-48- ブラッドプラント防衛作戦Ⅳ〈決戦〉
『蒔苗さん……わたくし、怖いですわ』
『それでもやるしかないわ、蘭!』
『ええ、わかっていますわ……! 蒔苗さん、これを!』
グラドランナは左腕部の装甲をパージし、それをこちらに向かって投げた。
『グラドランナの上半身はほぼほぼ萌葱製のDMD! そこに追加装甲を取り付けることで丸みを帯びた黄堂重工っぽいDMDにしているのですわ。だから、その追加装甲は同じ萌葱製であるアイオロス・ゼロにも取り付けられるはず……!』
『追加装甲を……あっ! なるほどね! ありがとう!』
左腕部の装甲にはあのジュエリーボックスが装備されている!
ネオアイアン・シールドを切断されてしまった今、これは本当に助かる!
アイオロス・ゼロの左腕に追加装甲を当てると、カチッと自動で固定された。
システムに異常なし。エナジー回路の接続にも成功……!
『サファイア・シールド!』
左腕のジュエリーボックスから青いDエナジーの盾が展開された!
これでDエナジーによる攻撃はある程度受け止めることも出来る!
『蒔苗さん。Dエナジー武器を扱うコツは、不要な時には極力使用しないことですわ。ソードは切る瞬間にのみ展開、シールドは受ける瞬間にのみ展開……など、使っている時間を短くすることで使用するエナジーを節約出来ますのよ』
『わかったわ! 初めてだけど使いこなしてみせる!』
シールドを一旦引っ込め、ヤタガラスを観察する。
向こうも今度はどんな手で攻撃しようか考えている最中みたいだけど、翼は広げているし微妙に空中に浮かんでいる。
つまり、いつでも動ける状態というわけだ。
とはいえ、向こうが動くのを待っているのは性に合わない。
アイオロス・ゼロは機動力を生かした攻めの機体だからだ。
でも、今やるべきことは時間稼ぎだし、攻めた結果返り討ちにあったら……。
しかし、あんまり攻めが消極的だとヤタガラスが私たちへの興味を失って、バリアへの攻撃を再開する可能性も……。
あー! さっきから頭が熱い! パンクしそう!
『……蘭。私がやらかしちゃったら、後で一緒に謝ってくれる?』
『ええ、もちろん』
『ありがとう。じゃあ、サポート頼むね!』
オーガランスを構え、ヤタガラスに突撃する!
攻撃は最大の防御……!
多彩な攻撃を仕掛けられて後手後手に回るくらいなら、攻め続けてやる!
たとえ有効な攻撃手段が思いつかないとしても!
『やあああああっ!!』
狙うは胴体!
懐に入り込んでオーガランスを突き上げる!
しかし、オーガランスは機械の足でガッチリと掴まれてしまった!
すごいパワーで振り払うことが出来ない……!
そうしている間にも、もう1本の足が攻撃を仕掛けてきた!
『サファイア・シールド……!』
Dエナジーの盾を展開し、鋭い爪を受け止める!
閃光が飛び、盾の表面が揺らぐ!
この爪……エナジーにも負けないくらい硬いの……!?
『あ……!』
ヤタガラスの足は3本ある……!
残ったもう1本がグンッと伸びると、機体の真上から攻撃を仕掛けてきた!
マズイ……! このままじゃ頭を潰される……!
『圧縮Dエナジー弾!』
後方のグラドランナから飛んで来るDエナジー弾!
ヤタガラスはそれを足の爪で弾き飛ばした!
あの爪、なにかDエナジーに耐性があるんだ……!
でも、これでわずかに時間は稼げた。
ジュエリーボックスとオーガランスを捨てれば離脱できる……!
ただ、この2つの武器を捨てるともう満足に戦うことも出来ない……。
ええいっ、悩んでる場合じゃあ……!
《ガァァァァァァァァァーーーーーーッ!!》
ヤタガラスの鳴き声……いや、悲鳴!?
なにかがあいつの目に当たって炸裂したんだ……!
巨大な鋼鉄の体が大きくのけぞり倒れていく!
足による攻撃も止まり、ジュエリーボックスもオーガランスも無事で済んだ!
これでまだ戦える……!
ヤタガラスを攻撃した『なにか』は背後から飛んできたけど、一体誰が助けてくれたんだろう?
増援部隊が来たという連絡は入っていない。
『あっ……! あの機体は……!』
振り返った先にいたのは……青い装甲を持つディオス!
あれは葵さんの機体だ!
頭部半壊、手足も一部装甲がはがれて中身が露出し、火花が散っている。
武器は長い銃身が特徴的なスナイパーライフルだけど、あれはもともと葵さんが持っていた武器じゃない。
おそらく壊れて動かなくなった他のDMDから武器だけ拝借したんだ。
『葵さん、ありがとうございます。助かりました』
葵さんから返事はない。
もしかして、人違い……?
