-62- 桃園百華、現る

 みんなでミーティングルームを出てエレベーターに乗り1階を目指す。

 1階に着いたらロビーを通ってメインタワーの外に出て発着場に向かう。

 発着場はフル回転状態で、出撃するDMDを運ぶ大型輸送ドローンが飛び立つ横で、モエギの社章が刻まれた輸送機が着陸している最中だった。


 その着陸した輸送機から今まさに降りてきたのは、黒いスーツを着た小柄な女性だった。

 小柄だけどピシッとスーツを着こなしていて、髪も首のあたりでキュッと1つに束ねられている。

 そんな引き締まった印象の女性なのに、黒髪の中にピンクのメッシュがちらほら混じっている。

 しかもピンクブラウンみたいな茶髪に近い感じではなく、割と桃みたいなピンクだ。

 人の髪型にとやかくいうことは基本ないけど、彼女の場合は少し似合っていないというか、あまりにも他のファッションに比べて独特な気がする。

 何か事情があるのかな……?


 なんてことを考えていると、彼女の視線がこちらを捉えた。

 私たちの存在をハッキリ認識し、駆け足で近寄ってくる……!


「育美! 久しぶり……!」


「ええ、直接会うのは久しぶりね百華ももか


 その女性は勢いよく育美さんに抱き着いた。

 彼女が桃園百華ももぞのももかさんか……!

 じゃあ、髪の桃色は『桃園』だから染めてるってこと?

 いやいや、いくら何でも名前に桃が入ってるからって髪の一部を桃色にするとは思えない。


 それに会社がそれを許すとは……あっ!

 もしかして、会社主導でやってるとか?

 成績に応じてカッコいい称号を貰える会社ならあり得る……!

 きっと、その人をパッと見でわかりやすくするために見た目から……。


「百華、こちらの方が萌葱蒔苗さんよ」


「あっ……どうもはじめまして、萌葱蒔苗と申します」


 くだらない妄想を中断して、百華さんに挨拶をする。

 すると百華さんはビクッと体を震わせて驚いた後、その場にひざまずいた……!


「も、申し訳ありません蒔苗様! 一番にご挨拶すべきところでしたのに……!」


「えっ!? いや、別にそんなことは……」


「お初にお目にかかります! わたくし、桃園百華と申します! 普段はモエギ・マシニクルの迷宮探査部に所属しておりますが、この度の緊急事態に際し、蒔苗様の指揮下に加わるべくはじさんぜました! ……あっ、さんじました!」


「あ、ありがとうございます……。そのぉ、頭を上げてください。私は確かに萌葱の人間ですけど、そんな『様』をつけて呼ばれるような人間ではありませんし……」


「いえ! 蒔苗様こそ今は亡き大樹郎様の遺志を継ぐお方! 一族の悲願であるDⅡディーツー抹消を成し遂げんとする勇者! 我々『闇を照らす者イルミネーター』は蒔苗様を全力でお支えする覚悟です!」


「う、うぅ……ありがとうございます……。あのぉ、DⅡって何ですか……?」


「あっ、専門的な言い回しでした! 配慮が足らず申し訳ございません! DⅡとは深層ダンジョンのことなのです。深層ダンジョンの英語呼びである『Deepディープ Dungeonダンジョン』からDを2つ取りDⅡと呼んでいます。わたくしは深層ダンジョンと呼ぶよりこちらの方がカッコよく思いまして、好んで使っておりますが……やめた方がよろしいでしょうか?」


「いや、そのままで良いと思いますよ」


 深層ダンジョン……Deepディープ Dungeonダンジョン……DⅡか。

 確かにこれはカッコいいし、私もこれからこう呼ぼうかな?

 って、そんなこと考えてる場合じゃない。

 今なお百華さんは私の前にひざまずいてこうべを垂れているのだ……!


「あの……そろそろ頭を上げてもらえませんか?」


「はい! わかりました!」


 百華さんは気が済んだのかスッと立ち上がった。

 でも、私への尊敬のまなざしは変わらない……!

