、萌葱家が『黄金郷真球宮』の被害者家族だから出来たことなんじゃないかと思う。

 まったく無関係の企業がショーをすれば、流石に不謹慎という批判はまぬがれないだろう。


 あと、深層ダンジョンを抹消しなかった理由には私の体調や学業を気にしてということもある。

 なんだかんだ強がってもダンジョンに挑むたびに倒れてる過去があるし、毎回戦いの後に検査して学校を休むようなことになると困る。

 なので、深層ダンジョンに挑むにしても夏休みまで待とうという話は前からしていた。


 そして夏休みの今……招待状を受け取ってショーに呼ばれたので、私が深層ダンジョンに挑む話はまた先延ばしにされているというわけだ。


「私……不安なんです。プレッシャーで押しつぶされそう……。もし失敗したらと思うと……」


 藍花はハッキリとわかるくらい震えている……。


「大丈夫よ。落ち着いて話して」


「はい……。でも、私のことはもうどうでもいいんです……。今は紅花ちゃんにもしものことがあったらと思うと怖くって……」


「紅花には何かこう……不安材料があるの?」


「いえ、そういわけではなく……単純に心配なんです。私、しゃべることが苦手だから、いつも紅花ちゃんが受け答えしてて、矢面やおもてに立つのもいっつも紅花ちゃんなんです。だから、私以上にプレッシャーを抱え込んでるんじゃないかって……」


 まあ、紅花みたいなタイプは弱みを見せないために何でも抱え込んでしまいそうな雰囲気はあるなぁ……。

 双子の姉妹だからこそ、藍花はそれを敏感に感じ取っているんだろう。


「私はどうなってもいいんです……! でも、もしもの時は紅花ちゃんを助けてあげてください……! 私には何も出来ないから、お願いします……!」


「もちろん、もしもの時を想定して機体は持って来てあるし、私に出来ることは全力でするつもりよ。でも、あんまり自分のことを悪く言うのはやめた方が良いわ。私はまだ藍花のことをほとんど知らないから、あんまり適当なことは言えないけど……それでもあなたは何も出来ない人じゃないと思うな」


「そう言ってくれると……すごく安心します」


 藍花は紅茶が入ったカップに手を伸ばし、こくんと一口飲む。


「あちっ……!」


 もうそこそこ冷めているであろう紅茶でも熱いみたいだ。

 重度の猫舌ね……。


「では……伝えても良いでしょうか。明日のショーの内容を……」


「ええ、ぜひ聞かせて」


 私の中でも覚悟は決まった!

 ネタバラシ……どんとこい!

 それに私の予想が当たってるかも気になる!


「発表される新技術は……マシンベースなどに設置されている脳波増幅装置と脳波送信装置の新型および、DMD搭載されている脳波受信装置の新型になります」


「……えっと、新型機とかはない?」


「あ、一応私たち姉妹が使うDMDはその新しい装置類に対応した新型機です」


「何かすごい機能が隠された新型機とか?」


「うーん……基礎性能はおそらく現代のDMDの中でも最高だと思いますけど、さほど驚きの機能とかは……ないです」


「そ、そうなのね……」


 私、絶対に合体するDMDが出てくると思ってた……!

 双子の姉妹が操る2機で1機のDMD!

 2人のブレイブ・レベルはそれぞれ50!

 つまり、2人の脳波を合わせることで50+50=100!

 いや、100万レベルだああああああ……みたいなね。


 割と本気でそうなると思ってたのよ……。

 でも、現実は王道な内容だった。

 ただ、それもすごい技術であることは間違いない。

 これがもし本当なら、すべてのDMD操者のブレイブ・レベルを底上げ出来る……!

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