第66話 エン。アマツより酷いぞ。
ルギアは書類を机の上に置き、窓の外を見る。窓の外には天津が作り上げた街並みが整然と建ち並び、そこを行き交う人々の喧騒が聞こえてくる。
この綺麗な街は戦う事を前提として作られたと言っているのだ。
「高位魔術を回避するためには素早く地下に逃げなけれならない。ここのダンジョンは首都の中に20箇所の入り口がある珍しいダンジョンなんだ。ダンジョンは特殊な空間だからエルフ共の攻撃に耐えきれる構造だ。」
「よし、書類とのにらめっこも飽きたし、エン行くぞ。」
ソルが立ち上がり、剣を身に着け始めた。
「何処へだ。」
「さっきエンが言っていたダンジョンだ。」
いや、それは一人で行くから付いて来なくていい。
「この書類の山の処理をしろ。」
「3日で50階層を攻略して、残り1日ここを手伝ってくれればいい。」
ルギアも立ち上がって、何か用意を始めた。
おい、ただ座っているのに飽きてきただけだろ。それに、なんで俺が手伝う前提なんだ?
「それで決まりだ。決まり。」
そう言っているソルに抱えられ、部屋の外に連れ出された。おい、俺は荷物ではない!
一階の受付に連れてこられ、ルギアが受付の奥の方に呼びかけている。呼ばれて出てきた人物は・・・女性だと思うのだが、とてもたくましい体をしていた。
「3日ほどダンジョンに潜るですって?」
声も幾分低い気がする。赤い髪を高く結っているが、髪がほどけんばかりに振っている。
「無いわ。3日もギルドマスターが留守にするって無いわ。」
「君が居れば大抵の事は解決するだろ。」
力技でなんでも解決しそうだが
「あら、ルギア様にそんなこと言われてしまったら、あたし頑張っちゃう。」
周りの受付の担当者達が青い顔をして震えているのはきっと気のせいだろう。
「うっ。まぁ、程々にな。」
若干、ルギアも青い顔をしてこっちにやってきた。
「ゴルドも相変わらずだな。」
「うるせーぞ!ソル。キャッシーと呼べと言っているだろが!」
あ。うん。本来の性別が垣間見えた気がする。俺はソルに抱えられたままギルドの奥に連れられていく。あれ?
「外に出ないのか?」
「ああ、入り口はギルドの地下にもある。」
先程から気になっていたのだが
「ソル、尻尾がバシバシ当たって痛いのだが、せめて自分の足で歩きたい。」
荷物の様に脇に抱えられているため、足にバシバシと勢いよくソルの尻尾が当たっているのだ。そんなに書類と向き合うのが嫌だったのか?
「おお、すまん。すまん。」
そう言って、脇に抱える持ち方から肩に担ぐ持ち方になった。だから、俺は荷物じゃねぇ!
「で、これはなんだ?」
ダンジョンの入り口に連れて来られたのだが、俺は背負子でルギアに背負われていた。俺は荷物なのか?
「3日しかないからな。戦わなくていいところは駆け抜ける。」
ルギアが背負子を固定しながら話すが4日かかってもいいぞ。
「俺の足が遅いと?」
「いや、運だ。」
「は?」
「アマツとダンジョンに潜ると、まともに進むことができない。」
「ああ、後半に備えて体力の温存をしとかないとな。」
あれか!運が振り切れている事で起きる、Sクラス級の魔物との遭遇か!
「すまん。」
俺が悪かった。ダンジョンに行きたいと思いつかなければよかった。この背負子の乗り心地は最悪だ。背負子を背負ったまま、なぜ、縦横無尽に動けるんだ!壁は走るところじゃない!天井は地面じゃない!
上下に揺さぶられた上に回転Gはダメだ。うっぷ。自分の足で立ちたい。せめて、酔止めの薬を飲んでおきたい。
突然、Gの猛襲攻撃が止んだ。休憩か・・・うっぷ。
「エン。アマツより酷いぞ。」
「15階層でなぜこいつが居るんだ?」
ルギアとソルが何かを言っているが地面が恋しい。
「取り敢えず降ろしてくれ、限界だ。うっぷ。」
何かが『ぐおぉぉぉぉぉぉぉー』と雄叫びを上げているが、頭に響く。不快だ。
「うるせー!頭に響くだろ!『絶対零度!』」
雄叫びを上げている物体めがけて魔力をぶつける。周りの気温が下がっていき、ダイヤモンドダストが辺りを舞い始めた。
「エン。寒い!流石にこれ以上は死ぬ。」
ルギアに言われ、練っていた魔力を霧散させた。ああ、俺一人じゃなかった。
「エンの力を見たことなかったが、これはヤバいな。」
「確かに、まだ成人していなくてコレだ。今、レベルが93だったか?」
「アースドラゴンを一撃だ。そして、こいつは裏階層にしか出てこないヤツだ。」
「裏階層に迷い込んだか?」
「それはないだろう。」
「そうだよな。と、なると・・・エンが引き起こしたことか。アマツ以上だな。」
何か、ルギアとソルが話しているが、気分が悪すぎて全く理解出来なかった。
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