いや、間違いなくあれは葵さんの機体だ。
『葵さん……?』
『私は……戦う……! 私は……違う……! 私は……逃げない……!』
同じ言葉をずっと繰り返している。
おそらく、かなりの錯乱状態……。
でも、さっきの狙撃は正確無比なものだった。
葵さんにはまだ戦う力がある。
本当はいけないことなんだろうけど、彼女にはこのまま戦ってほしい。
難しいことはしなくてもいいんだ。
ただ後ろから狙撃してくれるだけで、十分圧をかけられる……!
『さっきみたいなヘマはもうしない……!』
正面から突っ込むだけが戦いじゃない。
アイオロス・ゼロの機動力なら他の戦い方も出来るはずだ!
『いくぞっ!』
腰にマウントしてある2つのシューターから圧縮された炎と雷を放つ!
これは本命じゃなくて目くらまし。
こうしている間に接近し、急に方向転換!
ヤタガラスの背後を取るように立ち回る!
いくら頭が良くとも、いくら動きが速くとも、体の形は鳥!
真後ろに回り込まれればなにも出来まい!
しかし、向こうもバカではないので背後を取らせないように体勢を変えてくる。
そこが狙い目だ……!
私に気を取られている間にグラドランナとディオスから攻撃が加えられる!
『Dエナジーがダメなら実弾ですわ! マグナム弾!』
グラドランナの腰のホルスターから抜かれたハンドガンが大きな音を立てて弾を飛ばす!
しかし、それもヤタガラスの爪によって弾かれてしまった。
単純な硬さも驚異的だ……!
でも、グラドランナはまったくひるんでいない。
マグナム弾を撃ちつつ……ストーク・キャノンもぶっ放し始めた!
圧縮Dエナジー弾がヤタガラスの胴体に直撃する!
『グラドランナの一斉射撃……味わってくださいな』
両手のハンドガン、右腕のジュエリーボックス、頭部のバルカン砲、両肩のミサイルポッド、胸部のDエナジー砲……そしてストーク・キャノン!
後先考えない全力の射撃はヤタガラスも翼を使ってガードせざるを得ない。
そうすると、私への対応も鈍る……!
『もらったぁ!!』
背後からその首筋にオーガランスを突き立てる!
『か、硬いっ!』
今までのモンスターみたいに簡単に貫通しない!
でも、刺さってはいる!
このまま押し込んでやる……!
《ガァァァ……ッ!! ガァァァ……ッ!!》
ヤタガラスが暴れる……!
体を回転させることによって発生する遠心力で、アイオロス・ゼロを引きはがしにかかる!
こんなの鳥の動きじゃない……!
羽ばたいてもいないのになぜか加速する回転の遠心力に耐えられず、アイオロス・ゼロはオーガランスごと吹っ飛ばされた!
『ぐううう……っ!』
ヤタガラスは一度空中に逃れようと翼を大きく広げ、ふわりと浮き上がった。
グラドランナの一斉射撃も終わっているし、高いところに逃げられたら攻撃出来なくなる!
その時、またもやヤタガラスの目が葵さんによって狙撃された!
しかも、さっきと同じ目に当たったからダメージはさらに大きい!
ヤタガラスは背中を下にして落下し始めた。
その真下に潜り込み、勢いよくオーガランスを突き上げる!
今までにない確かな手ごたえが機体に伝わり、槍の穂先が深く突き刺さる!
でも、貫通はしていない……!?
硬すぎる……! いや、軽すぎる……?
確かに今までにない手ごたえだったけど、今はこの巨大な機械の体の全重量がオーガランスにかかっているはずだ。
それにしては軽すぎる……!
こいつは重力を軽減する力でも持っているの……?
マズイ……! 体が浮き上がろうとしている!
このままじゃ抜けてしまう……!
『あああああああああっ!!』
葵さんの声……! そして狙撃……!
貫いている首の反対側に正確に当てている!
おかげで少しずつ槍が食い込んでいるけど、あと一押し足りない……!
『黄堂蘭、一世一代の大勝負! これがグラドランナちゃんトドメのヒップドロップですわっ!』
グラドランナがヤタガラスの頭部に落下してきた!
その衝撃で首が大きくのけぞり……槍の穂先が完全に貫通した!
『や、やった……!』
喜びも束の間、ヤタガラスの全身から煙が噴き上がり、体が赤く発光し始めた。
ピピピピピピ……という危機感を煽るような電子音も聞こえる……。
ま、まさか……!
『ば、爆発する……! みんな逃げてっ!!』
抜くことが出来ないオーガランスを放置し、アイオロス・ゼロを即座に離脱させる。
グラドランナも全速力でヤタガラスから離れ、そもそも遠くにいる葵さんのディオスも後ずさるように距離を取っている。
そして、ヤタガラスの体は……閃光に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます