第2話 魔石D=500円

 相変わらず俺は1日1日を生きるのに必死だ。薪拾いとスライムの討伐をどう両立させるかということだ。別のことにもっと情熱を傾ければいいって言われるかもしれないが、一人になることができるのが薪拾いの森の中しかないのだ。


 孤児院に戻れば、ドラクを頭として何かと俺を苛めてくるのだ。まあ、あれだ。人間の集団行動を三人以上で取ると出てくるつまらない習性だ。

 ドラク以外の者たちはまだかわいいものだ。足を引っかけたり、突き飛ばしたり、大人の苛めの陰湿さが無い分いい。オッサンは色々経験したからな、子供はまだかわいいものだ。


 問題はドラクだ。俺の生命に関わってくることが多い。

 北国であるギラン共和国の冬はとても厳しい俺がいる首都ミレーテでもそれは変わらない。その真冬に自分が寒いからと言って俺の布団を取り上げたり、川の魚が食べたいから取ってこいと言って、凍った川に突き落としたり、いや、マジ死ぬし。

 川に突き落としたまま笑いながら去って行く姿をみれば流石の俺でも殺意がわいてくる。

 しかし、お世話になっている孤児院の院長の息子だ。俺の怒りはどこに向ければいい!ってことになるので、なるべくスライム討伐と薪拾いに慢心しているのだ。



『スライムの魔石D=500円になります。課金しますか?』


 おお、久々の当たりだ。今日は惣菜パンとお菓子が買えそうだ。ああ、今日はついている何だかいつも見られない黄色のスライムがいたのでめっちゃ頑張った。


 大体、青いスライムが多いのだが、時々違う色のスライムがいるそいつが当たりスライムだ。しかし、そいつらは木の枝勇者の剣ごときでは、太刀打ちできないのだ。

 仕方がないので魔術を使うことになるのだが、魔石が獲られる確率が半分以下になるだ。なぜなら、俺の魔術が下手くそだからだ。この前なんか森を500メルメートル程を凍らせてしまったのだ。そして、スライムの魔石は脆く崩れさってしまった。だから、俺には木の枝勇者の剣が必要なのだ。


 そして、今回はめっちゃ慎重に魔力を制御することに頑張った。お陰で500円分のご飯にありつけるというものだ。


 500円一体何に使おうか。いや。いざというときのために貯めておくのも悪くない。人生何があるかわからんからな。


 今日はいつも通りのお惣菜パンとご褒美にチョコを買おう。はっきり言って、孤児院では菓子というものが出たことがない。今まで食べた甘い物といえば、さつま芋のような甘い芋か果物を干した物だ。


 北国なので生の果物があまり採れないのか、祭りの日にだけ一人に一個づつ干し杏みたいな物が食べられる。しかし、俺が口にできたのは一回だけだ。年に一度の祭りの楽しみでさえ、ドラクに取られてしまうのだ。


 そして、課金画面から購入画面に変更し何を食べようかと物色する。その間も薪となる木を探しながら画面で検索する。そう、俺は同時進行で2つの事ができるようになったのだ。日頃の努力の賜物だ。


 ああ、やっぱり昔食べた「黒いサンダー」にしよう。これうまいんだよな。ポチリ。

 ポチったヤツは、イベントリーに転送される仕組みだ。本当にどうなっているかさっぱりもってわからんが、イベントリーに届いている。


 イベントリーから取り出し、袋を破りパクリ。うー。チョコだチョコ。やっぱりうまいな。いつの間にか無くなってしまった。もう一個食べたいが我慢だ。

 食べたゴミはイベントリーに入れておくといつの間にか無くなっているのだ。本当にこのシステムはどうなっているんだ?



 そんな、日々を繰り返しているなか、俺も12歳になった。12歳からは孤児院の運営費を稼ぐために魔物討伐に行かなければならない。


 全くもって嫌な予感しかしない。原因はドラクだ。

 ドラクは今年で16歳になる。孤児院にいられるのは15歳までで16歳になれば出ていかなければならないのだが、ドラクは院長の息子だ。いくら歳を取ろうともここを出ることはない。今年からは、魔物討伐の指導員として付いてくるらしい。


 いや。本当の目的はわかっている。俺と同歳にライラという少女がいるのだ。その少女は銀髪青目のかわいい人族の女の子だ。将来は美人になるだろうという容姿をしている。ドラクはずいぶん前から彼女の事を気に入っていた。今年から魔物討伐組に入ることになったことで、院長に頼み込んで指導員という役をかって出たのだろう。


 そう、ライラ。ドラクが必要以上に俺に突っ掛かる原因でもある。ただ、彼女としては同じ歳の子供が俺しかいなかったため、よく話かけていただけだったのだろうが、それがドラクの勘に障ってしまったのだ。


 5歳の子供が畑の虫を見ながら話しているのを邪魔しにくる9歳児ってなんだ?普通は「何の話しているんだ。」って話の中に入ろうとはしないのか。


 本当に嫌な予感しかしない。

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