 それだけ萌葱一族が偉大ってことなのかな。


「えっと、どうしましょう育美さん」


 たまらず育美さんに助けを求めると、育美さんは輸送機の方を指さした。

 輸送機からは今まさにDMDが運び出されようとしているところだった。


「操者の確認が出来たら、次は機体の方を確認しないとね。こっちは私の専門だし、私が説明させてもらうわ」


 最初に運び出されてきた機体は……桃色の分厚い装甲と背負ったキャノン砲が目立つ機体だった。

 色的に百華さんのDMDで間違いないんだろうけど、こんなゴツいDMDを使っているとは思わなかった。


「これはディオス・ロゼオ。今となっては百華専用機なんだけど、本来は『ロゼオエナジー』という新エナジーを運用するための試験機なのよね」


「ロゼオエナジー……ですか?」


「Dエナジーは魔進石から得られるけど、ロゼオエナジー……通称『Rエナジー』は魔桜石まおうせきというまた別の鉱石から得られるの。エネルギー効率はRエナジーの方が良いし、これを武装に転用してもDエナジー以上の効果を得られることも判明してるわ。ただ……魔桜石は魔進石に比べて手に入りにくいのよね。でも、素晴らしいエネルギー源なのは間違いないから、いつか大量に魔桜石が手に入るダンジョンが見つかった時のためにも、ディオス・ロゼオはRエナジーのデータを取り続けてるってわけね」


「なるほど……!」


「試験機と言っても元となったのはモエギの主力量産機ディオスのバリエーション『ディオス・キャノン』だから性能は非常に安定してるわ。Rエナジーのおかげで装甲の割に機動力も高いし、何より馬力がある……! 大型モンスターと取っ組み合いの喧嘩が出来る……というのはちょっと盛りすぎかもしれないけど、とにかくパワー自慢の機体よ」


「それは頼りになりそうです!」


「そりゃそうよ! なんてったって、これをさらに百華が動かすんだからさ!」


 いきなり名前を出された百華さんがビクッと体を震わせる。

 その後、顔を真っ赤にして小さな声で『恐縮です……』と言っていた。

 育美さんがこれだけ褒めるんだから、百華さんの実力は疑っていない。

 あとは葵さんに良い機体があれば、4人チームを組むことが出来る!


「次に葵用の機体なんだけど……あら?」


 育美さんが首をかしげる。

 次に輸送機から運び出されてきたのは、ずんぐりむっくりとした少しレトロ感の漂うDMDだった。

 でも装甲は新品のように綺麗で、淡い水色で塗装されている。

 葵さんが使っていたディオスの色と似てるし、これが葵さんの機体じゃないのかな?


「これ……ポラリスじゃない!」


 育美さんだけでなく蘭や葵さんも驚いている……!

 もしかして、すっごく有名な機体……?

 あ、でも、確かに私もどこかで見たような気が……。


「百華、これどうしたの? 葵の機体は狙撃用のディオスナイパーをお願いしてたはずだけど」


「ご、ごめんなさい育美! ディオスナイパーは他の班の人が持って行っちゃったの! うちの会社は今使える機体は全部出せ出せの勢いで、とにかく首都第七マシンベースまで運んでるからちょっとした手違いで……」


「要するにダブルブッキングしちゃったってことね……。それで代わりにこれを持って来たと」


「うん、そうなんだ。これだけは誰も手を出さなかったから」


「まあ、この機体だけはそれも当然って感じよねぇ。あまりにも荷が重いわ」


 な、なんか本当に重要な機体みたいだ……。

 そして、その理由がわかってないのはこの場で私だけ……?

 ちょっと蘭に聞いてみよう。


「ねぇ、蘭。あの機体ってそんなにすごいの?」


「ええっ!? ポラリスをご存じないっ!? あ、そういえば蒔苗さんは萌葱に関する情報を……って、そういう問題ではありませんわ! 学校の授業でも習いますし、テレビでもネットでもよく特集を組まれている伝説的なDMDですわよ!」


「不勉強でごめんなさい……。見たことはある気がするんだけど、詳しくはしらなくて……」


「……いえ、私も言い過ぎました。ごめんなさいですわ。ただ、私のようにマシンを愛する者にとってこの機体はあまりにも有名だったのです。なぜならポラリスは初めての人の命を使わずにダンジョンを抹消したDMDなのですから。いえ……そもそもDMDという呼び方もこの機体から始まったのですわ。だから、人はポラリスのことを『ファースト・ダンジョン・マシンドール』と呼ぶのです」


 ファースト・ダンジョン・マシンドール……。

 この機体が……最初のDMD!?

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