第65話 夜を纏い月の目を持つ君へ
白い毛に覆われた爺さんが俺を見ながら話す。目は見えんが・・・。
「本来のエルフの王はアリス様であったのじゃ。エルフも獣人も人族も全ては神の元では平等だとおっしゃった唯一の方。偉大なるエルフの王になるはずだったアリス様。しかし、同じエルフ族に追われ殺されたのじゃ。残されたのはダンジョンに奥深くに隠された碑文とこの杖のみ。」
「エルフが王となるエルフを殺した?」
「あと、杖と共に言葉を残されたのじゃ。この杖を買うものに言玉を再生するようにと言っておられたそうじゃ。」
そう言って爺さんは透明な丸い玉を出してきて、魔力を玉に込めだした。透明な玉が徐々に白濁してきたと思ったら、女性の声がその玉から流れ始めた。
『こんにちわ。夜を纏い月の目を持つ君もクソ神に選ばれてここに存在して居るんだよね。未来が見える私がそんな君に忠告してあげる。新たな王は危険。殺しなさい。じゃないと君が死んじゃうからね。あと、詳しいことが聞きたいのならダンジョンの最下層に来なさい。君の為にメッセージを残しているから。以上。』
「だそうじゃ。」
「は?」
エルフが神を罵倒しているだと?あの神に全てを捧げたといってもいいエルフが!それもどう見ても俺限定の伝言だった。未来が見えるから忠告する?新の王を殺さないと俺が死ぬ?ダンジョンの最下層ってどこのダンジョンだよ!
「アリス様と同じ黒を纏う貴方にはきっと碑文の意味もわかるはずじゃ。」
ダンジョンの奥にある碑文ってやつか。せめてどこに行けばいいか残せよ。ん?
「俺が黒を持っていると何故わかる。」
今は、キャスケットの上からフードまで被っているというのに
「黒の持つ魔力は独特の波長があるからのぅ。だから、エルフ族は深い色を好んで血を残しているのじゃ。」
そうか、それで白者をエルフとして認めていないのか。
「それで、どこのダンジョンにあるんだ?その碑文ってやつは」
「千年前から存在しているダンジョンじゃ。今で言うと、シャーレン精霊王国とギラン共和国とマルス帝国とラース公国とグローリア国じゃ。」
場所の範囲が広すぎる!どれだけのダンジョンに潜ったんだ。
「はぁ。全部は無理だな。じゃ、杖は貰って行くから、貴重な話をありがとう。これはそのお礼だ。」
俺は爺さんに金と酒を礼として渡す。しかし
「ちと、貰いすぎじゃ。これを持って行くとよい。」
そう言って小さな箱を渡された。振ってみるとカラカラと音がするから何かは入っているみたいだが、開け口が見当たらない。
「時が来れば開く箱じゃ。」
「そうか、時が来なければ開かない箱か。」
ほっほっほっほっ。と言う爺さんの笑い声を背中で聞きながら、屋台巡りを再開した。
本来、王になるはずだったエルフを殺したエルフ族。天津を殺したエルフ族。そして、新たな王は危険だと未来視した黒を持つエルフ。そんな、未来が視えるぐらいなら殺されるなよ。アリス。
ダンジョンか。あと、4日休みがあるから近くのダンジョンを聞いて行ってみるか。
「ダンジョンだ?」
ルギアが眉間にシワを寄せながら書類をめくっているなか、聞いてみた。
「ああ、ここから一番近くて古いダンジョンだ。」
俺は冒険者ギルドの書類が散乱している汚部屋に来ていた。ルギアかソルに聞いたほうが一番早いと判断したからだ。
「エン。いきなりダンジョンだなんてどうしたんだ?」
ソルが聞いてきた。またしても、ギルドマスターの部屋で書類と格闘しているようだ。
「ああ、この前の祭りで露天商の爺さんに教えてもらったんだ。古いダンジョンには碑文があるって、それで行ってみようかと思ったんだ。」
「エン。アマツみたいな事を言うなよ。」
ルギアが頭を抱えだした。そんなに書類処理が嫌なのか?
「なんだ?天津も探していたのか?」
「ああ、真実はとても残酷なことだったと言っていたな。内容は教えてもらえなかったが。」
「ふーん。で、ここから一番近いところは何処だ?」
「この下だ。」
おかしな言葉が聞こえた気がした。
「・・・。あー。聞き間違えたか?この下にダンジョンがあると聞こえたんだが?」
「エン。聞き間違いじゃない。首都はダンジョン『王の嘆き』の上に建っている。」
「え?マジで?それって危険なんじゃないのか?」
「まぁ。あれだ。このダンジョンだから、首都にしたと言っていいだろう。ここはそのうち戦場となることを想定して作られた街だ。エルフ共は必ず過去の栄光を取り戻そうとしてくるだろう。一般人の逃げ道を確保するためのダンジョンだ。」
戦う為の要塞ならわかるが、逃げ道に使用するためのダンジョンだなんて、使い方が間違ってないか?
「いやいや、ダンジョンの方が危険なんじゃないのか?戦いが始まる前に逃げる想定はされてないのか?」
「ああ、エンはエルフ共の戦い方を知らなかったか。あいつらは転移してやって来る。逃げ道を確保する間もなく、高位の魔術を放って来て、蹂躙し、こちらの戦意を奪っていく戦い方だ。」
おふっ、宣戦布告はなしか。
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