-92- 肌の温もり

 部屋に帰ってきた私たちは、食べてすぐ寝転ぶことはいけないことと知りつつも、思いっきりベッドに寝転がった!

 お腹いっぱいでふっかふかのベッドに体を沈めるのたまんないな!


 気持ち良すぎてそのまま寝ちゃいそうになったので、頑張って体を起こして部屋に備え付けてある大型テレビをつける。

 私たちが暴飲暴食をしている間、世間では特に変わったことはなかったようで、平和なバラエティ番組が流れていた。

 いつもと違う場所から見ると、いつものバラエティもなんか新鮮に見えるなぁ。

 なんてことを考えていると育美さんがガバッと体を起こし、その勢いでベッドから立ち上がった。


「このままじゃ眠くなりそうだし、もうお風呂入ろうか!」


「そ、そうですね!」


 返事をした途端、育美さんは服を脱ぎ始めた!


「あの! あっちに一応脱衣所がありますよ!」


「あっ、そうなんだ。でも部屋の中ならどこで脱ごうと一緒よ!」


 育美さんはポンポン服を脱ぐ!

 夏場なのでそう厚着はしていない。

 ものの数秒で下着だけになった育美さんがその大きなブラジャーに手をかけた時、携帯電話が鳴った。


「あらら、仕事の電話かも。蒔苗ちゃんは先に入っといて!」


「りょ、了解しました!」


 電話に救われた……!

 人前で裸になることに慣れてないから、いざ脱ごうとしても手が止まってしまっていた。

 でも、今なら脱げる!

 私もポンポン服を脱ぎ、露天風呂へと急いだ。


 ありがたいことに、ここのお風呂のお湯は白濁している!

 浸かってしまえば大事なところは見えなくなるはず。

 普段は体を洗ってから湯船に入るタイプだけど、今回ばかりはシャワーでサッと体を流した後、先にお風呂に入った。


「あぁ~、気持ちいい~!」


 浸かってしまえば焦る気持ちもなくなり、純粋に露天風呂を楽しめる。

 澄んだ空気の中、星が輝く夜空は絶景だ。

 なんだか深い宇宙に吸い込まれてしまいそうなほどに……!


「おっ! 入ってるねぇ~」


 宇宙に行っていた私の意識は現実に引き戻された。

 育美さんもシャワーで体を流した後、お風呂に入る。


「んあああぁ~! たまんないわぁ~!」


 心の底から湧いて出たような喜びの声。

 満面の笑みの育美さんを見ていると、自然とこちらの顔も緩む。

 でも、私の視線はある一点に吸い込まれていた。


「浮いてる……」


 思わず口に出してしまう。

 脂肪の塊の胸は浮くと聞いていたが、本当に浮いているところを見たのは初めてだったからだ。


「そう、胸って浮くのよ。いやぁ、普段も浮いてくれたら重みで肩がこることもないんだけどねぇ~」


 出た! 大きい人特有の肩こりアピール!

 でも実物を目の前にするとただただ納得せざるを得ない。

 DMDでもこれだけ胸部装甲を盛ったら機体バランスが崩れてしまう。

 そのバランスを維持するために下着や他の筋肉を使うのだから、その負担は計り知れない……!


「触ってみる?」


「えっ!? いいんですか!?」


「蒔苗ちゃんだからね。他の人には気安く触らせないわよ」


「じゃ、じゃあ失礼して……!」


 私は遠慮することも忘れて、その膨らみに触れた。

 指がどこまでも沈み込んでいきそうな魔性の柔らかさ……。

 そして、その圧倒的な質量……!

 手のひらから伝わる情報量が多くて脳がオーバーヒートしそうだ!


「あ、ありがとうございます! 今回はこのくらいで……!」


「あら、もういいの? 遠慮なくもっと揉みしだいてくれてもいいのよ?」


「いえ、まだそこまでは……! ま、また今度で!」


「ふふっ、まだ私たちはそこまでの仲じゃない? まあ、出会ってからまだ3ヶ月くらいだもんね。3年もしたら私に許可を取ることなく胸を鷲掴みするようになってるかもね」


「いやいや、3年の間に何があったんですかそれ! 流石にそんなことにはならないと思います!」


「えー、そう?」


 育美さんの冗談はたまにどうツッコんでいいのかわからない。

 でも、出会って3か月にしては親密な関係になっていると思う。

 そう考えると3年後なんてまったく想像がつかない。

 私と育美さんの関係も、私自身のことも……。


 私は高校を無事卒業してるのかな?

 卒業後は大学に進学かな?

 それとも専業のDMD操者になるかな?

 操者だとしたら所属はフリーなのかモエギ・コンツェルンなのか……。


 あれ? これって案外想像出来てる方?

 アイオロス・ゼロと出会う前に比べれば、進むべき未来がハッキリ見えている気がする。


 私はもう他の子たちみたいに自分は何をするべきか、何のために生まれてきたのかを悩む必要がない。

 なすべきことも、生まれてきた意味も知っているから。


 きっと3年後も私はDMD操者なんだろう。

 でも、戦う私のそばに育美さんはいてくれるかな?


「育美さんは3年後もメカニックをやってるんですか?」


「うーん、未来のことはわからないけど、今のところ転職の予定はないし、メカニックが私の天職だと思ってるわ。きっと辞めろと言われても辞めない気がするわね」


「育美さんらしいですね。私もDMD操者を続けてる予定です。だから、そのぉ……私のそばにいてくださいね、育美さん」


「もちろん! 蒔苗ちゃんが望む限り、私はあなたを支え続けるわ」


 育美さんは私の肩に手を回し、グイッと私の体を引き寄せる。

 肌と肌が触れ合い、その温もりが伝わる。

 お湯の方が熱いけど、肌の方が温かい。


 私たちはしばらく身を寄せ合い、夜空を眺めていた。

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