-99- 血に刻まれた因縁の地Ⅱ〈理解〉

 蒔苗が『黄金郷真球宮』の攻略を続ける中、新潟第三マシンベースの大ホールではアイオロス・ゼロリペア視点のリアルタイム映像が流れていた。

 主催者たる紫苑が裏に下がったことでショーの体裁は完全に崩れていたが、観客たちはあの迷宮王の遺産を受け継ぐ少女の戦いに魅入みいられていた。


「これがアイオロス・ゼロか!」

「報道で見た機体と少し違いますかな?」

「それだけ戦闘と改修を繰り返しているということでしょう」

「すさまじい戦闘能力だ……!」


 進行役もいないので映像を見つつ座席の近い客と語り合う人々。

 これはこれで彼らにとっては有意義な時間であった。


「無人機も今まで見たものの中では一番良い動きをしているな……」

「実験段階の技術とされてきたDフェザーも安定している」

「この場ではあまり大きい声で言えませんが、流石はモエギの技術力と言ったところですかな?」

「よほどのメカニックがサポートしていると見えますな」


 それなりに知識のある客たちは激しい戦闘映像の中から情報を得る。

 しかし、そこまで詳しくない客たちにとってこの映像は出来の良い映画のようであり、その激しいメカアクションに純粋な興奮をいだいていた。


「これをあのドレスを着た少女がやっているのか……!」

「とてもじゃないけど目で追いきれないわ!」

「先ほどの2機は息の合った連携がまるで舞い踊る天女のようだったが、こちらは荒ぶる神とでも言うべきか……!」

「かつての迷宮王の戦い方に近い……いや、もはやそれ以上!」


 蒔苗の姿からこの戦いを想像できた者はいない。

 もっと言えば、あれが本当に萌葱蒔苗なのかという疑いを持っていた者もいた。

 いきなり現れて迷宮王の機体を受け継いだ謎の人物……。

 それが若い女ともなれば、いらぬ憶測も生む。

 しかし、今はこの場にいる全員が確信していた。

 過程はどうあれ、あの少女は迷宮王の遺産を受け継ぐべき人間だったのだと。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



『……見えた! 赤い機体!』


 レベル65地点……紅花はあれから動いてはいないようね。

 ただただ寄ってくるモンスターを迎撃しているだけだ。

 でも、それは正しい。

 1機であの龍もどきに挑むのは無謀!


『紅花! 一緒に藍花の機体を取り戻しに行きましょう!』


 紅花は半分錯乱状態で、声をかけても攻撃を止める気配がない。

 それどころか私やマギアントたちも敵と認識しているのか攻撃を仕掛けてくる!


『各機散開! 距離を取りなさい!』


 マギアントたちを紅花から離し、他のモンスターの相手をさせる。

 その間に私は紅花を落ち着かせないと!

 錯乱状態の攻撃にはキレがない。

 回避しながら話しかけることは可能だ。


『紅花、落ち着いて!』


『ううぅ……! ううぅぅぅ……! 来るな……っ! 消えなさい……っ!』


『私よ! 萌葱蒔苗よ!』


『うぅ……? モエギ……萌葱?』


 攻撃の手が緩む。

 よし、私が来たことを理解してくれたのね。

 マギアントたちの姿は完全に敵だから、攻撃を仕掛けられても仕方ないところはある。

 そのことは水に流して、今はとにかく藍花を……。


『どうしてあなたがここにいるの!? 随分と用意周到なことね……!』


 紅花は銃口をこちらに向ける。

 正気に戻ったんじゃなかったの……!?


『どうせあなたも失敗すると思ってたんでしょ? じゃなきゃこんなすぐには動けない!』


『そんなことない! でも、何かあればすぐ動けるように備えるのが、DMD操者だから……!』


『嘘よ! みんな本気で成功するなんて思ってなかったわ! 叶わぬ夢を追い続ける狂った一族って好き勝手言って……! 私はそう生きるしかなかったのよ! この夢を追いかけざるを得なかった!』


 アンサー・レッドのHi-Deハイドハンドガンからエナジーが放たれる。

 私は反応して回避したつもりだったけど、エナジーは頭をかすめていった。

 やはりゼロとゼロリペアではこういうギリギリの反応速度に差が出るか……!


『失敗よ、失敗! 成功させなきゃ生まれてきた意味がないのに……!』


『失敗じゃない! まだショーは続いてる! 2機のアンサーは破壊されたわけじゃない! まだ戦う力は残っているんだから!』


『でも……』


『でもじゃない! やるべきことは完全機械体の撃破および藍花機の救出! そしてダンジョンコアの破壊! 残るダンジョンはしょせん5レベル分! 今の戦力で十分可能よ!』


 彼女もここに至るまで心無い言葉を言われてきたんだろう。

 なぐさめてあげたい気持ちはある。

 でも、今この瞬間も藍花は苦しんでいる。

 それを救えるのはおそらく私か紅花だけ……。

 ならば、戦う以外の選択肢はない!


『私のことを信じてくれなくたって構わない。でも、今も苦しんでいるあなたの姉妹を救えるのは私か紅花だけなんだよ』


『藍花を……助けないと……』


『そうよ。紅花の力で藍花を助けるの! そして、私は私で藍花との約束がある! だから、何を言われたって私は戦う! たとえ1人でもね!』


『……それは非効率的ですわ』


 アンサー・レッドが銃を下ろす。


『お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。先ほどまでの無礼千万の償いは後ほど必ず致しますわ。でも、今は私の妹を助けるために力を貸していただけませんか……?』


『もちろん! 一緒に戦いましょう!』


 紅花にいつもの調子が戻ってきた。

 私たち2人なら勝率はグッと上がる!


『あ、このアリみたいな黒いDMDは敵じゃないからね』


 マギアントたちも加えて戦力は5機。

 深層ダンジョンを抹消するのに十分な戦力かと言われれば、もしかしたら足りていないのかもしれない。

 それでも私たちはやってみせる。


 それは藍花のためであり、一族の因縁を断つためでもあるけど、単純にこのダンジョンは良い気がしない……。

 残しておいても百害あって一利なし。

 一瞬でも早く抹消してしまいたい。

 そんな強い嫌悪感と危機感が奥に進むにつれて強くなっていく。


『急ぎましょう……!』


 焦る気持ちを何とか抑え、私たちは最奥を目指す。

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